開幕戦で見事な復活優勝を挙げた申ジエ(韓国)。2季ぶりにトロフィを掲げ、通算30勝の永久シードへ残り3勝に迫った。勝利のなかった昨季は山下美夢有が史上最年少で年間女王に輝くなど”世代交代”を印象付けるシーズンになった。今季は申が若手の前に立ちはだかるのだろうか。
「若手の壁になる」。プロゴルフツアーでは聞き馴染みのあるフレーズだ。他スポーツと比較して現役生活が長く、特に優勝争いでは経験値や精神面がものをいう競技。勢いのある若手に、背中で勝負の厳しさを伝えるのもベテランの役割という認識があるのだろう。「壁になる」というフレーズはよく使われる。
どの時代も「壁」は存在した。宮里藍さんが衝撃的なデビューを飾ったシーズンも、その前には不動裕理が立ちはだかった。2010年以降はアン・ソンジュ(韓国)が年間タイトルの常連となった。さらにあれだけ勢いのあった黄金世代は誰一人年間タイトルを手にしていない。最もチャンスのあった2019年の渋野日向子は、鈴木愛と申との争いの末、最終戦で鈴木に軍配が上がった。
「壁」の存在が対立構図をはっきりとさせ、ツアー全体を盛り上げていた。そして年間タイトルこそ獲得していないが、毎週のように上位に顔を出し、若手選手に簡単には優勝させないという雰囲気を醸し出していたのが、数年前の申のように思う。勝負どころでギアを上げ、接戦に持ち込んでも最後は申が勝つ。そんな光景はツアー会場で”定番”になっていた。
日本の若い選手たちの壁になってきた申。ただ彼女は同時に優しく日本の若い選手を見守っているようにも思う。長年申のマネージャー兼通訳を務める金愛淑さんにこんな話を聞いたことがある。「ジエのオフの合宿には日本の若い選手も来ていた。そこでその若い選手が『予選落ちが続いたこと』をジエに相談したんです」
「するとジエはその若い選手に『あなたは初日の結果を受けて2日目の朝にホテルをチェックアウトしている。それはラウンドをする前から諦めているのも一緒だと思う』と優しい口調でもストレートに伝えました。『たとえ初日の結果が悪くても、巻き返すという原動力は、そういう小さな日々の行動の連続から生まれるはず』と。その若い選手はハッとした様子でしたね」
黄金世代が勢いに乗り注目を集めていた時期、申は期待を込めてこう言った。「日本の若い選手は、いつか世界のトップレベルで戦える。だから私が、何かを伝えられたら良いと思う。彼女たちの経験にして欲しいんです」。世界のトップに立った選手だからこそわかる本当の勝負の厳しさや楽しさがあるのだろう。
世界中で60勝以上を挙げ、米韓でも賞金タイトルを獲得した現役レジェンドが日本ツアーにいる。盟友たちが現役を退く年齢になっても戦うことをやめない。確かな技術に加え、優しさや強い精神力を兼ね備える学ぶべき最高の教科書なのだと思う。
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