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【連載】アッズーリだけではない!! イタリアサッカー全体が攻撃的なスタイルへ | 元日本代表監督アルベルト・ザッケローニのセリエA探究 | 第18回

【連載】アッズーリだけではない!! イタリアサッカー全体が攻撃的なスタイルへ | 元日本代表監督アルベルト・ザッケローニのセリエA探究 | 第18回(C)Getty Images
【欧州・海外サッカー インタビュー】魅力的な攻撃サッカーで欧州制覇を成し遂げたアッズーリに称賛が集まっている。ただ、アルベルト・ザッケローニ氏はこう強調する。いまや「イタリアサッカー全体が攻撃的なスタイルへ大きく舵を切った」のだと。

ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表がEURO2020を制しましたね。アッズーリが欧州の頂点に立つのは実に53年ぶり。まさに快挙です。

もっとも、個人的にはさほど驚いていませんよ。

グループステージ第1節を終えた直後、私はこの連載で言い切りました。「イタリアほど良いサッカーをしている国は他にない」と。

無敗記録に関しては、ただただ驚きです。なにしろ34試合にまで伸びましたからね。

内容が伴わなければ、こうした金字塔も決して打ち立てられなかったはず。私がEUROでの大躍進を予想したのも、その素晴らしいゲーム内容からでした。

目先の結果にだけこだわるチームではありません。マンチーニは監督に就任した3年前から、先をしっかり見据えたチーム作りをやり遂げました。EURO優勝はその成果です。

選手に目を移せば、責任感が強い面子が揃っています。練習、試合を問わずに100%で臨み、手を抜くことが一切ない。彼らの前向きな姿勢は、現アッズーリの大きな魅力の1つでしょう。

大会前のニュースも躍進を後押ししましたね。FIGC(イタリアサッカー協会)がマンチーニとの契約延長(2026年まで)を発表したあの一報です。

これは異例の長期契約ですよ。前例はありません。これはFIGCから選手たちに対する一種のメッセージでもありました。「この監督にしっかりついて行きなさい」というね。

少なくとも私はそう感じました。チームが団結するうえで、FIGCのその"作戦"はプラスに働いたのではないでしょうか。

2021-07-11-uefa euro 2020-italy

守備的だったイタリアの姿はもうない

EURO全体を振り返ると、イタリア対策を講じるチームが多かったですね。

マンチーニ率いるアッズーリのベースは、ポゼッションサッカー。それを大会を通じて貫きました。

一方で、対戦国のほとんどがイタリアに合わせて、戦い方、システム、あるいは選手を変更して臨んできました。

準決勝で対戦したスペインでさえ、1トップのアルバロ・モラタをスタメンから外し、ゼロトップの奇策に打って出てきたほど。いかにイタリアを意識していたか。それだけでも明らかでしょう。

守備的だったイタリア代表の姿はもうありません。今は相手がどこであれ、ポジティブな攻撃サッカーを展開しています。

選手もそれを前向きにトライし、代表の一員であることに誇りを感じている。そして、若い選手が多いながらも、屋台骨がしっかりしていることもプラスです。

ジャンルイジ・ドンナルンマ、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ、ジョルジーニョ。ゴールキーパー、2人のセンターバック、アンカーの4人が、しっかりとチームを支えています。

EUROを見ても、マンチーニにとって彼ら大黒柱の存在がどれだけ心強いか。推して知るべし、です。

イタリア代表のこの大復活は、セリエAの各クラブかここ数年で取り組んできた努力の賜物とも言えるでしょう。

なにしろセリエA上位チームのほとんどが今、マンチーニのアッズーリと似たような攻撃サッカーを志向しています。

それを追随しているような下位チームもあります。つまり、イタリアサッカー全体が攻撃的なスタイルへと大きく舵を切った。そう言い切れるほどです。

かつては何事もシステム論で…

2021-06-16-Manuel Locatelli of Italy-UEFA Euro 2020 Championship

そもそもイタリアは、戦術に関しては最先端を走ってきた自負があります。探究心を失ったことはありません。

イタリアサッカーの凋落が叫ばれた数年前からは、アップデートの必要性をさらに感じていました。そして、最新版にバージョンアップされた戦術が今、ようやく実を結び始めたと言えます。

かつては何事においてもシステム論で片付けられる嫌いがありました。しかし、今もっとも重要視されているのはシステムではなく、戦術のコンセプトです。

キーワードは「コンパクト」。試合を観れば一目瞭然ですが、多くのチームが縦の30メートル以内に布陣しようとしています。アッズーリを例に出せば、ボヌッチ、キエッリーニのセンターバック2枚と、1トップのチーロ・インモービレの距離が常に30メートル以内に保たれているということです。

その中で守備の狙いは、より高い位置でボールを奪うこと。そして攻撃は最終ラインからの丁寧な組み立てです。

4-4-2、4-3-3、5-3-2といった数字の並びは、もはやそれほど意味をなしていません。繰り返しになりますが、重要視されているのは戦術のコンセプトです。

サッカーはここ数年で大きく様変わりしました。以前はゲームに勝つために、90分で3つ、4つの決定的なプレーを繰り出すだけで十分でした。

今はそれだけでは足りません。攻守の切り替えを早め、素早く仕掛け、そして多くのチャンスを作り出す。そういった連続性、継続性が求められています。

新シーズンはこういったサッカーにトライするチームがさらに増えることでしょう。勝てるチームを真似る。サッカー界ではこれがいわば鉄則になりつつあるわけですから。

セリエAの価値が再び証明された

今大会のEUROでは、ある興味深いデータもありました。

セリエAでプレーしている選手が決めた得点の割合です。総得点142のうち、計37点。実に全体の26%を占めました。セリエAの価値が再び証明された。そう思いますよ。

そもそもセリエAは外国籍の選手にとって多くのことを学べるリーグ。それは今も昔も変わりません。

われわれイタリア人監督はサッカー界のトレンドにかなり敏感です。しかもそれを細部にわたって研究し、なおかつ実際に採り入れます。セリエAが今でも「世界でもっとも難しいリーグ」と言われているのも、そのためです。

私自身も過去、セリエAでレベルアップした外国人をどれだけ見てきたことか。

もちろん、他リーグでも学べることは多々あります。プレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガにも、それぞれの良さがありますから。

ただ戦術面に関して言えば、イタリアは他の追随を許しません。どのリーグよりも洗練されています。

考えてみてください。なぜ国外のクラブを指揮したイタリア人監督の約8割が、何かしらのタイトルを獲ることができたのか。戦術面での強い探究心がもたらした結果にほかなりませんよ。

アンチェロッティ、トラパットーニ、リッピ、コンテ、ラニエリ、ヴィアリ、ディ・マッテオ、マンチーニ、カンナヴァーロ、スパレッティ――。

国外で成功を収めたイタリア人指揮官の名前を挙げたら、キリがありませんね。かくいう私もアジアカップを制しました。

イタリア代表がEUROを制したことは、なによりイタリアサッカー全体にとって大きなこと。8月22日に開幕予定のセリエAにより大きな注目が集まるのは間違いないでしょう。

インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之

訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。

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