プレミアリーグ史上最高齢の監督
メンバー全員が70代のローリング・ストーンズは、依然としてミュージックシーンのトップランナーだ。命尽きるまで、いやいや、ブライアン・ジョーンズやチャーリー・ワッツと墓場で再開し、「I can‘t get no satisfaction」とシャウトするに違いない。
今年73歳を迎える矢沢永吉は、日本が誇る唯一無二のロックミュージシャンだ。声量もステージ上のパフォーマンスも、キャロルを率いていた約50年前とほとんど変わっていない。むしろ若々しい。
大日本プロレスのグレート小鹿会長は、80歳が目前のいまもリングに上がっている。弱小団体でありながら、今年で創設28年。観客の度肝を抜く過激すぎるデスマッチを考案したり、関本大輔や岡林裕二といったマッスルモンスターを一から育てたり、プロレスに注ぐ情熱はいつだってキラキラしている。
ロイ・ホジソンは74歳でワトフォードの監督に就任した。2017年9月、クリスタルパレスに赴任した際は70歳。プレミアリーグ史上最高齢の監督として話題になったが、みずからの記録をさらに更新した。いやはや凄い!
なにしろ、あのワトフォードだ。12年6月、イタリアの企業家であるポッツォ・ファミリーが買収した後、実に14回(暫定は含まず)も監督の交代を図ってきた。
ジャンフランコ・ゾラ→ジュゼッペ・サンニーノ→オスカル・ガルシア→ビリー・マッキンリー→スラヴィシャ・ヨカノヴィッチ、キケ・サンチェス・フローレス→ワルテル・マッツァーリ→マルコ・シウバ→ハビ・グラシア→キケ・サンチェス・フローレス(再任)→→ナイジェル・ピアソン→→ウラジミール・イヴィッチ→シスコ・ムニョス→クラウディオ・ラニエリ、そしてホジソン。
監督を代えて成功するときもあれば、あえなく失敗するケースも少なくない。シスコ→ラニエリ→ホジソンと、今シーズンも3人目の監督だ。指揮官が代わるたびにゲームプランも変更を余儀なくされるのだから、選手たちはたまったものではない。
「人間だれしも前に進まなくてはならない」
監督というポストを軽視するクラブに、なぜホジソンは興味を示したのか。しかも、ポッツォ・ファミリーとの間には確執がある。
21年前のことだった。
「奇妙なクラブだ」
ホジソンはみずからが監督を務めるクラブ(ウディネーゼ)を批判した報じられた。後にグラナダ、そしてワトフォードも買収することになるポッツォ・ファミリーは怒り心頭に発し、ホジソンを解雇したのである。
しかし、この報道はデマだった。担当者による過度な脚色であることが、後に明らかになった。
諸悪の根源はメディアだが、真偽を確かめず、一時の感情でホジソンを解雇したポッツォ・ファミリーにも責任はある。オーナーとしてあまりにも薄っぺらい。その短絡的な決断は、先述した監督の “検索履歴” が如実に物語っている。
したがって、ポッツォ・ファミリーが監督のポストを打診し、百戦錬磨のイングランド人が受諾した今回の流れは、ひとつのサプライズと表現しても差し支えない。過去の誤解に対する贖罪だとしても、なにをいまさら、だ。
「あの一件はすでに決着している。ポッツォ・ファミリーが謝罪し、わたしも受け入れた。人間だれしも前に進まなくてはならないからね。むしろ、74歳のわたしにチャンスをくれたのだから、彼らには感謝しているよ」
なんというお人だ! あらぬ誤解でみずからのキャリアを傷つけた男を許し、新たなチャンス到来に胸をときめかせている。
また、「引退を表明した覚えはないがね」と、いつでも現場に戻る準備を整えていたことも、言葉の一端にのぞかせた。9ヶ月前にクリスタルパレスを退任した際、「ホジソン引退」と先走ったのは筆者を含めたメディアだけだったようだ。
彼の闘争本能は衰えず、戦力不足が否めないワトフォードで残留というハードミッションに挑む。酸いも甘いも二度三度かみ分けて、さらに四度五度と反芻してきた経験を活かす術も心得ているだろう。しかも決して弱音を吐かない。
74歳にして勇気凛々! ホジソンのフットボール人生は “forever young”である。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第18節(延期分)
ワトフォード対クリスタルパレス
- 配信: DAZN
- 配信開始:2月24日(木)4時30分
- 会場:ヴィガレージ・ロード
粕谷秀樹のNOT忖度
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