エグいタックルに怯まなかった小兵
今シーズンのプレミアリーグにおいて、ウェストハム、レスター、クリスタルパレス、バーンリー、ブライトン、そしてノリッジとブレントフォードが、トップチームにブラジル国籍の選手を擁していない。
マンチェスター・シティはエデルソンとフェルナンジーニョ、ガブリエウ・ジェズスを擁し、リヴァプールにはアリソン、ファビーニョ、ロベルト・フィルミーノが所属している。プレミアリーグとチャンピオンズリーグのダブルを狙う両チームにとって、必要不可欠な戦力だ。
また、マンチェスター・ユナイテッドではフレッジとアレックス・テレスが健闘し、トッテナムのルーカス・モウラとチェルシーのチアゴ・シウヴァもいい味を出している。
さらに、アーセナルはマガリャンイスとマルティネッリという “ふたりのガブリエウ” が輝き、アストンヴィラのドウグラス・ルイス、エヴァートンのアラン、リシャーリソン、リーズのラフィーニャなど、多くのチームでブラジル人が活躍している。
プレミアリーグとブラジル人の関係は、1995-96シーズンに始まった。コヴェントリーのイサイアスからだ。しかし、このFWはイングランドの環境に馴染めず、本領を発揮できないまま退団。2シーズン計12試合出場・2得点と惨憺たる結果に終わった。
「食事がまずい」「1年中、曇っている」「人々が素っ気ない」
ブラジル人がイングランドを嫌う理由に、この三点がよく挙げられる。たしかに食事はまずい。食文化にすぐれた日本やイタリアに比較すると、「なんなんだこの味付けは!?」と、料理人のセンスを疑いたくなる。
仕事やプライベートでイングランドを訪れたとき、筆者は日本料理屋やイタリアン・レストラン、あるいは中華料理を必死に探す。「きょうはコンビニですませるか」とは決してならない。
しかし、天候や人々の性格は、うまくいかなかった際のブラジル人(ラテン系)が用いる言い訳だ。郷に入りては郷に従えの諺が世界中にあるように(英語ではWhen in Rome do as the Romans do)、環境適応能力の低さを盾にするのは、いささか滑稽である。
もちろん、ロンドンは地方都市に比べると生活しやすい。ショッピングモールや交通網が整備され、英語に不自由でも暮らしていける。
それでもジュニーニョ・パウリスタは、フットボール以外の娯楽が乏しすぎるノースイーストのミドルズブラで、サポーターのハートをがっちりつかんだ。しかも、携帯電話の普及率が低く、ソーシャルメディアも存在しない、いまから30年近くも前に──だ。その努力は並大抵のものではない。
165cm・58kgの小兵ながら、ジュニーニョはプレミアリーグ特有のエグいタックルにも怯むことなく、数多くのチャンスをつかんだ。残念ながら彼の奮闘は実らず、ミドルズブラは96-97シーズンの最終節で降格が決まったとはいえ、ジュニーニョが献身的だったことはだれもが知るところだ。
ロナウジーニョは契約寸前だった
ジュニーニョの例をみるまでもなく、やはりチームのためにどれだけハードワークできるかが成功のカギだ。
アーセナルの無敗優勝(03-04)に貢献したジウベルト・シウヴァとエドゥ、豊富な運動量でリヴァプールの中盤を支えたルーカス・レイヴァ、チェルシーを率いていたジョゼ・モウリーニョ監督のプランに忠実だったラミレスとウィリアンなど、メディアや選手間で高く評価されたブラジル人は労を厭わないタイプばかりである。
さて、一線を画すとまではいわないものの、彼らとロナウジーニョは同タイプではない。ブラジル代表やバルセロナにタイトルをもたらした稀代のアーティスト。運動量ではなく、センスで見せるタイプだ。
「契約寸前だった。合意には至っていたのだがね。当日、彼がすっぽかしたんだよ」
アレックス・ファーガソン(元ユナイテッド監督)は、いまだに納得していない。契約当日、ロナウジーニョのエージェントから、「今回はなかったことにしてくれ」と連絡が入り、交渉成立目前で破談に終わったという。
ユナイテッドとロナウジーニョが急接近したのは、03年の夏だった。ウェイン・ルーニーとの2トップ実現まで、ファーガソンはあと一歩のところまで漕ぎつけていたのだが……。
ロナウジーニョは自由人だ。規律にうるさいファーガソンと良好な関係を築けたのだろうか。プレミアリーグ特有のゴツゴツしたプレー強度にうんざりしても、ルーニーやパク・チソン、ダレン・フレッチャーにサポートされ、そのセンスを存分に発揮したのだろうか。
なお、ユナイテッドはロナウジーニョに逃げられたため、クリスティアーノ・ロナウドに方向転換したともいわれている。人生とはわからないものだ。
いま、リヴァプールがリーズのラフィーニャとリンクされている。アントニー(アヤックス)やルーカス・パケタ(リヨン)、ダヴィド・ネレス(シャフタール)なども、プレミアリーグのクラブがレーダーに捉えはじめている。
また、レアル・マドリードで答を出しているヴィニシウス・ジュニオール、エデル・ミリトンとロドリゴも、財力にすぐれたシティやチェルシーが食指を伸ばしたとしても不思議ではないタレントだ。
プレミアリーグとブラジル人の関係は、時代の経過とともに濃密になっていく。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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