頭で理解しつつもスムーズに実行できない
昨シーズンの上位4チームが苦しんでいますね。
顕著だったのが第4節です。ユヴェントス、インテル、アタランタ、ラツィオが奪った勝ち点は、合計してもわずか1。波乱とまでは言いませんが、今後の混戦を予兆するかのような結果となりました。
UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)にも出場している4チームですから、まさしくセリエAを代表する存在です。それだけに驚きですが、ではなぜこのような惨状となったのか。
各チームの状態を順番に見ていきましょう。
まずはアウェーでクロトーネと1-1で引き分け、唯一、勝ち点を“獲得”したユヴェントス。格下の昇格組が相手でしたから、ファンにとって一番の驚きはこの一戦だったかもしれません。
とはいえ、試合を観ればこの結果も納得です。ドローに持ち込むのがやっとの内容でした。
選手個人に目を向ければ、唯一の光明はゴールを決めたFWアルバロ・モラタくらい。彼は今後に期待を抱かせるパフォーマンスを見せましたが、その他の選手と言えば…。相当な疑問符が付きました。
コロナ感染のFWクリスティアーノ・ロナウドを欠いた影響はもちろんあったと思いますが、個人というより、何よりまずチームとして機能していなかった印象です。
整理すべきことが多く、チームは言うなら作業中の「建設現場」のような状態。新監督のアンドレア・ピルロはまず、自らが描くサッカーのコンセプトをチームにしっかり浸透させていく必要があるのではないでしょうか。
クロトーネ戦の選手の動きからは、そう思うほど、監督のコンセプトを頭で理解しつつもまだスムーズに実行できないもどかしさみたいなものがありありと感じ取れました。
ピルロが目指しているサッカーは、昨季チームを率いたマウリツィオ・サッリのそれとはまったくの別物ですから、4節を終えた現時点ではそれもやむを得ないのかもしれません。
選手は今、サッリから1年間かけて植え付けられた戦術のディテールを、ピルロ流へと変換している段階。その作業を完了させるには、ある程度の時間が必要となるでしょう。
インテルの課題は中盤のバランスの悪さ
続いてダービーでミランに1-2で敗れたインテルです。
なによりも気になったのはチームのバランスの悪さ。これには私も正直、驚きました。
アントニオ・コンテがこれまで指揮したユヴェントス、チェルシーなどは、いずれも攻守のバランスがしっかりと保たれたチームだったからです。
ダービーで6選手(GKアンドレイ・ラドゥ、DFミラン・シュクリニアル、アレッサンドロ・バストーニ、MFアシュリー・ヤング、ラジャ・ナインゴラン、ロベルト・ガリアルディーニ)をコロナ感染で欠いたことは、酌量の余地があります。
実際にコンテは3バックの左右に本職でないアレクサンダル・コラロフ、ダニーロ・ダンブロージオを起用せざるを得ない状況でした。
もともと2人はサイドバックの選手ですから、センターバックの選手のような危機察知能力を持ち合わせていません。守備面で不安定な要素がもたらされた可能性は大いにあります。
ただ、それにしても選手の距離間が悪かった。コンパクトさに欠けていましたし、中盤にピンチを未然に防ぐフィルター役がいなかったことも問題でした。
攻守のバランスが悪いことで、相手にいとも簡単にボールをゴール前まで運ばれてしまうんです。そのためインテルの選手はどうしてもペナルティーエリア付近でボールを奪う作業に追われることになる。
特にトップ下のニコロ・バレッラがひとたびボールを失うと、チームは必ずと言って良いほどピンチを迎えていました。中盤はほとんどの時間帯で数的不利でしたね。
イヴァン・ペリシッチ、アクラフ・ハキミの両ウイングバックのポジショニングも気になりました。
常にタッチライン際に張っている位置取りで、個人的にはそれがミランに何度も中央突破を許した大きな要因だった考えています。
失点を防ぐには、彼ら2人が中に絞るなど、まずゴール中央をしっかりプロテクトしなければいけません。
試合の勝敗は中盤の攻防で決まると言っても過言ではありませんから、中盤のバランスの悪さは今後の課題です。コンテなら当然そのあたりは分かっているはずでから、次までにはきっちり修正してくるとは思います。
アタランタ大敗は驚きも、心配なし
そして、私の中でもっとも予想外だったのが、アウェーながらナポリに1-4で敗れたアタランタです。
ジャン・ピエロ・ガスペリーニは、選手の集中力を高く保つことがとても上手い監督。それこそ試合前に選手に確実な情報を伝え実践させることにおいて、彼の右に出るものはいないと思っているくらいです。
その意味でも、今回の大敗は驚きでした。
重要なことは、脱線した車をすぐに車道に戻すこと。ガスペリーニはそれがきっちりできる監督です。
本拠地ベルガモの落ち着いた雰囲気もプラスに働くでしょう。この敗戦でガヤガヤと騒ぐサポーターもいませんし、とやかく口を挟んでくる会長もいませんから。
チームのすべてを取り仕切っているのはガスペリーニです。選手もボスの言うことにきっちり耳を傾けるはずなので、個人的には何の心配もしていません。
見ていてください。ホームにサンプドリアを迎える24日の試合(日本時間22時キックオフ)は、きっと闘争心むき出しにプレーする選手の姿が見られるはずです。
吉田麻也のいるサンプドリアにとってはあまりうれしくないで状況でしょうけどね。
メンタル面で尾を引いている感じが
最後にアウェーで、その麻也がいるサンプドリアに0-3で敗れたラツィオ。ラツィオは昨シーズンのショックをいまだ引きずっている印象です。
昨シーズンは、一世一代のチャンスを逃しました。新型コロナの影響でリーグ戦が中断になるまで優勝争いをしていましたが、再開後に失速したのです。
ラツィオの面々には、優勝争いは初めての経験でした。シーズンが終わり一度リセットされたとはいえ、まだメンタル面で尾を引いている感じです。その状態で、ゼロからの再出発は決して簡単なことではないでしょう。
アタランタとは真逆で、何事にも一喜一憂するローマという土地柄も、現在の状況を考えるとプラスに働かないでしょう。
チームの調子が良いときは問題ありません。ただ少しでも負けが込むと、この世の終わりのような落胆ぶりが街中に広がり、最悪の場合はそれが怒りへと変化します。
昨シーズンの結果を踏まえ、ファンの期待は当然増しました。
逆に選手には大きなプレッシャーとしてのし掛かっています。決してポジティブな状況ではありませんね。
負けが込んで、今後大混乱に陥らないかだけが心配です。監督のシモーネ・インザーギは優秀ですから、立て直しに期待したいです。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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