2021-22シーズンのセリエA開幕まで3週間を切りました。合流が遅れていたEURO参加者たちもバカンスを終え、続々と各チームに戻ってきています。
クリスティアーノ・ロナウドもその1人。去就に注目が集まるなか、契約をあと1年残しているユヴェントスで再始動しました。
今回はそのクリスティアーノを擁する、新シーズンのユヴェントスを占ってみましょう。
最大のトピックは、やはりマッシミリアーノ・アッレグリの監督復帰でしょう。2018-19シーズン以来、2年ぶりのカムバックです。
19年夏に解任同然の形で袂を分かった指揮官を呼び戻す。フロントのその決断には、賛否両論あってしかるべきです。
内容は二の次で、結果が第一
個人的には賛成ですよ。アッレグリは現時点で考えうるベストチョイスと感じたからです。
ご存知のように、アンドレア・ピルロを新監督に抜擢した昨季のユーヴェはセリエA10連覇を逃しました。その戦いぶりはシーズンを通して不安定でしたね。
この結果を受け、ピルロはわずか1年で解任。レジェンドの首をあっさり切らざるをえないほど、優勝を逃したショックは大きかったのです。
方針が定まらず、先行きが見えない状況、そしてクラブに蔓延する失望感。ファンだけでなく、クラブ全体、フロント陣もみな、絶望の淵に突き落とされた印象でしたよ。
そんな状況を劇的に好転させられる監督。はたしてアッレグリ以上の適任者はいるでしょうか?
アッレグリはなにしろ、ユーヴェを率いた2014-15シーズンから5季連続でスクデットを獲得しています。いわば勝つ術を知る、優勝請負人。いまのユーヴェに彼ほどしっくりくる指導者はいないでしょう。
アッレグリはとても実用的な監督でもあります。ゲーム内容は二の次で、結果が第一と考えています。それでいて、個々の選手ときっちり良い関係を築くことができる。彼の最大の魅力はそこにあります。
だからでしょうね。各選手がもっとも生きるポジションを見つけ出すのに長けています。
2年間もチームを離れていたのですから、最初はちょっとした苦労もあるでしょう。とはいえ第2次政権となる今回も、選手との関係をしっかり築き、勝ちにこだわるチームを作り上げるでしょう。それは簡単にイメージできます。
133試合で101得点という圧巻の実績
では、どういった選手起用をするのか。具体的に見ていきましょう。
当然、クリスティアーノの去就によって構想は大きく変わるはずです。今回は彼の残留を前提に話を進めます。
一部で「クリスティアーノの存在がチーム作りに大きな影を落とす」という声が挙がっています。彼を最大限に生かすため、他の選手が多大なる犠牲を払っている。そういう見方です。
ただ、どうでしょう。クリスティアーノは点取り屋であり、その役割を十二分に果たしています。この3年間の公式戦133試合で101得点という圧巻の実績が、その重要度を物語っています。
クリスティアーノの適正ポジションについても様々な議論が交わされています。アッレグリが復帰した今シーズンは、センターフォワードにより近い位置でプレーするのではないか、といった声も耳にします。
しかし彼に限っては、ポジションで云々すべきではないでしょう。スタート位置こそ得意の左サイドになるかもしれませんが、彼は自由に動き回って生きるタイプですから。
また、アッレグリはクリスティアーノに量より質を求めるでしょう。ハードワークよりも、決定力といったクオリティーを重視します。その考えは今も変わっていないはずです。
C・ロナウド活用に必要な働き蜂
だからこそ鍵になるのが、中盤のメンバー構成。クリスティアーノのプレースタイルを考慮すれば、中盤には運動量豊富なカバーリング能力に長けた選手の存在が不可欠です。
ピルロのユーヴェに安定感がなかったのも、中盤にそういった選手が欠けていたからでもあります。昨季のMF陣はわずか20~30メートルのスペースを埋めるだけで、それ以上の範囲で仕事をこなすことはほとんどありませんでした。
それでは、あまり守備をしないクリスティアーノや(パウロ)ディバラを抱えるチームにおいて、安定感した戦いは望めません。
クリスティアーノがユーヴェに加入した初年度は、第1次アッレグリ政権の最終年。つまり2018-19シーズンでしたが、そのチームの中盤にはブレーズ・マテュイディというダイナモがいました。
そして忘れてはならない選手がもう1人。マリオ・マンジュキッチ(20年1月にユーヴェ退団)です。190センチを超えるこのクロアチア人の特徴は、労を惜しまないハードワーク。ユーヴェ時代はまるでミッドフィルダーのような動きで攻守に多大な貢献を果たしていました。
クリスティアーノが加入1年目からその実力を存分に発揮できたのも、マテュイディとマンジュキッチという働き蜂がいたからこそ。
しかし、その2人はすでにユーヴェを去りました。では、現陣容に彼らのような役割をこなせる選手はいるのか。
答えはイエス。アドリアン・ラビオ(下写真)とウェストン・マッケニーです。イタリアでは「インクルソーレ」と呼ばれる存在で、後方から前線へと積極的に飛び出していくタイプのミッドフィルダーを指します。
ロドリゴ・ベンタンクールもインクルソーレの役割を担えますが、昨季はボールをさばくだけのパサーに成り下がっていました。サッスオーロから加入が噂されるマヌエル・ロカテッリも守備力はありますが、どちらかというと、どっしり構えてパスを散らすタイプです。
アッレグリがそういった中盤のメンバーをどうやって組み合わせるか。そしてクリスティアーノを始めとするFW陣の守備負担をいかに減らすか。まさに腕の見せどころでしょう。
ディバラは真価を発揮できていない
ファンの間では、ディバラを心配する声も多いようです。それも当然でしょう。昨季はまったく実力を発揮できませんでしたから。
今シーズンもスーパーサブ的な役割を担う。私はそう予想します。彼の実力に疑いの余地はありません。ただ、継続性が決定的に欠けているんです。
アッレグリにとって重要になるのは見極めです。彼の調子を見ながら、どう起用するか探らなければなりません。
そもそもディバラはユーヴェでまだ真価を発揮できていません。彼がもっとも輝きを放ったのは、ユーヴェに加入する前のパレルモ時代です。
彼に関しては、確実に言えることがあります。守備において、広い範囲をカバーするタスクを課すなどもってのほか。その特徴を最大限に生かすには守備負担を減らして、ゴール前の狭いスペースで勝負させることです。
チーム全体に目を移せば、基本システムは4-3-3、あるいは4-4-2、4-2-3-1になりそうです。起用選手によって、アッレグリは複数のシステムを使い分けるでしょう。
いずれにせよ、試合を決定づける役割はクリスティアーノ、(アルバロ)モラタ、ディバラといったフォワードが担います。従って、この3人の起用法も覇権奪還への大きなポイントになるでしょう。
優勝争いのライバルを挙げるなら、ミラン、アタランタ。それぞれ昨季の2位、3位であり、監督の続投による上積みが期待できるチームです。連覇を狙うインテルは、アントニオ・コンテ監督が去った影響がどう出るか。今は期待感より未知数の方が大きいですよ。
シーズンはまだ始まっていませんので、当然どのチームも「ここから」という段階ですがね。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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