問題はフィジカル面ではない
インターナショナルマッチウィークの今週はセリエAがお休み。ということで今回はイタリア代表を分析します。まずは最近の戦いぶりを振り返りましょう。
知っての通り、アッズーリ(イタリア代表の愛称)は今夏のEURO2020で53年ぶり2度目の戴冠を果たしました。しかしながら最近は、あのときの勢いを完全に失ってしまった感がありますね。
9月のカタール・ワールドカップ欧州予選では、2日のブルガリア戦(1-1)、5日のスイス戦(0-0)で白星を逃しました。続く8日のリトアニア戦で5-0の大勝を収めたものの、パフォーマンス自体は低調。批判が一気に噴出しました。
では、この短期間で何が起こったのか。多くの有識者が真っ先に指摘したのが、フィジカル面です。
EUROに出場したアッズーリのメンバーは、バカンスが例年より後ろ倒しになった影響で所属チームへの合流が遅れました。その結果、コンディションがピークに達していなかった。そういう論調です。
その意見には同意できませんね。一昔前なら理解できました。しかし、今はプレシーズンのコンディション作りが以前とは大きく様変わりしています。
20歳であろうが、30歳であろうが、年齢に関係なくみんなが同じメニューをこなしていたのは遠い昔の話。今は個人に特化したトレーニングが当たり前の世界です。そういったアップデートによって、多くの選手が短期間で状態をトップに持って行くことが可能になりました。
それは開幕からインテンシティの高い試合が続く今シーズンのセリエAを見ても明らかでしょう。10月、11月になってようやく選手のエンジンがかかり出す。そんな時代はもうとっくに過ぎ去りました。
ヴィアリの声掛けによる鼓舞も一つの手
私が考える問題点はむしろメンタルです。選手のプレーからは、EUROで見られた「周囲を驚かせてやる」といった気概がまったく感じられません。
燃え尽き証拠群は言い過ぎでしょうが、なにしろ53年ぶりの快挙。そのEURO制覇に満足して「やりきった」と感じた選手がいても決して不思議ではありません。
メンバーが固定され始めた影響もあるのかもしれませんね。EURO以前は、レギュラーが確約された選手などほぼ皆無でした。それがEUROでの成功により、チームの骨格がはっきりと見え始めた。
主軸が据えられたことで、上に行きたいというモチベーションが薄れてしまった。その可能性も十分に考えられます。
そんなときに重要な役割を求められるのが、ロベルト・マンチーニ監督を含めるチームスタッフです。まずマンチーニは、選手のハングリー精神を呼び覚ます作業が必要となるでしょう。
幸い、今の代表にはマンチーニの他にもそういった役割を果たせる人物がいます。例えば、アッズーリの団長としてチームに帯同するジャンルカ・ヴィアリ。ストライカーだった現役時代はイタリア代表でも活躍し、監督転身後はチェルシーなどを率いた経験を持つあのヴィアリです。
経験豊富な彼が、ちょっとしたきっかけ作りをしてみる。例えば、
「真のプレーヤーとは、常に高いレベルのパフォーマンスを維持できる存在だ」
といった声掛けで、選手たちを鼓舞するのも一つの手でしょう。マンチーニ、ヴィアリのカリスマ性をもってすれば、言葉だけで選手のメンタルを変えられるはず。そこに関しては、まったく心配していません。
インモービレとはまた違った選択肢を
技術面で言えば、アタッカー陣の決定力不足がやはり気がかりですね。ブルガリア、スイスという格下相手に、奪った得点はわずか1ゴールでしたから。
FWに関して、私にはシンプルな持論があります。「この選手はゴールを決める、この選手はゴールを決められない」。
その点で言えば、マンチーニが懸念材料とされる1トップに、セリエAで得点を量産し続けるチーロ・インモービレをチョイスし続ける理由は理解できます。ただ、その彼が代表であまりゴールを奪えていない現状を考慮すれば、違った選択肢を持っておくことも必要でしょう。
それがインモービレに続く存在として期待される、ジャコモ・ラスパドーリ(写真)、モイズ・キーン、ジャンルカ・スカマッカといった若い選手たちです。
3選手とも将来性のある優秀なアタッカーですが、ただいかんせんまだ物足りなさがあります。
ラスパドーリは戦術理解度の高い、賢い選手。動きも悪くない。とはいえ、そもそもサッスオーロで出場機会をあまり得られていない。そこが問題です。同じくサッスオーロ所属のスカマッカもしかり。
ユヴェントスのキーンに関しては好不調の波が激しく、そもそも点取り屋といったタイプではありませんね。
ローマのロレンツォ・ペッレグリーニも良い選手ですが、彼はどちらかというとトップ下で力を発揮するタイプ。私が代表監督ならラスパドーリ、スカマッカのコンビを試すでしょう。
ただそれには条件があります。テストするのは、ワールドカップの切符をほぼ手中に収めた場合のみです。本大会出場が確実ではない状況で、経験不足の彼らに懸けるのはあまりにもリスクが大きいと感じます。
FWのポジションは、マンチーニにとって悩ましい問題でしょう。今後どのように解決していくのか。複数の選手を試しながら、試行錯誤していくしか道はない。そう思います。
ディマルコら新戦力の台頭
もちろんポジティブな材料もありますよ。今の停滞した状況を打破してくれそうな、新戦力の台頭です。
その筆頭株が、インテルのフェデリコ・ディマルコ(写真)。まだ23歳と若いサイドアタッカーですが、今シーズンに入って急成長を遂げています。
武器は何と言っても強烈な左足。彼のような若い力が新たな競争をもたらせれば、固定されつつあるチームもまた活性化するはずです。
ミランの右サイドバック、ダヴィデ・カラブリアも悪くないですね。彼はこれまで、大観衆で埋まった本拠地サンシーロでなかなか実力を発揮できませんでした。サポーターの鋭い視線が大きなプレッシャーになっていたのでしょう。
それがコロナ禍で無観客開催となった昨季、重圧から解き放たれた彼は飛躍を遂げました。今では自信に満ちあふれたプレーを見せています。守ってよし、攻めてよし。立派なサイドバックに成長しました。
ここまで現代表が抱える様々な問題点を指摘しましたが、皆さんが気にしているのはやはり、イタリア代表がワールドカップ予選を突破できるのか、ということでしょうね。
サッカーの世界に「絶対」はありません。ですから、アッズーリがカタールへの切符を100%手にできるかは正直断言できません。
ただ、これだけは確実に言えます。スイス、ブルガリア、北アイルランド、リトアニア。同じグループCのライバルより、イタリアはレベルが一段上です。
60年ぶりに本大会出場を逃した前回予選の失敗を除けば、イタリアはワールドカップで常に最低限の結果を残してきた伝統国。今回もよほどのことがない限り、敗退の心配はないと思っています。
そもそも私を含む多くのイタリア国民の目線は、すでに来年11月21日に開幕する本大会に向けられています。欧州王者なら現在のしかかっている重圧をはねのけて当然でしょう。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成: 垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
配信情報
UEFAネーションズリーグ 3位決定戦
イタリア対ベルギー
- 配信:DAZN
- 配信開始:日本時間10日22時
- 解説:小澤一郎 実況:倉敷康雄
- 会場:ユヴェントス・スタジアム
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