早いもので今シーズンのセリエAもすでに全体の約20%に当たる7節を消化しました。
10連覇を狙うユヴェントスの低調さも相まって、首位ミランから6位アタランタまでの勝ち点差はわずか4。近年稀に見る混戦となっています。その混戦の中で「もっとも驚かされたチームは?」と問われたなら、私は即答でミランと答えるでしょう。
ホームで2-2のドローに終わった今月8日のヴェローナ戦では少し勢いが落ちた印象も受けました。とはいえここまでの戦いぶりからは、昨年までになかった期待を抱かせてくれているのも事実。何より内容が伴っての結果という点が大きいです。少なくとも第7までは首位に値する内容のゲームを見せていると言えるでしょう。
復調したミランを支える二人の司令官
まずチーム全体がしっかりと二人の〝司令官〟について行っている印象が強いです。
そのうちのひとりが、監督のステファノ・ピオリ。
チームが上手くひとつに纏まっている様子ですから、彼がしっかりとロッカールームをコントロールできているのでしょう。ピオリは昨年10月の就任から実に良い雰囲気を作り上げました。そのことが結果に結びついているのは間違いないはずです。
そしてもうひとりの司令官が、FWズラタン・イブラヒモビッチ。
彼はピッチの指揮官です。途中、新型コロナウィルス感染により第4節のインテルとのダービーを欠場するなどのアクシデントもありましたが、ここまで得点王ランキングトップの8得点。抜群の決定力でチームをけん引しています。決して成績だけではありません。今は絶大なるリーダーとして、チームの精神的支柱となっています。
ミランには今年1月、2011―2012シーズン以来の復帰を果たしました。以前の所属時もピッチ上では今と同様に違いを見せていましたが、決してリーダーといったような存在ではありませんでしたね。何かにつけ怒りを爆発させていましたから、それこそ模範とはかけ離れた選手でした。それが約7年のときを経て精神面で大きく変貌を遂げました。
今やピッチ内外でどのように振る舞えばいいか、しっかりと理解できています。まさに真のリーダーです。世間では39歳と高齢な選手に頼りすぎだという批判もあります。私から言わせれば、彼に限れば年齢はまったく関係ないと断言できます。ヴェローナ戦の後半アディショナルタイムに決めたヘディングの同点ゴールが何よりの証拠です。
DFテオ・エルナンデスの左サイドからのクロスを、ペナルティーエリア内で3人のDFにマークされながらきっちり左足でトラップし、そして鋭い反転から右足で強烈なシュート。いったんは相手GKに阻まれましたが、こぼれ球を拾ったMFブライム・ディアスの右からのクロスを最後は一際高い打点で決めました。
39歳ながら運動量がほとんど落ちずに90分間戦い抜く体力、気力も驚きですが、そこでまた違いを見せられるのがイブラヒモビッチなんです。
中には〝高齢〟の彼が活躍できているのは「セリエAのレベルが落ちている何よりの証拠だ」などと言っている人もいます。私はそうは思いません。そもそもイブラヒモビッチに限らず、一流の一流は年齢なんてまったく関係ないと思っているからです。
私がまだ現役選手で若かった頃、ユヴェントスにアルタフィーニというブラジル人FWがいました。セリエA史上3位の通算216ゴールを決めた往年のストライカーです。彼はその頃すでにキャリアの晩年でほとんどがベンチスタート。それでも試合途中からピッチに入ると抜群の存在感で、必ずと言って良いほどゴールを決めていました。
まだスタメンで活躍しているイブラヒモビッチとはいえ、その活躍ぶりは当時のアルタフィーニの姿と被ります。
年齢を重ねれば当然、肉体的な衰えは出てくるもの。ただその中でも超一流レベルの選手は自分の現状をしっかりと認識できた上で、求められた役割を着実にこなすんです。まさしく今のイブラヒモビッチです。彼がいまだに第一線で活躍できているのも、そういった認識能力の高さが大きく影響しているはずです。
そして何より彼の存在で大きいのが、チームの将来に与えるプラス効果です。彼が先頭に立ってチームを引っ張っていますから、若手が伸び伸びとプレー出来ています。
