ジョバンニ・ブランキーニ―—。
移籍マーケットにも視線を注ぐファンなら、一度は耳にしたことのある名前ではないだろうか。サッカーエージェント業界の草分け的存在で、これまで数々のビッグディールを成立させてきた敏腕代理人だ。
過去の顧客リストには、ロマーリオ、ロナウド、デメトリオ・アルベルティーニ、マヌエル・ルイ・コスタ、カフーらビッグネームがずらり。65歳となった現在も、ドウグラス・コスタ(バイエルン・ミュンヘン)、フェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)らを顧客に抱える。
また、バイエルンのコンサルタントを経験するなど、サッカー界に絶大なる影響力を誇っている。
日本にも太いパイプを持ち、中田英寿、大黒将志、森本貴幸の代理人を務めた経験も持つイタリア人の超大物エージェントは、今夏の移籍が噂されるボローニャのDF冨安健洋をどう評価しているのか。
日本代表のディフェンスラインを支える22歳の将来を占ってもらった。
ミランは複数回にわたって獲得調査
中田に始まり、トリノの大黒、そしてカターニャ、ノヴァーラでプレーした森本。セリエAでプレーした日本人選手たちの契約を手掛けさせてもらったよ。
だから今も深い縁を感じているんだ、日本サッカー界にね。当然、冨安のことも格別の親しみを持って見守っている。
冨安は稀有な存在だね。私の記憶が確かなら、過去に欧州で活躍した日本人センターバックはほとんどいない。付け加えるならセンターフォワードも、だ。
センターバックとセンターフォワードは特殊なポジション。サイド、真ん中と複数の座席がある中盤と比べ、数に限りがあるからだ。
エージェント目線で言えば、移籍を決める際、そのことは非常に重要なファクターだ。座席数の少なさは当然、スタメン奪取の確率に比例するわけだからね。
欧州で活躍した日本人センターバックがほとんどいないのも、そういった理由が少なからず関係していただろう。
そのセンターバックに加え、サイドバックもこなせる冨安の長所は、レギュラー争いにおけるメリットになる。そのユーティリティ性こそが、彼の最大の強みであり魅力だ。
イタリアにやってくる前から、われわれエージェント業界では冨安の名前は知れ渡っていたよ。評判と実際の評価は別物だが、冨安は前評判の高さをきっちりとピッチで証明してみせた。
ベルギーのスモールクラブ(シント=トロイデン)からボローニャにやってきて1年半。この短期間でセリエAになじんだ適応力の高さも、彼の価値をさらに上昇させた要素の1つだろう。
過去の移籍マーケットですでに注目を集める存在だったが、再度そうなる可能性は大きいね。実際、1月の移籍マーケットでも、ボローニャのもとには多くの興味深いオファーが舞い込んでいたはずだよ。
その1つがミランから届いたものだ。私の知る限り、ミランは複数回にわたって冨安獲得に向けた調査をしている。最終的に1月の獲得が困難と判断し、移籍が成立することはなかったがね。
シティのアケよりずっと良い選手
冨安は個人的にも好きなタイプのディフェンダーだ。優れた技術に加え、高い運動能力も備わっている。その2つの能力を高いレベルで持ち合わせる稀なプレーヤーだね。最高水準のアスリートと言っても過言ではないだろう。ミスもほとんどない。
そして、まだ22歳。若さと実力にあふれた彼の魅力を考えれば、今後、さらに多くの移籍話が浮上しても不思議じゃない。いや、確信に近いよ。ボローニャのもとには今後、多くのオファーが舞い込むだろう。
ただ、このコロナ禍だ。どのクラブも資金的な余裕がない。大金が動く移籍はそう簡単には成立しないだろう。
ボローニャ、そして冨安は、そのことをしっかりと肝に銘じて決断する必要があるだろうね。冨安の去就はボローニャ次第、その側面が強いのも事実だが、互いに決して焦らないこと。それが重要だ。
コロナの状況が少しでも落ち着けば、必ずや違った価値、ソリューションが生まれるはず。今は忍耐力が必要な時期。たとえ1年待っても決して損はしないよ。
近々、冨安の真の価値を反映したオファーが舞い込むことは、難しいと捉えるべきかもしれない。
私が冨安の代理人なら、今夏の移籍には慎重になる。もちろん世界屈指のビッグクラブからオファーが届けば、それはまた別の話と言わせてもらうがね。
ヨーロッパのマーケット事情を鑑みると、今現在、冨安のような将来を嘱望される若いディフェンダーの数はさほど多くない。
当然、優秀ならそれだけ市場価値は高くなる。一例をあげよう。マンチェスター・シティは昨夏、ナタン・アケの獲得に4500万ユーロ(約58億5000万円)もの大金をつぎ込んだ。
個人的にはオランダ代表に名を連ねるその26歳より、冨安の方がずっと良い選手だと思っている。つまり、冨安の実際の市場価値は4500万ユーロをくだらないということだ。
ボローニャは冨安という"金塊"を掘り当てた。経営陣もそれはしっかりと認識しているはずだよ。
私が冨安の代理人なら、とりあえずすべてのビッグクラブに売り込みをかけるだろうね。
最後に、個人的な希望を言うなら、冨安にはイタリアのビッグクラブのユニフォームに袖を通して欲しいと願っている。代理人という私の仕事はさておき、一ファンとしての願いだ。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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