“勢い”という点ではスパーズに分があるが
チェルシーとトッテナムによる注目のロンドンダービーだ。プレミアリーグ前節終了時点の3~6位をロンドン勢が占めるため、この試合に副題をつけるのなら「トップ4決戦~ロンドンの陣~」といった感じだろう。
3位のチェルシー(勝点44)と5位のトッテナム(勝点36)には8ポイントの差があるが、実際にどちらが好位置につけているか見極めるには計算が必要となる。すでに23試合を消化しているチェルシーに対し、スパーズはまだ19試合。そのためスパーズが未消化の4試合で3勝すればチェルシーを追い抜ける。
とはいえ、1試合の平均勝点を見ると、チェルシーの「1.91」に対してスパーズは「1.89」だ。さらにイングランドでは「We’d rather have points on board than games in hand(未消化の試合よりもポイントを確保しておきたい)」と言われるように、どうなるか分からない未消化分よりも、ポイントを稼いでいる方が有利と考える伝統もある。
結局のところ、どちらが有利か断言できないが、この試合に勝ったチームが優位に立つのは間違いないはずだ。
では、どちらが勝ちそうなのか? それもまた難しい話だ。今月のリーグカップ準決勝で対戦したときは、チェルシーが2試合ともに完封勝利(計3-0)を収めている。その2試合だけを見れば、就任1周年を迎えるトーマス・トゥヘルのチェルシーに一日の長があるように思う。
だが、リーグ戦の最近の成績を見ると全く別の展開が予想される。アントニオ・コンテが監督に就任した昨年11月以降、無敗(6勝3分け)を維持しているスパーズに対し、チェルシーはトゥヘル政権で初めてリーグ戦4試合勝利なし(3分け1敗)と足踏みしている。
そのチェルシーは、先週末のマンチェスター・シティとの“頂上決戦”に敗れると、ミッドウィークのブライトン戦ではハキム・シイェシュのゴールで先制しながら、後半に追いつかれてドロー決着。試合終盤はどちらに転んでもおかしくない展開だった。
対照的に、スパーズは劇的な勝利で波に乗る。19日のレスター戦では、前半に二度の決定機をゴールライン上でクリアされ、押し込みながらも後手に回る苦しい展開となった。それでも1-2で迎えた79分、左ウイングバックのセルヒオ・レギロンに代えてFWステーフェン・ベルフワインを投入して4バックに移行すると、感動のフィナーレが待っていた。
コンテ体制の初黒星が濃厚となったアディショナルタイム5分、交代出場のベルフワインが同点ゴールを奪ったのだ。そのまま試合終了かと思いきや、ジョナサン・モス主審が最後のワンプレーを許すと、敵のパスを奪ってハリー・ケインのスルーパスから再びベルフワイン。ドラマチックな逆転弾には、それまでクールに決め込んでいたコンテ監督もスタッフと抱き合って歓喜した。
したがって“勢い”という点ではスパーズに分があるが、彼らは敵地スタンフォード・ブリッジでのリーグ戦となると、最近31試合でわずか1勝(10分け20敗)しかしていない。その1勝というのはマウリシオ・ポチェッティーノ政権時代の2018年4月のゲームで、当時チェルシーを率いていたのはコンテなのだ!!
ロンドン勢に強いケインとコンテの“思い人”
そんな因縁深い両者の対戦で注目すべきはストライカーだろう。
スパーズの絶対的なエースであるFWケインは、シーズン序盤こそ不発が続いたがリーグ戦では最近5試合で4ゴール。前述のレスター戦でもコンディションの充実ぶりを見せつけて1得点1アシスト。前半41分にも、シュートこそ外してしまったが、長い距離を駆け抜けてゴールまで迫るシーンがあった。
昨夏のEURO2020でもグループステージ3試合で無得点ながら、決勝トーナメントに入ると3戦連続の計4ゴールと主将としてチームを引っ張っていたように、コンディションさえ上がれば間違いなく結果を残すのだ。
ロンドンダービーに強い彼は、プレミアでのロンドン勢との対戦は65試合で39ゴール。元アーセナルのティエリ・アンリに次ぐ記録を持っている。ただし、宿敵アーセナルには14試合11ゴールを決めているが、チェルシー戦は13試合4ゴールと湿りがちで、カップ戦を含めるとチェルシー戦は7試合もゴールから遠ざかっている……。
一方、チェルシーのFWロメル・ルカクはパフォーマンスが気になる。昨年末のチーム批判ともとれる発言によって一時はメンバー外になるも、最近はスタメンに復帰している。だが、やはり本領発揮できておらず、直近のブライトン戦では80分まで出場してボールタッチ数はわずかに18回。先週末のシティ戦もフル出場しながら20回に留まった。過去2シーズンを過ごしたインテル時代の90分毎に「36タッチ」と比較するとずいぶんと寂しい数字だ。
そうなると、やはりコンテの言葉が思い出される。インテル時代にルカクを指導したコンテは昨年9月、元教え子についてイタリアの『スカイ・スポーツ』のインタビューでこう語っていた。
「彼は非常に明確なストライカーだ。ボックス内では危険な選手だし、低い位置からスタートしても非常に速い。ターゲットマンをこなし、低い位置からも走れる選手は稀有だ。チェルシーは、まだ彼の使い方を理解していない」
事実、インテル時代には公式戦95試合で64ゴール17アシストの数字を残していたルカクだが、今季のチェルシーでは23試合で8ゴール2アシスト。1試合毎のゴールに絡む回数が半減しているのだ。だからこそコンテは、今のルカクを見て歯がゆく思うのだろう。そして今回の対戦に特別な思いを馳せるはずだ。
古巣対戦となるコンテは、16年夏にチェルシーの監督に就任すると1年目からリーグ制覇を果たし、2年目にはFAカップを制した。プレミアではペップ・グアルディオラに次ぐ歴代2位の勝率67.1%を誇った。それでも2年目のリーグ5位という成績、そして首脳陣との確執により18年7月に解任されたのだ。
だが、コンテにも言い分はある。彼は2年目を迎える際、クラブに2名の選手補強を求めたのだが聞き入れてもらえなかった。その2名とは、一人がフィルジル・ファン・ダイク(当時サウサンプトン)で、もう一人はルカク(当時エヴァートン)だった。
さて、コンテの“思い人”は恩師の前でどんな働きをするのか? トップ4決戦となるロンドンダービーに注目だ。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
配信情報
プレミアリーグ第23節
チェルシー対トッテナム
- 配信: DAZN
- 配信開始:1月24日(月)1:30
- 解説:水沼貴史 実況:野村明弘
- 会場:スタンフォード・ブリッジ
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