当連載で冨安健洋を高く評価していたフランチェスコ・グイドリンが、再び『カルチョS級講座』に登壇してくれた。イタリアきっての戦術家であり、DAZNイタリアの解説者としても活躍する65歳の大物監督だ。
その智将が挙げるスクデットの本命は? 数多くの偉大なストライカーを指導した自身の経験も踏まえ、セリエAのアタッカー事情にも迫る。
◇ ◇ ◇
2021-22シーズンのセリエAがいよいよ開幕した。唐突だが、ズバリ言おう。私が考える優勝争いの本命は、ユヴェントスとインテルだ。
知っての通り、ユーヴェの一強時代が終焉した。昨シーズンに彼らの10連覇を阻んだのが、アントニオ・コンテ監督の下で目覚ましい進化を遂げ、11シーズンぶりにスクデットを獲得したインテルだ。
覇権奪回を狙うユーヴェ、王座を死守したいインテル―—。あくまで現時点の話だが、私の頭の中では一騎打ちの構図になっている。
新監督は勝ち続ける術を心得ている
ユヴェントスに関しては、主力の高齢化が気になる。34歳のレオナルド・ボヌッチはまだしも、クリスティアーノ・ロナウドは36歳で、ジョルジョ・キエッリーニは37歳になった。一般的に言えば、ピークを越えた年齢だ。
はたしてシーズンを通して働けるのか。その疑念は拭えない。ただ、そうした不安をかき消せる好材料がある。2018-19シーズン以来、2年ぶりのカムバックを果たしたマッシミリアーノ・アッレグリ監督の存在だ。
彼の復帰でなにより期待されるのが、選手に与える心理面でのプラス作用。なにしろアッレグリはユーヴェに在籍した5シーズン、一度もスクデットを逃さなかった指揮官だ。勝ち方を知り尽くし、さらに言えば勝ち続ける術を心得ている。
そんな彼が戻ってきたことで、選手たちにはまず安心感が芽生えたのではないか。「彼についていけば問題ない」とね。
百戦錬磨のアッレグリのこと。クリスティアーノをはじめとする主力の高齢化といった懸念材料も、しっかりとしたマネジメントで対処するはずだ。大胆なターンオーバーを機能させるなどしてね。
それに今のユーヴェを支えるのは、決してベテランだけではない。マタイス・デ・リフト、フェデリコ・キエーザといった勢いある若手も多く育っている。
キエーザと言えば、EURO2020でも素晴らしいプレーを見せてくれた。53年ぶりに欧州の頂点に立ったアッズーリにおいて、非常に重要な役割を果たしているよ。
アッレグリは若い力とベテランの経験を上手くミックスさせ、しっかりと勝ちに徹する集団を築き上げるだろう。だからこそ、私はインテルとともにユーヴェも優勝候補に挙げるのだ。
ジェコ獲得で損失は最小限に
一方のインテルは、今のところ不安材料ばかりが報じられている。それもそのはず。昨シーズンの主役、それこそ骨子となっていた人物が相次いでチームを去ったわけだからね。
まずは強烈なパーソナリティーでチームをまとめ上げていたアントニオ・コンテ監督の退団だ。そしてアクラフ・ハキミはパリ・サンジェルマンに売却され、極めつけにロメル・ルカクがチェルシーに移籍した。
2選手に関しては、クラブが抱える財政難の犠牲となった格好だが、これでは「チーム解体」と断じられても仕方がない状況だ。インテリスタたちが絶望にも近い感情を抱くのも、いわば当然だろう。
ただ、私はそれほど悲観的ではない。まずコンテの後釜にはシモーネ・インザーギを迎え入れた。ラツィオから引き抜いた新監督は45歳と若いながら、指導者としての経験値や知名度を十分に持っている。
そしてルカクの代役確保にも成功している。いまなおワールドクラスのストライカー、エディン・ジェコをローマから獲得したのだ。ルカクの穴は決して小さくないが、戦力的な損失は最小限に止められた印象だ。
言うまでもなく、ルカクは代えの利かない存在だった。昨シーズンは24得点を叩き出し、シーズンMVPに輝いた。点取り屋の仕事だけでなく、巧みなポストプレーでチーム全体を機能させる役割もこなす大黒柱だった。
ただジェコとラウタロ・マルティネスのコンビも決して悪くないはずだ。ハキミに関しては、そもそもルカクほど穴埋めが難しい存在ではない。その右ウイングバックと主戦場は異なるが、入団説のあるMFホアキン・コレア(ラツィオ)を獲得できたら、昨シーズンに近いレベルの陣容が整うだろう。
優勝候補の2チームを追いかける存在として、アタランタ、ローマ、ラツィオ、ミラン、ナポリを挙げたい。
インテル、ユヴェントスにとっては、彼らとの対戦でいかに勝点をとりこぼさないか。そのあたりも優勝の大きな鍵となりそうだ。
大御所FWに注目が集まる理由
ここからは話題をガラッと変えて、今シーズンの活躍が期待されるセリエAのストライカーたちについて話そう。
私はこれまでに数多くの一流フォワードを指導してきた。パレルモでエディンソン・カバーニやルカ・トーニ、ボローニャでジュゼッペ・シニョーリ、スウォンジーでエマニュエル・アデバヨールといった具合にね。そうした過去もあり、ストライカーには特に注目している。
世間の注目度が高いのは、さきほど触れたクリスティアーノやジェコ、そしてズラタン・イブラヒモヴィッチ(ミラン)、ファビオ・クアリャレッラ(サンプドリア)らベテランだ。今シーズンはチェルシーからやって来たオリヴィエ・ジルー(ミラン)にも光が当たりそうだね。ご存知のとおり、EURO2020に出場した34歳のフランス代表だ。
彼らのような大御所に注目が集まるのは、フォワードの有望株が少ないというセリエAの実情もあるだろう。いまや金に糸目をつけずに補強できるのは、世界中でも7~8クラブくらい。資金繰りに苦戦するイタリア勢が、ライジングスターを獲得することはなかなか難しい。
ただ、イブラヒモヴィッチにせよ、ジルーにせよ、素晴らしいクオリティーを持った現役選手であることには違いない。そんなベテランたちが見せる老練なプレーは、個人的にすごく興味がある。若いストライカーにとっては格好の見本になるはずだ。
ブレイクが期待されるラスパドーリ
もちろん、有望なヤングタレントが一人もいないわけではない。例えば、サッスオーロのジャコモ・ラスパドーリ。イタリア代表の一員として、EURO2020に参加した2000年生まれの逸材だ。EUROでは1試合出場に終わったが、今シーズンはさらなるブレイクが期待される。
インテルのラウタロ・マルティネスにしても23歳と若い。コンビを組むジェコから、多くのものを吸収できるだろう。ローマがチェルシーから獲得したタミー・エイブラハムも将来が楽しみなアタッカーだ。
若手の力を伸ばすには、指導者たちの忍耐力が不可欠だ。結果が出なくても、我慢して使い続けることが大切になる。
その点を考えると、アッズーリをEURO制覇に導いたロベルト・マンチーニ監督の采配は、セリエA全体に大きな影響を及ぼすだろう。ラスパドーリといった若い選手を積極的に起用し、優勝という結果まで手にしたのだからね。各クラブの指揮官には、マンチーニのような若手の積極起用を期待したい。
セリエAはここ数シーズンでクラブ間の実力差がより縮まった印象だ。今シーズンも観るものを楽しませる、白熱した展開になるだろう。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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