冬の移籍は難しい。
異なる環境に飛び込み、すぐに答を出すのは至難の業だ。昨年1月、ポルトガルのスポルティングからマンチェスター・ユナイテッドにやって来たブルーノ・フェルナンデスは大成功しているが、過去にはフェルナンド・トーレス(リヴァプール→チェルシー)やアンディ・キャロル(ニューカッスル→リヴァプール)などのビッグネームが、新しい環境に即フィットできなかった。
この冬、南野拓実はリヴァプールからサウサンプトンにローン移籍した。サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーの分厚く高い壁に抗えず、出場機会が限られていた日本代表にとって、最良の選択肢といって差し支えない。
リヴァプールに比べればピッチに立つチャンスが増え、なにしろサウサンプトンのラルフ・ハーゼンヒュットル監督が、南野の能力を高く評価しているからだ。
ただ、サウサンプトンの調子が芳しくない。2021年は1分けを挟む8連敗を喫するなど、2勝1分10敗と惨憺たる成績だ。降格圏ともわずか7ポイント差と、プレミアリーグの座が危うくなりつつある。
3ヶ月弱で10回も負ければ自信も失う。一つひとつの動きが消極的で、みずからピンチを招くケースも少なくない。成功の可能性が低いロングボールを何度も試みたり、プレッシングが単騎だったり、やることなすことチグハグだ。
絶好調時に比べると、サウサンプトンの歯車は明らかに狂っている。
滅多にボールを失わない
したがって南野も、本領を発揮するまでにはまだ至っていない。
それでも、ピッチに立ちさえすれば、一定のパフォーマンスを披露している。左サイドから危険なエリアに進入し、シュートで、ラストパスで相手守備陣を脅かす。現役当時はリヴァプールのMFとして活躍し、引退後は的確なコメントで一般大衆の信頼を得るダニー・マーフィーも、南野に好意的だった。
「インテリジェンスあふれる好選手。リヴァプールでは継続的に使われず、マッチフィットネスを整えられなかったが、サウサンプトンではより多くのチャンスが与えられるはずだ。期待していいんじゃないかな」
日頃から寸暇なく鍛錬していても、マッチフィットネスは整わない。真剣勝負とトレーニングは別物だ。南野も怠けていたわけではないが、リヴァプールが誇る3トップからポジションを奪うには、あまりにもチャンスが少なすぎた。
しかしサウサンプトンでなら、試合に出場するチャンスはおのずと巡ってくる。定位置を争うダニー・イングス、セオ・ウォルコット、シェイ・アダムズ、ネイサン・レドモンド、ムサ・ジェネポといった面々も強力とはいえ、南野のようにプレッシングが続くわけではなく、フリーランの回数も少ない。
また、28節のブライトン戦では、南野が空けた左のスペースを、左サイドバックのライアン・バートランドが利用していた。連携も整いつつある。
南野は滅多にボールを失わないため、GKや最終ラインからすると託しやすい。パスの預けどころとして、ジェイムズ・ウォード=プラウズとともに機能するのではないだろうか。
フットボール人生の旬はこれから
徐々にではあるが、南野は馴染んできた。世界一のプレー強度を誇るプレミアリーグでも、類稀なインテリジェンスを発揮できるようになってきた。ピッチに立つ機会が増え、表情も晴れやかだ。
サウサンプトンの不振を踏まえると、1ポイントを稼ぐための丁寧すぎるスタイルが足かせになるかもしれない。しかし、リヴァプールを破り、チェルシーと引き分けたことでも分かるように、十分なポテンシャルを秘めている。
プレミアリーグは胸突き八丁。各クラブとも勝負所を迎えた。南野が前からはめてショートカウンター、ウォード=プラウズの正確なFK、CKを南野がダイレクトで合わせる。このようなシーンも頻繁に見られればサウサンプトンの順位は上がり、南野は残留の功労者としてサポーターの大喝采を浴びるはずだ。
そして来シーズン、南野はリヴァプールに戻るのか、サウサンプトンへのローンを続けるのか、はたまた新天地、スペインやドイツに活路を求めるのか。
いま、26歳。フットボール人生の旬はこれからだ。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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