ユナイテッドの選手たちを見直した
申し分なかった。今シーズン最高の出来、といって差し支えない。プレミアリーグ第15節、マンチェスター・ユナイテッドは本拠オールド・トラッフォードでクリスタルパレスに1-0の勝利。ラルフ・ラングニック新監督は初陣を飾った。
ブルーノ・フェルナンデスとジェイドン・サンチョがプレスする。守備面では貢献できないといわれたクリスティアーノ・ロナウドが、攻守の切り替えを疎かにする傾向のあるマーカス・ラッシュフォードも呼応する。センターバックのヴィクトル・リンデレフが高い位置を取り、ボールを回収した。
なんだとっ!? ユナイテッドが連動しているじゃないか!? 夢か現か幻か、ピッチ上の風景は新鮮で、オールド・トラッフォードのボルテージは試合開始とともにMAXに達した。
ラングニックが指揮官なのだから、ハイプレス・ハイテンポは想定していた。しかし、監督就任の公式発表からわずか5日間で、チーム練習をする時間がわずか1日しかないまま、さらにアーセナル戦から中2日という厳しい条件にもかかわらず、ラングニック流が早くも垣間見られた。
「やればできるじゃないか」
ユナイテッドの選手たちを見直した。戦略も戦闘意欲も、なにもなかったオーレ・グンナー・スールシャール前体制下とは、比べものにならない上質なパフォーマンス。しかも、ダビド・デ・ヘアが目立たない。今シーズン、度重なるファインセーブでユナイテッドを救った名GKは、珍しく手持ち無沙汰だった。
ラングニックが用いる基本陣形は4-2-2-2である。最前列~3列目が連動しながら六角形を創り、なおかつ同サイドに圧縮しながらボールを奪い取る。
当然、最終ラインもコンパクトな陣形を保持するためのポジショニングが求められ、低すぎるライン設定が批判されてきたリンデレフとハリー・マグワイアの両センターバックも、相手陣内でプレーするケースが多かった。
また、ボールサイドに最も近い選手が第一守備者となり、その動きに合わせて六角形を維持しようとする基本戦術を、ある程度は実践できていた。ラングニックがクリスタルパレス戦終了後に語ったように、「選手のレベルは非常に高い」。
ヤングボーイズ戦後は怒りを…
さて、心肺機能に大きな負荷がかかるラングニック流では、選手層の拡充もキーファクターである。だからこそ、チャンピオンズリーグ(CL)グループステージ最終節のヤングボーイズ戦に出場した選手は、新監督にアピールする必要があった。
しかし、及第点は攻撃のテンポを整えようとしていたフアン・マタ、最終ラインの背後を的確にカバーしたGKディーン・ヘンダーソンのふたりだけだ。ネマニャ・マティッチはリスキーなボールコントロールでピンチを招き、ドニー・ファン・デ・ベークはクリアすべき場面でつなぎ、失点の原因を作った。
「腹立たしい形だった。なぜ、あの距離でパスを選んだのか。ヤングボーイズに狙われていたのは、試合展開から判断しても明らかだ」
試合後、ラングニックも怒りを隠さなかった。
そしてアーロン・ワン=ビサカは、その評価を大きく落としたといって差し支えない。ドリブルが流れたり、フリーでもトラップできなかったり、ボールコントロールが雑すぎる。右サイドバックの定位置を争うディオゴ・ダロートが、ラングニック流に高い適応能力を示したため、スールシャール体制下とは優先順位が逆転するのではないだろうか。
さらに、先発出場したMFアマド・ディアロ、FWアンソニー・エランガといった若手(ともに19歳)が前を向いて勝負せず、67分に投入された17歳のFWショラ・ショレティレも無難なバックパスばかりで、ラングニックの期待には応えられなかった。
しかも、前線と中盤が連動しない。CBは高い位置を取らない。六角形を作れず、同サイドに圧縮するシーンはほとんどなかった。
グループ首位でラウンド16進出が決まっており、レアすぎる先発メンバーの4-1-4-1も影響したとはいえ、ユナイテッドは精彩を欠いていた。ボクシングであればスプリット・ディシジョンではなく、3人のジャッジすべてがヤングボーイズの判定勝ちを宣告したに違いない。
経験を積ませる見事なマネジメント
チーム内で戦術理解度の差があるのか、前監督の愚策(ローテーション拒否)によって控えのマッチフィットネスが整っていなかったのか、さまざまな理由が考えられるが、縦にボールが出ず(出せず)、下げては追い込まれるの繰り返し。ヤングボーイズ戦ではこれといった収穫を得られなかった。
C・ロナウド、B・フェルナンデス、デ・ヘア、サンチョ、ラッシュフォードなどの主力をベンチにも入れず、ラングニックは週末のノリッジ戦に備えた。35歳のベテランGKトム・ヒートンにCLデビューのチャンスを与える気配りも見せた。
また、脳震盪から復帰後初のプレーを無難にこなしたルーク・ショーに代わり、61分に19歳のDFテデン・メンギを、試合終了間際にはMFチャーリー・サヴェージとジダン・イクバル(ともに18歳)も投入。経験を積ませる見事なマネジメントだ。スールシャールでは考えつかない。
ただ、ヤングボーイズ戦は看過できないほど低調だった。一朝一夕にしてラングニック流が浸透するはずはないものの、彼の基本となるプレッシングの意欲、攻守の切り替え、連動性のいずれもが、あまりにも物足りなかった。
次戦は11日(現地時間17時30分キックオフ)のノリッジ戦だ。ヤングボーイズ戦ではベンチから外れた大半の主力が戻ってくる。プレミアリーグでは2試合連続のクリーンシートなるか!? 大量ゴールは期待できるのか!?
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第16節
ノリッジ対マンチェスター・U
- 配信: DAZN
- 配信開始:12月12日(日)2:30
- 解説:渡邉一平 実況:永田実
- 会場:キャロウ・ロード
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