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【連載】イタリア代表の復活「スタートからこんな団結するアッズーリは記憶にない」| 元日本代表監督アルベルト・ザッケローニのセリエA探究

【連載】イタリア代表の復活「スタートからこんな団結するアッズーリは記憶にない」| 元日本代表監督アルベルト・ザッケローニのセリエA探究(C)Getty Images
【欧州・海外サッカー インタビュー】イタリア代表が欧州の祭典で快進撃を繰り広げている。元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏は「スタートからこんな団結するアッズーリは記憶にない」と絶賛。復活を遂げたチームの強さに迫る。

欧州各リーグは現在、オフ期間中。移籍市場もまだそれほど活発ではないためか、世間の注目はもっぱら2つのビッグトーナメントに注がれていますね。

言うまでもなく、EURO(欧州選手権)とコパ・アメリカ(南米選手権)です。

ということで今回はEUROで快進撃が止まらない、ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表について語りましょう。

まずは単刀直入に一言。「欠点が見当たらない」。これが今の代表に抱いている私の率直な印象です。

EUROにて各国の初戦をそれぞれチェックしましたが、イタリアレベルに良いサッカーをしている国はない。少なくとも私はそう感じました。

コンディションの良さもさることながら、選手全員が良い心理状態で大会に臨めているように見えます。「自分たちはやれるんだ」。プレーの端々からそういった強い自信がうかがえますね。

代表を取り巻くポジティブな空気も、大きな後押しとなっているのではないでしょうか。

チーム全体で攻めの姿勢を貫く

ご存じのとおり、アッズーリ(イタリア代表の愛称)は18年のロシア・ワールドカップでは予選敗退。60年ぶりに本大会出場を逃しました。

いわばどん底まで落ちました。ですが、その直後に監督となったマンチーニが見事なまでにチームの立て直しに成功しました。今はみんなが同じ方向へと突き進んでいる印象です。

そしてこれはスタッフ、選手に限ったことではないのです。驚くことに、ファン、メディアなども含めたイタリア全体がポジティブなフィーリングをシェアしています。

今までなら、このようにすべてが上手く行っている状況でも、水を差すような発言が散見されたもの。今はそういった否定的な意見すら、まったく聞こえてこない。

だからでしょう。選手も伸び伸びとプレーできています。無難なプレーに終始せず、チーム全体で攻めの姿勢を貫いています。

この前向きな空気感が、ピッチ上でもプラスに働いていることは間違いないでしょう。

2021-06-04-roberto mancini-italy czech-international friendly

イタリアには質の高い選手を揃っていますが、最大の強みはなんと言ってもコレクティブな組織プレー。チームが、見事なまでに約30メートルのゾーンの中でコンパクトに保たれています。

結果、相手を押し込んだ状況であっても、センターバックを務める(ジョルジョ)キエッリーニでさえ、ハーフライン付近で司令塔のようにボールをさばけている。まるでかつて世界最高のリベロと言われた(フランツ)ベッケンバウアーのようですよ。

そんな組織で最たる違いを作り出しているポジション。それが、進化を遂げた中盤です。その中でチームのエンジンになっているのがニコロ・バレッラ。所属先のインテルでも不可欠な存在に成長しました。

そして彼と組むマヌエル・ロカテッリ、マルコ・ヴェッラッティ、ジョルジーニョといった選手が高性能スペックでそのエンジンを動かし、高い機能性を発揮しています。

特筆すべきはジョルジーニョです。彼はアンカー役としてゲームを組み立てる、昔ながらの司令塔タイプ。その素晴らしさは、なんと言っても高度な技術です。すべてをシンプルにこなしながら、しかも常にサッカーを楽しんでいる。その姿は、まるで2歳児と遊んでいる父親を連想させるほどです。

他のポジションも秀逸で、左サイドバックのレオナルド・スピナッツォーラはシンプルに素晴らしい。彼のプレーは観ていて、本当に楽しいですね。

とくにオーバーラップしたときの予測不能なプレー。中に切れ込むのか、それとも縦に仕掛けるのか。同サイドでコンビを組む(ロレンツォ)インシーニェとの織りなしは、まさにスペクタクルそのものです。

3トップの右に入るドメニコ・ベラルディも悪くない。これまで好不調の波が大きかった彼ですが、ようやく安定したプレーを発揮できるようになってきました。その安定感を、代表でも良い形で出せています。

カテナチオからモダンサッカーへ

かつてのイタリアと言えば、1人、2人の絶対的な存在に頼るスタイルが主流でした。

今は真逆。1トップのチーロ・インモービレだけを生かす組み立てでは決してないですね。得意のドリブルで局面を打開するインシーニェにボールを集めるスタイルでもありません。

全選手が、チーム全体の機能性を第一にプレーしています。どの選手が起用されても、一定のレベルを保てているのも、これが要因でしょう。

全員に浸透した「フォア・ザ・チーム」の精神。これが今のイタリアを支える1つのキーワードとも言えますね。

まさにチーム一丸。こんなこと、かつてあったでしょうか。

いや、大会のスタートからこんな団結力を感じるイタリアは正直、私の記憶はありません。

2021-06-16-Manuel Locatelli of Italy-UEFA Euro 2020 Championship

イタリア代表は伝統的にスロースターター。一致団結するのは、タイトル獲得が近づいたゴール目前でのタイミングがほとんどでした。

しかし今、代表から感じる一体感はすでに近くなっていますよ。ワールドカップを制した1982年、2006年の決勝近くでようやく沸き上がってきたものに。

イタリア代表の復活は、なによりイタリアサッカー界全体に与えるプラス効果が大きいですね。

イタリアサッカーはつい最近までも、守備的なサッカーの代名詞「カテナチオ(カテナッチョ)」で括られることが決して少なくなかった。

まずは失点をせずに、そして最少スコアでとにかく勝ちきる。俗に言う、ウノゼロ(1-0)の美学です。

しかし、今の代表は、そういったスコアに対するこだわりもまったくない。1-0、2-0とリードを広げても、攻勢の手を緩めず、常に追加点を狙いにいく。

後半に入っても前線から積極的にプレスを仕掛け、敵陣でボールを奪い返す。そんなシーンもよく見られます。EUROにおけるイタリア代表は、ボール奪取率が最も高いチームのひとつでしょう。

イタリアサッカーはここ数年で大きく変貌を遂げました。自陣に引いてカウンターを仕掛けるだけの、かつての消極的な姿はもうありません。

イタリアは今、まさにモダンサッカーを展開している。そう言い切ってもいいでしょう。

もちろん優勝できるどうかはまた別問題。ただこれだけは、はっきり言えます。今のイタリア代表を止めるのは決して容易ではない、と。

アッズーリが好ゲームを見せれば見せるほど、来季のセリエAに対する期待値や注目度は、さらに大きくなるのではないでしょうか。

インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之

訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。

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