クラウディオ・パスクアリンは弁護士にして、サッカーエージェントの草分け的存在だ。イタリアではジョバンニ・ブランキーニと双璧をなす大物代理人であり、数々のビッグディールを手がけてきた。
過去の顧客リストも華やかそのもの。マウロ・タソッティ、ジャンルカ・ヴィアリ、オリバー・ビアホフ、アレッサンドロ・デル・ピエロ、ジェンナーロ・ガットゥーゾらビッグネームがズラリと並ぶ。
第一線から退いた今は、サッカー番組などに引っ張りだこ。77歳のご意見番として活躍している。カルチョの裏の裏まで知り尽くす重鎮は、大金が飛び交う現在の移籍状況、業界をどう見ているのか。サッカー界で時に問題視される「仲介人制度」の闇に迫る。
顧客の「給与5%」が稼ぎ口だった
パスクアリン:変わってしまったよ、根本から。現在のサッカーエージェント業界のことだ。私がまだバリバリ働いていた10年前と比べれば、それこそ激変だ。しかも状況は酷くなる一方に見える。
その大きな原因となったのが「代理人公認資格制度」の撤廃だ。FIFAは2015年まで禁じていたんだ。オフィシャルのライセンスを所持していない者は代理人業務の一切に携われないとね。
だが、ルールの改悪により、各国のサッカー協会に登録さえすれば、誰でも移籍交渉や契約延長といった実務に手を出せるようになったんだ。
これがすべての始まりだったし、とんでもない「負」を創り出すきっかけとなった。クラブ間の交渉の際、中間に立って契約を取り次ぐ"仲介人"という産物をね。
今、カルチョメルカート(移籍マーケット)で多くのブローカーたちが暗躍している。かつての代理人業といえば、顧客である選手の「給与5%」が稼ぎ口だった。それが今では、エージェント、代理人と呼ばれる者たちは、暴利をむさぼるブローカー的な存在に変わってしまった。
それこそ数え切れないほど存在するよ。高額なコミッション(仲介手数料)を狙って"金のなる木"に近づく輩がね。
聞いて驚くなかれ。昨夏のカルチョメルカートで、セリエAの各クラブが仲介人に対して支払ったコミッションの合計金額は、実に1億5000万ユーロ(約195億円)にも上る。
決して選手の移籍金ではない。仲介業務をこなしたエージェントに対する手数料だ。
まさに荒稼ぎ。当然、各クラブは嘆き節だが、こんな状況は今後そう長くは続けられないだろう。とはいえこの酷いありさまを助長した責任は、クラブ側にもあるのだがね。
悪いのは現行のシステム
ただし、ブローカーたちは決して違法行為をしているわけではない。肩を持つわけではないが、彼らには手数料を要求する権利はある。現行のルールではそれが認められているからだ。
分かりやすい例を挙げよう。2020-21シーズン限りでミランとの契約が満了し、パリ・サンジェルマン移籍が確実な状況となっているジャンルイジ・ドンナルンマのケースだ。
このイタリア代表GKの代理人を務めるのは、ミーノ・ライオラ(写真)。
ライオラはミランとの契約延長交渉で、ドンナルンマに年俸1000万ユーロ(約13億円)、自らへのコミッションとして200万ユーロ(約3億6000万円)を要求した。ドンナルンマに年間1200万ユーロ(約15億6000万円)のサラリーを要求するのではなくね。
このやり方自体に、違法性はまったくない。ライオラがやり手なだけだ。
先にも言ったが、悪いのは現行のシステム。この悪しき仕組みこそが、以前ではあり得ない状況を作り上げたということ。ただそれだけの話しだ。
ブローカーが暗躍する状況に加え、今は新型コロナでどこも資金難にあえいでいる。従って今夏のカルチョメルカートでは、そんな大きな動きは見込めないだろうね。
補強という側面より、財政を立て直す動きが多くなると予想しているよ。各クラブはまず、選手を売りさばくことに注力するだろう。
もしくは何らかのアイデアを絞り出すかだ。保有資産を売却することによって得られるキャピタルゲイン(売買差益)を狙っての交換トレードといったね。
ただ交換トレードも、闇雲に行えば良いというものでもない。一歩間違えると、逆効果になるパターンもある。
バルセロナとユヴェントスが昨夏に行った、ミラレム・ピャニッチとアルトゥールのケースが最たる例だ。ピャニッチは昨シーズン、新天地バルセロナでほとんど力を発揮できず、今ではお荷物的な存在になりつつある。
それはアルトゥールもしかり。ユーヴェはこのブラジル人の売却先が見つからず、困り果てているからね。
キャピタルゲインが見込める交換トレードとは、こういったリスクもはらんでいるんだ。決して簡単ではないね。
ミランがイスコを獲得できたら…
今夏に大きな動きがあるとすれば、クリスティアーノ・ロナウド絡みとなるだろうね。その去就は、キリアン・エンバペが鍵を握っているんじゃないかな。
もしこのフランス人がレアル・マドリードへと動くようなことがあれば、クリスティアーノは玉突きのような形でパリ・サンジェルマンに移籍するかもしれない。
個人的には、古巣のマンチェスター・ユナイテッドに戻る可能性もゼロではないと見ているよ。
仮にそうなった場合は、ポール・ポグバのユーヴェ復帰の線も浮上してくるだろう。彼は以前からイタリアに戻りたがっている。
とはいえ、大金が動くビッグディールだ。選手のリクエスト、願望だけで何かが動くものではない。いずれにせよ、どこかしらがまず、財布の紐を緩める必要があるだろう。
ミランの動きには注目している。インテルに移籍したハカン・チャルハノールの後釜として誰を獲得するかについてだ。
その候補の一人として、レアル・マドリードのイスコ(写真)が挙がっているね。29歳のこのスペイン人は数年前まで、1億ユーロ(約130億円)の値札がついてもおかしくなかった。
それが今は2000万ユーロ(約36億円)まで下がったと言われている。もしミランがイスコを獲得できたら、理にかなった補強となるだろうね。
いろいろと予想は難しいが、EURO(欧州選手権)が終われば、世間の目は一気にカルチョメルカートに移るだろう。
イタリアでは昔から良くも悪くも、試合以上にカルチョメルカートへの注目度が高いからね(笑)。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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