NFLのドラフトの歴史に新たな1ページが加わった。
NFLの2021年ドラフトは、優秀な人材が揃った「クオーターバック〔QB〕の当たり年」との前評判どおり、5人が1巡目指名を受けた。
1位:トレバー・ローレンス(ジャクソンビル・ジャガーズ)
2位:ザック・ウィルソン(ニューヨーク・ジェッツ)
3位:トレイ・ランス(サンフランシスコ・49ers)
11位:ジャスティン・フィールズ(シカゴ・ベアーズ)
15位:マック・ジョーンズ(ニューイングランド・ペイトリオッツ)
5人の1巡指名は1999年と2018年に並ぶ歴代最多で、1〜3位のQB指名は1971年と1999年に次いで史上3度目。さらに、2巡目32位でカイル・トラスク(タンパベイ・バッカニアーズ)、3巡目2位でケレン・モンド(ミネソタ・バイキングス)、3巡目3位でデイビス・ミルズ(ヒューストン・テキサンズ)が指名を受け、3巡で8人は歴代最多となった。
勝敗の鍵を握るQBは厳しいポジション
チームの司令塔として勝負の絶対的な鍵を握るQBは最も重要なポジションで、ディフェンスの進化に伴い、オフェンスも複雑化している昨今は、エリートQBがいないチームは勝てないというのがリーグ全体の共通認識だ。多くのチームが1〜3巡という上位指名でQBを求めたのは、こうしたトレンドの反映と言えるだろう。実際、昨季のスーパーボウルで頂点を争ったのは、タンパベイ・バッカニアーズがトム・ブレイディ、カンザスシティ・チーフスがパトリック・マホームズと、ともにスペシャルなQBを擁する2チームだった。
ただ、それだけにポテンシャルを全面的に開花させるのが難しいのがQBだ。99年の1〜3位指名も、成功したと言えるのは2位のドノバン・マクナブ(フィラデルフィア・イーグルス)だけで、1位のティム・カウチ(クリーブランド・ブラウンズ)と3位のアキリ・スミス(シンシナティ・ベンガルズ)は、大きく期待を裏切った失敗例として記憶に残る。
全体1位指名で消えていったQBも枚挙にいとまがなく、才能に疑問の余地がないローレンスも成功が約束されているわけではない。全体1位指名権を持つのは、直前のシーズンで最も成績が悪かったチームで、すなわち戦力が脆弱だ。ジャガーズもその例に洩れず、昨季は1勝15敗と散々だった。新人QBが簡単に活躍できる環境ではないのだ。
もっとも、ジャガーズは今オフ、ヘッドコーチ〔HC〕を変えるなどチーム再建に着手。新HCに迎えたアーバン・マイアーはカレッジで実績を築いた名将で、どうしたらローレンスの能力を最大限に引き出せるか心得ているはずだ。クレムゾン大でローレンスを助けていたランニングバック〔RB〕のトラビス・イティエンを1巡目25位で獲得するなど、抜かりなく支援態勢を整えている。
ランス&ジョーンズはより良い環境へ
成功するための環境がより整っているのは、49ersのランスとペイトリオッツのジョーンズだろう。
49ersは昨季は負け越したが、故障者の続出が響いての不振であり、スーパーボウルに出場した2年前からチームは大きく変わっていない。当面のエースQBはジミー・ガロッポロで、ランスはまずは控えとして学ぶ余裕がある。なにより、QBの育成手腕に優れたカイル・シャナハンHCの指導を受けられるのは大きなメリットだ。
ペイトリオッツのジョーンズについても同様のことが言えるが、ランスとも、1巡指名の他の3人のQBとも決定的に異なるのは、トム・ブレイディの後継者という巨大なプレッシャーがかかること。パスの正確性など才能は折り紙付きで、アラバマ大という強豪校で揉まれ、昨季は全米王者に輝いているジョーンズだが、重圧への耐性がどれだけあるか、試されるのはメンタルタフネスだろう。
はたして、2021年のドラフト指名組からエリートQBは生まれるだろうか。実力のほどが明らかになる数年後が楽しみだ。
新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がる中で迎えた昨年のドラフトは、完全リモート形式での開催で、ワクチン接種など感染防止対策が進んだ今年は、ショーアップした会場でコミッショナーが指名選手を読み上げる通常のスタイルを取り戻した。ワクチン接種を済ませたコミッショナーのロジャー・グッデルが、選手を壇上に迎えてハグをする。コロナ禍に立ち向かい、希望を示し続けるNFLのパワーを改めて見た気がしたドラフトだった。
文・松野敏史(まつの・としふみ)
「ワールドサッカーダイジェスト」と「サッカーダイジェストWEB」で副編集長を務める。2020年4月にフリーランスのライター、編集者、翻訳者として独立。プレミアリーグを中心としたヨーロッパのサッカーに精通し、NFL、NBA、MLBなどアメリカのプロスポーツへの理解も深い。スポーツに限らず物事を多角的に捉え、本質を掘り下げることに興味と関心がある。
NFL ドラフト 2021
開催日 | 時刻 | 配信内容 |
---|---|---|
4月30日(金) | 9:00 | 第1日 |
5月1日(土) | 8:00 | 第2日 |
5月2日(日) | 1:00 | 第3日 |
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