あのウクライナの矢が『カルチョS級講座』に初登壇。世界中のファンを魅了した往年の名手であり、今夏のEURO2020では監督として母国をベスト8に導いたアンドリー・シェフチェンコだ。
現役時代はワールドカップ初出場の原動力となったほか、クラブレベルでは1999-00シーズンに加入したミランで数々のタイトルを獲得。2004年にはバロンドロールに輝くなど、世界最高のストライカーとして長らく活躍した。
引退後は16年7月にコーチから昇格する形でウクライナ代表監督に就任し、EURO2020まで指揮。現在は生活拠点をロンドンに戻し、クラブ監督のオファーを待っている。
ウクライナ、そしてミランが誇るレジェンドの目に、今のセリエAアタッカー陣はどう映っているか。
スター流出を悲観する必要はない
今のセリエAで活躍するストライカーたちをどう評価しているかって? それならまず、イタリアサッカー界が今夏に失った、2人のスターについて触れないとね。
ユヴェントスから去り、12年ぶりに古巣マンチェスター・ユナイテッドに復帰したクリスティアーノ・ロナウド、そしてインテルからチェルシーに移籍したロメル・ルカクのことだ
実力もさることながら、世界でも屈指の人気を誇る彼らだ。失った2チームはもとより、セリエA全体に与える影響も計り知れないね。
それは何も技術的な側面に止まらない。ブランディングという観点においても、だ。ただ、何事においてもそうだと思うが、扉が一つ閉まったら、また新たな扉が開かれる。
だから悲観する必要はない。しばらくすれば、新たなスターがセリエAのピッチに立っているはずだ。
では本題に移ろう。また2人の名前を引き合いに出す形となるが、現在のセリエAには残念ながら、クリスティアーノ、ルカクと肩を並べるようなストライカーは見当たらない。
そもそも彼らレベルのストライカーは、世界中を見渡してもそうはいないからね。考えてみて欲しい。今の時代、彼らのように年間25~30得点を保証するフォワードがどれほどいるか、と。
多くの人は答えに窮するだろう。それだけ優秀なストライカーの絶対数が不足しているんだ。何もセリエAだけが直面している問題ではない。
ジェコはまさに万能型だ
ストライカー不足の理由のひとつに、ポジションが挙げられる。要はフォーメーションの問題だ。
というのも、サッカー界のトレンドは4-3-3システム。セリエAを含め、世界中の指揮官が好んで採用している。
各システムには当然、一長一短がある。4-3-3の場合、ストライカーは基本的に1枚しか使えない。そんな背景もあってか、嗅覚に優れ、得点を量産できるストライカーがあまり育っていないんだ。今は純粋なフォワードを2枚並べるチームが少ないからね。
ミラン時代の私はシルヴィオ・ベルルスコーニ会長(当時)の強い意向もあり、常に2トップの一角でプレーしていた。
そういった記憶もあって、個人的には前線にフォワード2枚を並べるスタイルが好きだ。今のインテルに注目しているのも、それが理由さ。セリエAでは数少ない2トップを採用しているチームだからね。
しかも2トップを組むエディン・ジェコ、ラウタロ・マルティネスのコンビネーションが素晴らしい。とくにジェコのプレースタイルが気に入っていてね。このボスニア・ヘルツェゴビナ代表は、完全な1トップタイプのフォワード。それでいてセカンドトップのような動きもできる、まさに万能型だ。
何より周りを生かすことに長け、ボックス内で決定的な仕事ができる。マルティネスが伸び伸びプレーできているのも、経験豊富な彼の存在が大きいよ。
イブラとジルーのコンビは機能する
ミランのズラタン・イブラヒモヴィッチとオリヴィエ・ジルーの2人にも期待したいね。イブラが怪我をしていたから、まだ両者が2トップを組んでいないが楽しみだ。
2人の特徴を考えればきっと機能する。そう確信しているよ。イブラは今年10月に40歳の大台に乗る。ジルーはこの9月に35歳になった。この2人が最前線に並ぶようなら、かつて例を見ない高齢2トップになるね。
当然だが「将来性がない」といったファンの声も耳にする。その意見は、私も理解しているつもりだ。ただこうも思うんだ。今の時代、そういった考えはもう古いとね。
優秀なアタッカーがそれほど多くない事情もあって、年齢の問題はもはや存在しないのでは、とさえ感じているんだ。
イブラに関して言えば、彼は全ての面で競争力が高いプレーヤー。コンディションさえ維持することができれば、年齢はただの数字に成り下がる。彼自身がピッチ上でそれを証明し続けているよ。
選手寿命が伸びているのは、何もサッカーだけではない。分かりやすい例で言えば、NFL(アメリカンフットボール)のトム・プレイディ。タンパベイ・バッカニアーズというチームでプレーするQB(クオーターバック)だが、彼の年齢を聞いて驚くなかれ。なんとイブラをしのぐ44歳だ。
あのフィジカルコンタクトが激しい競技にあって、今もなお第一線で活躍している。一昔前なら、誰も想像しなかったんじゃないかな。そんな年齢でプレーできるなんて。
世界最強アタッカーはエンバペ
話しが逸れたが、もし現時点でセリエA最強アタッカーが誰かと問われれば、間違いなくイブラを挙げるよ。あとは先ほども触れたインテルの2トップ、マルティネスとジェコ。彼らも間違いなく上位にランクする。
若手の名を挙げるならば、ミランのラファエウ・レオンを推したい。サイドが主戦場の22歳だが、彼も私好みのプレーを見せるアタッカーだ。
あとはフィオレンティーナのドゥシャン・ヴラホヴィッチ。まだ21歳と若いが、得点能力の高さは目を見張るものがあり、今後に大きな期待を抱かせる。
最近で言えば、ナポリのヴィクター・オシムヘンも勢いがあるね。正直言うと、このナイジェリア代表のプレーはまだきちんとチェックできていないんだ。
ただ、彼らのような若手アタッカーに共通して言えることが1つある。セリエAで継続的にゴールを決めているという事実だ。それは明るい未来が開けている何よりの証拠ということ。
アタッカーにとって、セリエAは本当にタフなリーグなんだ。他の主要リーグと比べても、ゴール前のスペースは本当に限られているからね。
オシムヘンもセリエAでこのまま順調に成長を遂げられれば、プレミアリーグのビッグクラブなどが獲得に動く存在となるのではないかな。
最後に番外編を。私が考える現時点での世界最強アタッカーを特別に教えよう。ズバリ、パリ・サンジェルマンのキリアン・エンバペだ。
スピード、パワー、インテリジェンス。すべてにおいて抜きん出ているフォワードだ。22歳の若さにして、すでに完成されている。彼こそが間違いなくナンバー1だ。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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