1月の移籍市場で、アーセナルはうまく立ちまわった──。
メスト・エジル(→フェネルバフチェ)やシュコドラン・ムスタフィ(→シャルケ)、さらにソクラティス・パパスタスソプーロス(→オリンピアコス)、セアド・コラシナツ(→シャルケ/ローン)など、構想外になっていた選手を整理できた。
エジルの場合は今シーズンいっぱい週給の全額を、その他の選手もある程度の経済的負担が避けられないとはいえ、アルセーヌ・ヴェンゲル元監督が、そしてウナイ・エメリ前監督が獲得した選手を手放せたのだから、1月の移籍市場は成功といって差し支えない。
ミケル・アルテタ監督も、余計なことに気を遣う必要がなくなった。ようやくピッチに専念できる。
今後はMFエミール・スミス・ロウ、ブカヨ・サカ、FWカブリエウ・マルティネッリ、DFキーラン・ティアニー、ガブリエウ・マガリャンイスといった、アルテタの期待する若手を軸に強いチームが創りあげられていく。
マンチェスター・シティやリヴァプールとは実力差があり、彼らに追いつくまでには時間がかかるものの、名門復活の準備だけは確実に進んでいる、とみていいだろう。
悔いの残る敗北が続いている
さて、アストンヴィラ、リーズ、シティ、レスター……。2月のスケジュールは非常に厳しい。チャンピオンズリーグ(CL)の出場権が得られる4位以内に入るためにも、この4試合で稼げる12ポイントの内、少なくとも7~8ポイントは確保しておきたいところだ。
しかし、いきなりつまずいた。ヴィラ戦の開始2分、ガブリエウ・マガリャンイスとセドリックの連携ミスから失点。その後、気を取り直して猛攻に出たが、4-4-2でしっかり守るヴィラを崩せず、アーセナルは大事な2月の初戦を落としている。
「力強いパフォ-マンスだった。攻守とも圧倒していたわれわれが勝つべき試合だった。しかし、プレミアリーグでは開始早々に失点したり、決定的なチャンスを3~4回も逃したりすると、結果は伴わない」
試合後、アルテタは実に悔しそうだった。
悔いの残る敗北が続いている。前節のウォルヴァーハンプトン戦も、前半追加タイムにダヴィ・ルイスが退場にならなければ、おそらく勝っていた。今節のヴィラ戦も決定機をモノにしてさえいれば、3ポイントを獲得していたに違いない。
早くも10敗目。試合内容は上向いているだけに、この連敗は痛い。
また、アルテタがはじめて指揮を執った19年12月26日のボーンマス戦以降、アーセナルは実に9人もの退場者を出している。エクトル・ベジェリンが「相手に負けたのではなく、自分たちで墓穴を掘っている」と嘆き、アルテタも苦言を呈した。
「精神的に脆い。自分自身をコントロールしなくては……」
今シーズンは、D・ルイスの他にガブリエウ・マガリャンイス、ベルント・レノ、ニコラ・ペペ、グラニト・ジャカの計5選手が退場になっており、リーグ最多という屈辱だ。ちなみにD・ルイスは19年夏の加入以降、一発レッドが3回。いくらなんでも多すぎる。
精神的な余裕も欲しい
悔しい連敗からリーズ戦まで、中1週間だ。心身をリセットする時間がある。アルテタが目指している方向、選手たちの実践力に間違いがないことは、15節チェルシー戦からの5勝2分無敗が証明している。
過密日程でも運動量が大幅に落ちないリーズは難敵だが、時おり生じるスライドのズレをついていけば、複数得点も可能だろう。
そしてファウルすれすれのプレーを受け流す、精神的な余裕も欲しい。ヴェンゲルが率いていた当時からアーセナルは激しいボディコンタクトを必要以上に嫌い、無駄な報復やクレームでみずからリズムを壊すケースも少なくなかった。
リーズ戦も落として3連敗になると、芽生えかけた自信が根底から崩れかねない。公式戦21試合18勝3分無敗(2月7日現在)のシティ、完成度はリーグ屈指のレスターといった強敵との試合が控えているだけに、リーズ戦は全神経を集中して3ポイントを獲らなくてはならない。
多くの監督が「まだ順位表を気にする段階ではない」と語っている。しかし、アーセナルはリーズに敗れると、シティとレスターから1ポイントも取れないと、トップ10からも滑り落ちる。首位との差が20ポイント以上もつき、トップ4も視界に入らなくなる。後ろを振り向くと、すぐそこに降格圏……。
いま、まさに正念場だ。2月は、今シーズンの成否をかけた厳しい闘いが続く。なお、23試合消化時点で10敗したチームがCL出場権を獲得した例は、過去のプレミアリーグにない。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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