2002-03シーズンのアンリは1点及ばなかった
プレミアリーグのアシストキングには基本的に2列目、あるいはウイングが輝くケースが非常に多い。
リーグ発足2年目の1993-94シーズンこそ、当時ニューカッスルのFWアンディ・コールがナンバー1になっているが、初年度はエリック・カントナ(マンチェスター・ユナイテッド)、94-95シーズンはマット・ル・ティシェ(サウサンプトン)と2列目の選手がモノにしている。
97-98シーズンからの4年間で3回もアシストキングになったデイヴィッド・ベッカム(ユナイテッド)は史上最高のクロッサーであり、直近4シーズンで3回輝いているマンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネは右インサイドハーフを主戦場とする。ラストパスが彼らの真骨頂なのだから当然だ。
過去のプレミアリーグで、アシストキングとゴールデンブーツ(得点王)の栄誉を同時に手にした選手はひとりもいない。2002-03シーズンのティエリ・アンリ(アーセナル)はアシスト20でリーグのテッペンに立ったものの、得点数は24。ルート・ファン・ニステルローイ(ユナイテッド)に1点及ばなかった。
しかし、ひょっとすると、ひとりの男が歴史を塗り替えるかもしれない。
ハリー・ケイン(トッテナム)である。10節終了時点で7得点は2位、9アシストは首位。二冠に向け絶好の位置につけている。まだ序盤戦とはいえ、今シーズンのパフォーマンスを踏まえると、ケインは大きな仕事をやってのけそうな気配だ。
ソン・フンミンの存在がアシスト急増の一因に
ケインのボスはジョゼ・モウリーニョだ。守りを大前提とするチーム作りには定評があり、ポゼッションを主体とする敵将が「試合内容で上回っていたのだが……」と唇をかむと、ニヤリとしながら返答する。
「ポゼッションとやらは彼らに差し上げるよ。われわれは勝点をいただいた」
ただ、今シーズンのモウリーニョは、少しだけアプローチを変えてきた。2トップでも3トップでも、昨シーズンまでは全FWが中盤に降りてくるケースもしばしばあったが、今シーズンはケインがポジションを移動した際、他のFWは前線に残って相手DFラインの裏を狙っている。
また、中盤でプレーするケインはライン間を利用してフリーになる動きに長け、ここからビルドアップしたり、一気にラストパスを送ったりする。カウンターが軸とはいえ、トッテナムの色合いは明らかに変わった。
さらに、ビッグチャンスを確実にモノにするソン・フンミンの存在も見逃してはならない。この男のハイパフォーマンスもケインのアシストが急増した一因である。昨シーズンはケインと合わせて29得点・12アシスト。チーム総得点の67・2%に絡み、今シーズンは2人で16得点・11アシスト。その割合は77・8%にも及んでいる。
「アーセナルで一世を風靡したアンリとロベール・ピレスのコンビをすでに凌駕している。お互いの特徴が手に取るようにわかるようだね」
モウリーニョも絶賛するほどだ。
過去3シーズンにおけるケインのアシスト数は2→4→2と少なすぎた。それが現時点で2桁目前なのだから、20アシストも現実的な目標だろう。ちなみにアシスト20は、02-03シーズンにアンリが、昨シーズンにデ・ブライネがマークしたプレミアリーグ最多記録である。記録更新なるか!?
“9・5番” とも言うべき任務もこなしている
中盤でプレーする機会が多くなっているとはいえ、ケインのアタッカーとしての技量が衰えているわけではない。8節のウェストブロム戦では、単純なクロスにヘディングで角度をつけて決勝点を奪っている。相手GKサム・ジョンストンがやや躊躇したとはいえ、瞬時の隙を見逃さない嗅覚はまさに “ナチュラルボーン・ストライカー” のそれだ。
決定力に優れていることはいまさら言うまでもなく、ポストプレーでも数多くのチャンスを創出してきた。この特徴に加え、今シーズンは “9・5番” とも言うべき任務もこなしているのだから、得点王とアシスト王の期待はいやがうえにも高まってくる。
しかも、ケインにかかる負担は少なからず軽減される。ギャレス・ベイルが8シーズンぶりに復帰し、カルロス・ヴィニシウスが加入したからだ。
昨シーズンまでのケインは無理をして出場した結果、古傷のハムストリングや足首の痛みが再発。欠場を余儀なくされて個人タイトル争いから遠のいたが、そのリスクは大幅に減少すると考えていいだろう。
健康体さえ維持していれば、プレーヤーとしての幅が広がったケインは得点王とアシスト王の「二冠」が可能であり、そしてその先には、トッテナム悲願のタイトルが待っている。
さぁ、おいしい獲物をいただこうじゃないか。ケインの “ひとりトレブル” も悪くない。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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