いよいよ2021-22シーズンのセリエAが始まるね。22~24日の3日間にわたって予定される開幕カードでは、昨シーズンの覇者がトップで登場する。
22日にホームでジェノアと対戦するインテルだ。今回は私の古巣でもある、そのインテルの新シーズンを占ってみたい。
インテルと言えばやはり、まず監督交代に触れないといけないね。
優勝クラブが指揮官を代えて翌シーズンに臨む。世界のサッカーシーンでもかなりレアなケースだが、アントニオ・コンテが11シーズンぶりのスクデット(リーグ優勝)を置き土産にチームを去ったのは周知のとおりだ。
フロントとの間に生じた亀裂が原因と聞いているが、勝負に徹する強烈なパーソナリティーでチームをまとめ上げたコンテだ。その損失は決して小さくない。
当然、後を継ぐのは大変な任務。その極めて高いミッションに挑むのが、ラツィオから引き抜かれたシモーネ・インザーギだ。彼にとってはステップアップだが、重圧のかかる挑戦となるだろう。
選手の立場からすれば、監督交代でトレーニング方法がガラッと変わる。監督との関係性においても、昨季までとはまったくの別物となる。
シモーネはそんな状況を踏まえ、まず選手との関係をしっかり構築すること。そしてコンテとはまた違った雰囲気作りをすることが重要だろう。
ハキミの代役は世界中を見渡しても…
戦力だけで言えば、昨シーズンからさほど大きな変更はない。従って現時点では少なくとも、連覇を狙えるだけの陣容は整っていると言える。
確かにアクラフ・ハキミ(写真)を失ったのは痛手だ。パリ・サンジェルマンに移籍したこのモロッコ代表は、コンテが徹底させたカウンター戦術の中で、それは重要な役割を果たしていた。絶対不可欠な存在だったと言っていい。
クラブの財政危機により放出を強いられた形だが、幸いにも、主力クラスの流出は今のところそのハキミだけ。懸念された大量流出には至っていない。何とか踏みとどまっている。
もちろん、ハキミはあれほどの高値(推定約92億円)が付いた選手だ。穴を埋めるのは、決して容易な作業ではない。
ハキミが務めた右ウイングバックの後任に、多くの新戦力候補が挙がるのも当然だ。簡単には絞りきれないのだ。
最新の情報では、カリアリのナイタン・ナンデスが浮上しているみたいだね。
カリアリに所属するこのウルグアイ代表MFは昨季こそサイドでプレーしていたが、もともとはインサイドの選手。タイプはハキミとまったく違う。だから例え評判の良いナンデスを獲得できたとしても、私は手放しには喜べない。
そもそも"穴埋め"という捉え方自体、過ちがあるかもしれない。ハキミと同レベルの選手は、世界中を見渡してもそうは見つからない。いや、いないと言っていい。
ハキミ流出によるマイナス影響を最小限に止めるためには、むしろ別の方法を探す方が利口だろう。システムや戦術変更といったね。
それよりも重要なことは、これ以上の主力流出を防ぐこと。とくにディフェンス陣。昨シーズンもそうだったように、インテル最大の強みはなんと言ってもその強固なディフェンス力にある。
今のところ最終ラインに関して移籍の噂は聞こえてこないが、ボランチを含めた守備陣の解体だけは、なんとしても避けたいところだ。
強靱なフィジカルを持つ32歳のFW
なかにはゴールキーパーを問題視する人もいるようだね。
長年にわたってインテルのゴールマウスを守る(サミル)ハンダノヴィッチも、気がつけば37歳。加齢による衰えを危惧されるのも無理はない。
ただ、彼に関しては心配無用だ。年齢的な衰えは微塵も感じさせていない。あと2~3年は高いパフォーマンスを維持できると見ている。
決して口数が多いタイプではないが、存在感は抜群。彼はピッチ外でも重要な役割を果たしているよ。
絶対に流出を阻止すべき存在で言えば、むろんロメル・ルカクもそのうちの1人。昨季のアタッカー陣はなにしろ、そのルカクとラウタロ・マルティネスの2人だけで支えていたようなものだからね(※このインタビューはルカクのチェルシー移籍発表前に実施)。
