移籍担当はもう、おしまいDEATH
現地時間10月3日の段階で、マンチェスター・ユナイテッドに大きな動きはない。
ジェイドン・サンチョ(ドルトムント)との交渉が近日中にまとまる、即戦力のセンターバックと左サイドバックを獲得するなどなど、情報だけは昨シーズンの終盤戦から頻繁に聞こえてくるが、具体化したのはドニー・ファン・デ・ベークだけだ。
また、アンドレアス・ペレイラはラツィオにレンタル移籍したが、クリス・スモーリングはASローマ、もしくはインテル・ミラノに移籍するといわれて久しい。構想外のフィル・ジョーンズ、マルコス・ロホも引き取り手は見つかっていない。
とはいえ、想定内だ。近ごろのユナイテッドではありがちだ。移籍交渉を担当するエドワード・ウッドワード、マット・ジャッジは、フットボールの世界で信用されていない。2000年代中期のユナイテッドを支えたパトリス・エブラも、古巣の窮状を憂えていた。
「ジャッジの携帯電話はほとんどつながらないらしい。電源をオフっていることも少なくないっていうじゃないか」
移籍交渉の担当者と連絡が取れないのだから、他クラブはユナイテッド以外を選択する。なるほど、強化が遅れる理由がよーく分かった。ジャッジはもう、おしまいDEATH。
守備は確かに脆い。しかしタレントは揃っている
しかし、ガッカリする必要はない。サンチョの獲得を見送ったとしても、前線はマーカス・ラシュフォード、メイソン・グリーンウッド、アントニー・マルシャルとタレント揃いだ。オディオン・イガロの献身的な姿勢も高く評価できる。
また、彼らアタッカーをブルーノ・フェルナンデスが “魔法” で操り、ポール・ポグバは特大のポテンシャルを秘めている。さらにファン・マタとファン・デ・ベークはリーグカップ4回戦のブライトン戦で絶妙の連携を披露。
「同じ絵を描けるので楽しかった。マタが気を遣ってくれたのかな」(ファン・デ・ベーク)
攻撃の選択肢がまたひとつ増えた。
確かに守備陣は脆いかもしれない。いや、脆い、絶対に脆い。とくにセンターバックはスピード不足だ。開幕節のクリスタルパレス戦では、ヴィクトル・リンデレフが徹底的に狙われた。多くのメディア、サポーターが2000年代前期から中期にかけて活躍したリオ・ファーディナンド、ネマニャ・ヴィディッチを懐かしむのは、現チームの主力であるハリー・マグワイアとリンデレフが頼りなさすぎるからだ。
しかし、左サイドバックのルーク・ショーは、ビルドアップでも貢献できる。右サイドバックのアーロン・ワン=ビサカは攻撃のサポートこそイマイチだが、粘り強い一対一はリーグ随一といって差し支えない。マンチェスター・シティのラヒーム・スターリングも舌を巻いている。
「完全にかわしたと思っても、信じられない角度から足が出てくる。最もやりづらいサイドバックのひとりだ」
そしてGKは世界一の激戦区。ダビド・デ・ヘアとディーン・ヘンダーソンの定位置争いである。なんてぜい沢なんだ。
これだけのメンバーを擁しているのだから、少なくともトップ入りを確定的と信じたい。増強に成功したリヴァプールにはかなわないものの、ひとつのサイクルが終わったシティに代わって2位もあると胸を躍らせたい。ゲームプランさえしっかりしていれば、なにかしらのタイトルも……。
だが、監督に明確なプランなし
嗚呼、期待するだけ無駄だった。監督が代わらないかぎり、ユナイテッドは三歩進んだら三歩後退。喜ばせたぶんだけ失望も招く。
オレ・グンナー・スールシャール監督は明確なゲームプランを持っていない。選手のコンディションに委ねているだけだ。一昨シーズンの公式戦8勝2分も、ポグバの “無双” に助けられた。昨シーズンの終盤も、B・フェルナンデスの絶好調により14戦無敗で乗り切った。
ユナイテッドの監督に就任して1年9か月、スールシャールはユナイテッドになにかをもたらしただろうか。答は「NO」だ。ガリー・ネヴィル、ポース・スコールズ、ライアン・ギグスなどのOBは、「もっと時間を与えるべき」とスールシャールをかばうが、徒労に終わった1年9か月の評価が甘すぎる。
タレントの力でユナイテッドを下まわるレスターは、その試合内容が随所で高く評価されている。ブレンダン・ロジャーズ監督が選手個々の特性を理解し、そのうえで明確なゲームプランを構築しているからだ。スールシャールは基本的に手ぶらでやって来て、手ぶらで帰る。敗北を喫した翌週も、同じような内容で闘うだけだ。選手交代もつねに後手へとまわる。
移籍市場が閉鎖する10月5日までに、サポーターが歓声を上げる大物がやって来るかもしれない。しかし、スールシャールにユルゲン・クロップ監督(リヴァプール)のような求心力はなく、マルセロ・ビエルサ監督(リーズ)のような戦略家でもない。
どこかに有能な指揮官はいないものだろうか。優れたゲームプランを持つ男はいないものだろうか。
マウリシオ・ポチェッティーノが空いている……。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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