ヴェローナ戦のスタメンにも、イタリアU-21代表DFマッテオ・ガッビア、アルジェリア代表MFイスマエル・ベナセル、ポルトガルU-21代表FWラファエウ・レオンら、多くの20代前半の選手が名前を連ねていました。彼ら若手はまだまだ役不足。とてもチームを引っ張れるような存在ではありません。
その足りない部分をイブラヒモビッチがきっちり補っているんです。
なおかつチームとして結果が出ていますから、若手はどんどん自信を付けているんですね。これはここ数年のチームには見られなかった良い傾向です。そんなイブラヒモビッチとはいえ、今のような違いを見せられるのもせいぜいあと2~3年。いずれチームを去るときがきます。
そうなったとき、一気にチームが崩れるようでは、先はありません。ただ若手が着実に力を付けてきている現状を見る限り、そうはならないはずです。それこそイブラヒモビッチの抜けた穴を埋める上手い補強ができれば、チームにはさらに上積みが期待できます。長期的な視線に立ったとき、これはクラブにとって大きな財産です。
ここ数年のミランと言えば、監督が毎年のように替わり、選手も入れ替わり立ち替わりでした。その一貫性のないクラブ方針こそがチーム低迷の大きな要因でした。
今季は昨シーズン終盤戦に結果を出したピオリを続投させ、さらにイブラヒモビッチも残留。ようやくこれまでの負の連鎖が解消されつつあります。しっかりとした内容のあるゲームが出来ているのも、構築に四苦八苦してきたチームの骨格がようやく定まってきた何よりの証しです。
今シーズンでの優勝を期待するのはまだ早いかもしれません。ただチームがこのまま順調に成長できれば、欧州チャンピオンズリーグ出場権を得られる4位以内に入れるチャンスはあるのではないでしょうか。
実現すれば2012―13シーズン以来となりますから、名門復活へ大きな一歩を記したことになるでしょうね。
オーケストラのようなサッスオーロ
最後に2位のサッスオーロにも触れましょう。
ミラン同様、ここまで驚きを与えているチームです。サッスオーロにはイブラヒモビッチのような絶対的な存在はいません。中にはマヌエル・ロカテッリという素晴らしい選手もいますが、強さの秘密は何と言っても素晴らしいチームワークです。
オーガナイズされた息の合ったプレーは、まるで美しい音色を奏でるオーケストラのよう。プロビンチア(田舎)のチームをここまで押し上げたのは、監督のロベルト・デ・ゼルビ手腕によるところが大きいでしょうね。
実は、彼は私が監督としてのキャリアをスタートさせたセリエCのレッコというチームで、選手として所属していました。あれは2000―2001年。彼の獲得を強く望んだのも、何を隠そう私自身でした。
残念ながら、ケガに泣かされ期待したようなプレーはできませんでしたが、本当に才能を持った良い選手でした。選手としては素晴らしかったですが、これほどの良い監督になるとは正直まったく思っていませんでした。
ベンチから彼のプレーを見ていて、将来監督になるだろうことすら想像できなかったからです。技術的というより、どちらかというと彼の性格的な観点からです。サッスオーロでは緻密に戦術を落とし込み、チームは素晴らしいパフォーマンスを見せています。選手の彼からはそんな緻密さは微塵も感じられませんでしたから、期待は良い意味で裏切られました。
サッスオーロの試合を観ると、本当に彼の細かい指導が浸透していることを感じさせられます。後方からのビルドアップでチーム全体を押し上げ、ゲーム支配を目指すポジショナルな攻撃サッカー。限られた資金の中で、結果がでなかったときも我慢強くチームを作り上げた彼の手腕は、本当に称賛されてしかるべきでしょう。
私の中では、彼はすでにビッグクラブで指揮を執る準備もできたと思っています。いずれミランやインテルといったチームのベンチに座る姿が見られるのではないでしょうか。
2人の司令官にけん引されたミランはもちろん、サッスオーロの試合も今後ぜひ注目して観てもらいですね。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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