欲を言えば、昨シーズン計41ゴールを叩き出したこの最強2トップに続く第3、あるいは第4の存在が出てきてほしいものだ。
3番手は、まぁ、アレクシス・サンチェスでもいいかもしれない。では、4番手は? 22歳のアンドレア・ピナモンティの名前が挙がるが、インテルの控えフォワードとしては物足りなさが否めない。
私が強化担当だったら、ラツィオのフェリペ・カイセドを獲りに行くだろうね。32歳のこのコロンビア人は強靱なフィジカルを持っているし、テクニックも申し分ない。
ルカク、マルティネスがケガや出場停止などで欠場を強いられたときなどは、立派に代役を務めあげる実力を持っている。それくらいレベルの高い選手だよ。
ミランを退団したハカン・チャルハノールを迎え入れたのは理にかなった補強だ。気の毒なことに、今季さらなる活躍が期待されたクリスティアン・エリクセンが、先のEUROの試合中に心肺停止のアクシデントに見舞われた。幸いにも一命を取り留め、すでに回復しているが、いつ復帰できるかはまったく見えない。
チャルハノールはエリクセンの代役として獲得された格好だが、まったく異なるタイプのアタッカーだ。大きな魅力はあの多彩なキックで、貴重なプレースキッカーとしてチームに上積みをもたらせるだろう。
クラブ間の実力差がさらに縮まる
では、インテルの脅威となるライバルはどこか。
真っ先に挙げたいのは、ユヴェントス。そもそも単純に比較すれば、昨シーズンもインテルをしのぐ戦力を有していたと思う。
なにより選手の選択肢が豊富。2年間の休息を経て、指揮官にカムバックしたマッシミリアーノ・アッレグリなら豊富な経験を生かし、上手く手駒を使いこなせるはずだ。そして勝負に徹する集団を再び作り上げることだろう。
ミランも面白い。潤沢な戦力を抱えているとは言わないが、悪くない陣容だ。
チームを率いるステファノ・ピオリ監督の戦術は、ショートカウンターが主体。前線からの激しいプレスでボールを奪って縦に仕掛けるサッカーだが、それをきっちり体現できるだけの選手が揃っている。
不安要素は技術面ではなく、むしろ精神面。というのも、今季は有観客での開催が見込まれている。ミランは若い選手が多いチーム。プレッシャーのない無観客の中で伸び伸びプレーしていた若手が、これまでと同じように実力を発揮できるか。未知数な部分はある。
あとは昨季3位のアタランタだ。彼らのことを、もう「サプライズ」枠に組み込む人はいないだろう。
田舎のスモールクラブだが、すっかり上位争いの常連だ。ナポリも戦力だけで言えば強力。優勝争いに食い込める実力を備えている。
首都クラブのローマとラツィオは、ここまで挙げた4チームと比べると、少し力は落ちるかな。
マウリツィオ・サッリが新監督に就任したラツィオは、攻撃的なサッカーを展開するだろう。期待は決して小さくない。ただし、優勝争いを演じるかと聞かれたら……。現時点ではクエスチョンマークが付くね。
モウリーニョの監督就任で話題をさらっているローマも、それなりの成績は収めそうだ。
なにしろ強固な守備組織を築き上げるモウリーニョの手腕は天下一品。ローマでも堅守をベースにしぶとい戦いを見せるはずだ。大崩れするとは考えにくい。
課題は攻撃面。期待を一身に背負う点取り屋で、35歳と高齢のジェコがシーズン通してどこまで働けるか。それがチームの浮沈の鍵を握りそうだ。
9シーズン続いたユヴェントスの一強時代にようやく終止符が打たれたセリエA。クラブ間の実力差はここにきてさらに縮まっている印象だ。今シーズンも昨季同様、白熱した戦いが期待できるんじゃないかな。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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