私がエヴァートンの指揮官に就任したのは2019年12月のこと。母国のイタリアを離れてから1年余りになるが、いまもセリエAの動向は欠かさずにチェックしている。
今シーズンは近年見なかった激しい優勝争いが繰り広げられているね。つい最近、首位が入れ替わりもした。
首位ミランが21節スペツィアとのアウェーゲームで0-2の敗戦。一方で、ライバルのインテルがホームでラツィオに勝利(3-1)し、今シーズン初めて単独トップに立った。
昨シーズンまでのセリエAはご存知のとおり、ユヴェントスの一強支配が続いていた。その意味で、今シーズンはようやく均衡が取れたと言えるだろう。
インテルの強さに決して驚きはない。なによりクラブが昨オフの補強にかなりのカネをつぎ込んだからだ。
シーズン中盤に差し掛かり、選手各々のモチベーションがシーズン当初よりさらに上がっていることも容易に想像できる。
個のクオリティが大きな武器に
CL(チャンピオンズリーグ)のグループステージで敗退したインテルは、コッパ・イタリアでもすでに姿を消している(準決勝でユヴェントスに敗戦)。
残すタイトルはスクデットのみ。となれば、リーグ制覇はいわばチームの至上命題。モチベーションがアップするのも当然だろう。
彼らの強みは何と言っても潤沢な戦力。なかでもロメル・ルカクのような傑出した個、ひとりで打開できる選手のクオリティが大きな武器になっている。
それは2位に後退したミランにも言えること。ズラタン・イブラヒモヴィッチのことだ。ユーヴェで例えるなら、2人ともクリスティアーノ・ロナウドのような存在になっている。
ルカクとイブラヒモヴィッチと言えば、1月26日に行われたコッパ・イタリア準々決勝(2-1でインテルが勝利)でいざこざを起こしていたね。
ミラノダービーの前半終了時に口論となり、イブラヒモヴィッチの発した言葉があらゆる憶測を呼び波紋を広げたんだ。
個人的にはプレーとは関係のないトラブルは避けて欲しかった。2人ともプロフェッショナリズム溢れる素晴らしい選手だからね。
今はスタジアムのあらゆるところにテレビカメラが設置されている。そのことを一時たりとも忘れるべきではないだろう。
多くの視線が選手の一挙手一投足に注がれている環境で、どちらも言うなら"マークを外してしまった"ね。
イブラヒモヴィッチに関しては、3月に開催されるサンレモ音楽祭(伊リグーリア州のサンレモで開催される音楽祭)へのゲスト出演が予定されているそうだ。
厳しい連戦がスケジューリングされている中、世間では「そんなこと許されるのか? 常識的なのか?」といった非難の声があるようだ。
ただ、このご時世だ。常識やルールなど存在するのだろうか。いずれにせよ、私には何とも言いがたい話題だ。個人的な意見は控えよう。
衰えが感じられないクリスティアーノ
さて、話題を変えよう。今後の優勝争いについてだ。
ミラノの二大巨頭(インテルとミラン)が久々に覇権を争っているが、ここにユーヴェも必ず絡んでくると予想している。いや、確信しているよ。
ユーヴェは21節を終え、12勝6分け3敗で勝ち点42。ローマにも後塵を拝する4位にとどまっている。
だが、勝ち点差はそれほど大きくない。首位インテルとは「8」、2位ミランとは「7」だ。決して追いつけない差ではない。
しかもユーヴェはインテル、ミランの両チームと比べ、消化試合がひとつ少ない。その事実も見逃すわけにはいかない。
確かに、ユーヴェは昨季からチームが大きく様変わりした。若返りを図る中で、監督もマウリツィオ・サッリからアンドレア・ピルロに交代している。
いわば新たなサイクルをスタートさせたんだ。新監督のピルロにとっては決して簡単な作業ではなかったはず。そんな状況でも、チームはきっちり結果を残している。
現にCLではグループステージ突破を決めた。1月20日にはナポリを2-0で撃破し、スーペルコッパ・イタリアーナ(イタリアスーパー杯)のトロフィーを手にしている。さらにコッパ・イタリアでも決勝まで駒を進め、タイトルに王手の状況だ。
さきほども少し触れたが、ユーヴェには絶対的な存在のクリスティアーノがいる。レアル・マドリードで彼を指導した経験がある私は、クリスティアーノを良く知っている。
指導したのは2013-14シーズンからの2シーズン。その7、8年前と比べても、力が落ちている印象がまったくない。今も変わらず得点を重ねているし、まさにゴール製造機だ。
時の流れはみなに平等のはず。ただ彼に限って言えば、他の選手よりそのスピードが遅いような錯覚を覚えるね。それほど彼のプレーからは衰えが感じられないんだ。
監督であるピルロは、私のミラン時代の教え子だ。現役時代から、サッカーの知識は並外れていたよ。戦術的なインテリジェンスもしかり。誰もが「ピルロはいずれ監督に」と想像していたよ。
好不調の波がないのはシティだけ
ピルロの他にも、セリエAで指揮を執る私の教え子はいる。ナポリのジェンナーロ・ガットゥーゾもそのうちの1人だ。
私がナポリを去った後に新監督の座に収まったのがリーノ(ガットゥーゾ)だった。ただ、いまは苦境に立たされているようだ。なにしろ今シーズンのナポリは、好不調の波が激しすぎるからだ。
もっとも、それはナポリに限ったことではない。欧州各国リーグを見渡しても、コロナ禍の現状で、ほとんどのチームが苦しんでいる。
好不調の波を感じさせないのは、それこそ私がいるプレミアリーグの1チームだけではないかな。そう、首位を走っているマンチェスター・シティだ。彼らは本当に安定したパフォーマンスを発揮している。
スペインではマドリー、バルセロナの二大巨頭が苦戦しているね。どのチームも安定性に乏しいのは、無観客での試合開催が続いている今シーズンのひとつの特徴かもしれない。
話は逸れたが、私が予想する今シーズンのセリエAの優勝候補はインテル、ミラン、ユヴェントスの3チーム。
その3チームに続くのは、ローマ、ナポリ、アタランタ、ラツィオの4チーム。その4チームで残り1つのCL出場権と、ヨーロッパリーグ出場権の2枠を争う形になると予想する。
最後に、プレミアリーグとセリエAの違いについて簡単に見解を述べましょう。
大きな違いは実質的にひとつ。プレミアリーグはセリエAに比べそれほど戦術的ではないが、よりインテンシティの高いプレーが特徴だ。その違いに注目しながら両リーグを観るのも面白いかもしれない。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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