ロナウドとサンチョは絶対に必要だったか
マンチェスター・ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督は恵まれている。
「そうだよな。重要な試合で負け続けても、クビがつながっているのだからね」
そのとおりだ。プレミアリーグ第10節のトッテナム戦で奏功した3バックも付け焼刃で、戦略・戦術をチームに落とし込んでいたとは思えない。そんな芸当ができるのなら、いまごろひとつやふたつのメジャータイトルを獲っていたはずだ。
なにしろ、アーロン・ワン=ビサカ、ハリー・マグァイア、ブルーノ・フェルナンデス、エディンソン・カバーニなど、近年の補強がうまくいっていたからだ。
しかし、失敗例も少なからずある。いまのところ、アレックス・テレスはルーク・ショーの刺激剤でしかない。ドニー・ファン・デ・ベークはスールシャールになぜか冷遇されている。そしてクリスティアーノ・ロナウドとジェイドン・サンチョも、はたして絶対に必要な戦力だったのか。
ロナウドは生まれながらにして千両役者だ。チャンピオンズリーグ(CL)では開幕節から4戦連続ゴール。2節のビジャレアル戦、3、4節のアタランタ戦で劇的なゴールを決め、ユナイテッドに貴重なポイントをもたらした。
ただ、プレスの強度や走行距離が不足しているため、彼を前線の軸に据える1トップは難しい。運動量豊富なカバーニをパートナーに起用する2トップがひとつの解決策とはいえ、今度は2列目のタレントが出場機会を失う。
サンチョ、マーカス・ラッシュフォード、ジェシー・リンガード、メイソン・グリーンウッドなど、ユナイテッドの2列目は宝の山だ(アントニー・マルシャルは忘れよう)。彼らのドリブル、スピードが効果的な並びは4-2-3-1、もしくは4-3-3であり、この陣形だとロナウドの運動量不足がネックになる。
監督がサンチョの不振を “アシスト”
ロナウドの復帰にはサー・アレックス・ファーガソンが深く、深~く関与していたと伝えられている。恩師の仲介を、スールシャールは受諾するしかなかった。その気持ちはよく分かる。
しかし、いまでは現場から退いている元監督の要求に現監督が応えるとは、なかなか不思議な図式である。しかも現在のユナイテッドは、ダビド・デ・ヘアを除いてだれひとりファーガソンの薫陶を受けていない。
スールシャールの求心力は一気に低下した。監督がコントロールできていないのだから、序盤戦の不振は当然だ。ロナウドのゴール量産を、喜んでばかりもいられない。
サンチョも同様である。才能豊かな若者であることは認めるものの、7300万ポンド(約109億5000万円)という巨額の移籍金を彼ひとりに注ぎ込むのではなく、人材難の中盤センターに使うべきだった。
しかもスールシャールは、サンチョを左サイドで起用している。ドルトムント時代の大半は右サイドで光り輝き、スールシャールも「左サイドに偏りがちな攻撃のバランスを整えるため」と、獲得の理由を明かしていた。なぜ、右サイドで使わないのだ!?
また、ユナイテッドは攻守が分断されがち。高度な組織力がなく、連携で崩していくタイプのサンチョには適していない。この先、プレミアリーグのリズムに馴染みさえすれば、もともと能力は高いだけに真価を発揮するだろうが、序盤戦の不振は明らかにスールシャールが “負のアシスト” をしている。
昨シーズンまでの戦力にロナウド、サンチョ、ラファエル・ヴァランを加えながら、プレミアリーグ5勝2分3敗、CL2勝1分1敗、リーグカップは3回戦敗退……。この数字がユナイテッドの現状で、スールシャールの限界だ。
冨安の獲得を強く進言した理由
大型補強が実を結んでいないユナイテッドに対し、アーセナルはすべての新戦力が監督の、サポーターの期待に応え、基本的に底意地の悪いイングランドのメディアも絶賛している。
アーロン・ラムズデール、冨安健洋、ベン・ホワイト、ヌノ・タヴァレス、アルベルト・サンビ・ロコンガ、そしてローンから完全移籍になったマルティン・ウーデゴールは、いずれも21~24歳のヤングガンだ。ミケル・アルテタ監督みずからが獲得を希望し、フロントに強く訴えた。
ユナイテッドのように、元監督の顔色をうかがったわけではない。
新戦力の年齢から、3~5年先を見据えた補強であることは間違いなく、アルテタとフロントが長期的展望に基づく人選を進めた結果といって差し支えない。
マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督も、アーセナルを高く評価するひとりだ。
「開幕から3連敗したとき、多くの人が疑った。でもね、まだフルスカッドじゃなかったんだよ。主力のケガが癒え、彼らを使えるようになってからは、見違えるほどのパフォーマンスだ。アーセナルが優勝争いに加わって来ても驚かないよ。アルテタと一緒に仕事をした経験のある私が言うのだから間違いない」
守備時の基本陣形は4-2-3-1だが、攻撃に転じると3-2-4-1に可変する。カギを握るのは冨安だ。3バックの右でポゼッションに貢献しつつ、ボールがファイナルサードまで入った場合はさらにポジションを上げ、中盤右サイドからフィニッシュに絡むケースも頻繁に見られる。
これはアルテタ監督が右サイドに求めていた動きであり、だからこそ冨安の獲得を強く進言したのだろう。
「理想が独り歩きしている。もっと現実を見るべきだ」
監督就任後、アルテタには多くの批判が降り注いでいたが、決してあきらめずに弱音も吐かず、みずからのフィロソフィーであるポゼッションを基軸に、魅力的なチームを創ろうとしている。
スールシャールはなにも考えず、選手個々の能力に委ねて無駄な3年を過ごしてきた。
今シーズンの幕が閉じたとき、どちらが上位にいるかは想像に難くない。もっとも、スールシャールが監督の座にとどまりつづける保証はどこにもないのだが……。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第11 節
マンチェスター・ユナイテッド対マンチェスター・シティ
- 配信: DAZN
- 配信開始:日本時間11月6日(土)21:30
- 解説:戸田和幸 実況:野村明弘
- 会場:オールド・トラッフォード
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