3年前の英国。木々が揺れる林間コースで渋野日向子がウィニングパットを沈めた。最終日最終組で回った南アフリカのアシュリー・ブハイが、”スマイリングシンデレラ”と呼ばれた20歳を祝福する。物語のヒロインのような42年ぶり日本人メジャー王者の誕生。これは夢か−。そんな周囲の困惑をよそにトロフィーを掲げる渋野は、ただ無邪気に笑っていた。
「なんで私が勝っちゃたんだろう?って思います。私で良かったのかな?本当に余計なことしましたよね」。メジャー大会初出場で初優勝。タイトルの重みを知らないからこそ、天真爛漫に走り抜いたビギナーズラックだったのだろう。当時のバーディを狙うゴルフは1週間で自らの運命を大きく変えた。
ゴルフ界の顔になったこの3年間は、ゴルフ場以外でも難しい時間を過ごした。コーチからの独立、スイング改造、米ツアーへの参戦。新たな取り組みをすれば、必ず周囲から雑音が聞こえた。スマートフォンを開くと自らへの”声”が目に入る時代だ。宝物は母からもらった手紙と答え、数万円するネックレスを購入する際は周囲の大人に相談した。そんな一般的な感覚を持つ渋野は、この重圧にじっと耐え、自らの道を拓いてきたのだろう。
プレースタイルは変わり、ゴルフに対する考え方も大きく変わった。得るものもあれば、失うものもあったかもしれない。ただビギナーズラックとは言われないメジャー制覇を成し遂げたい。そんな強い芯を胸に秘め、泥臭くも着実に自らのキャリアを進めてきたのだと思う。
そして渋野は間違いなくメジャー大会で結果を残している日本選手の1人だ。2020年12月の「全米女子オープン」では最終日を首位で迎えて4位。今年3月の「シェブロン選手権」では首位で迎えた3日目に崩れたが、最終日に巻き返して4位になった。
原点とも言うべき「全英女子オープン」は1打差の3位に終わった。最終日最終組でともに回り、メジャー初タイトルを獲得したのは、奇しくもあのブハイだった。チョン・インジ(韓国)との4ホールに及ぶプレーオフに終止符を打ったブハイは破顔した。18番グリーン脇では、3年前の全英女子チャンピオンが当時のお返しと言わんばかりに祝福の拍手を送っていた。
リンクスコースを泥臭く戦い、メジャータイトルの重みを噛み締め、現実と向き合い悔し涙をぬぐい、自らの道を歩み、笑顔になってグリーン脇に戻ってきた渋野日向子がそこにいた。
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