両雄にとって早すぎるクラシコ
バルセロナとレアル・マドリード(以下マドリー)のライバル関係に妥協はなく、彼らはいつだって対立していなくてはならない。しかし今回については、ともに一つの考えを共有しているはずだ。すなわち、今季のクラシコ開催があまりに早い、という考えを。
昨季バイエルンに歴史的大敗を喫し、メッシ退団騒動にも揺れたバルセロナは、チームを構築している真っ最中。一方の昨季ラ・リーガ王者のマドリーは、カディス、シャフタール・ドネツクを相手に数カ月前の姿など見る影もない敗戦を喫して危機的状況に陥っている。こうした両者の状況が、今回のクラシコを特異なものとしてしまっている。
自信を失い、立ち上がらなければならないマドリーと比べれば、バルセロナの方が良い状態でこの一戦に臨めるのは確かだ。マドリーが抱えてしまった問題は至極単純なもので、今一度コレクティブなプレーを取り戻さなくてはならない。
統率が取れず、強度を失うマドリー
彼らが昨季ラ・リーガを勝ち取った要因は攻撃力にはなく、ティボー・クルトワ、ラファエル・ヴァラン、セルヒオ・ラモス、カゼミーロを中心とした大盾を構えるような守備力にあった。今季も相変わらず攻撃力は凡庸以下だが、しかし守備力も失ったのは予想外だった(今季の被シュート本数の1試合平均は12本。昨季より3本多い)。マドリーの守備の崩壊は今季2試合目のベティス戦から兆候が見えていたが、カディス戦でそれが完全に認められ、シャフタール戦で行くところまで行った。マドリーが脆弱なチームとなった理由は多岐にわたるが、しかしプレッシングの統率が取れておらず、各ラインが開いてしまっていることが致命的となっている。
ジダンは選手たちにハイプレスを仕掛けることを求めているが、それを実現するためには全員の意思統一が必要となる。カゼミーロをはじめ中盤の選手たちは相手のビルドアップを妨げるために前へと出ていくが(明確に追う選手は決められていないものの、クラシコでは変化があるかもしれない)、両センターバックが上がらないことでライン間が広まってしまい、サイドバックの裏にもスペースが生まれている。DFとMFの間のスペースでいかに前を向くか、または向かせないかこそがフットボールという競技の本質だが、マドリーはパス回しでもドリブルでも、そこで簡単に前を向かせてしまっているわけだ。
現状のマドリーのプレー構造に求められる激しいアップダウンに適した人材は、真のボックストゥボックスの選手であるフェデリコ・バルベルデ以外にはいない(それはバルセロナにも同じことが言える)。そのためにヴァランとS・ラモスの狙い通りではなく即興的な潰し、そして言葉通り最後の砦であるクルトワの驚異的なセーブに頼ってしまっている。そうした欠陥が過剰なほどに表れたのがシャフタール戦だ。相手のトランジションを止める術がなくなり、センターバックよりもサイドバックの方が後方にいる始末だった。
前でボールを奪えず、攻守のバランスが崩れ、後方に走っても後の祭り……。これがマドリーの現状だ。彼らは今回のクラシコで、ボールを失った後にプレッシングの強度と組織力を上げて、速攻からバルセロナを脅かさなくてはならない。速攻ではカリム・ベンゼマがサイドに流れて、そこにヴィニシウス及びマルコ・アセンシオが絡んでセルジ・ロベルトかセルジーニョ・デスト(ジェラール・ピケとクレマン・ラングレのセンターバック含め)の背後を突く必要がある。
今のマドリーにはポジショナルな攻撃をする力がなく、トランジションからゴールを狙わなければ不幸せになる。今季ラ・リーガで決めたゴールの平均パス本数は4本で、ゴールを決めるまでの攻撃時間は12秒。対してバルセロナはパス17本で攻撃時間が40秒である。だからこそクラシコで、マドリーはプレッシングの効果性を上げなければならない。そうできなければ敗戦は必至となり、カディス&シャフタール戦で負った傷はさらにえぐられて治癒が不可能になるかもしれない。
再構築中のバルサはシステム上優位に立つ
対するバルセロナは、ここまでのプレーシステムでクラシコをコントロールできるかもしれない。
バルセロナのビルドアップは2(センターバック2枚)+4(サイドバック2枚とボランチ2枚)で行われ、コウチーニョかペドリが相手選手を引きつけてセルヒオ・ブスケツとフレンキー・デ・ヨングの2ボランチ、または両センターバックがフリーの選手にパスを出していく。マドリーにしてみれば、アンス・ファティとリオネル・メッシにデュエルを仕掛けられぬように守備ブロックを調整しなければならない。カゼミーロがブスケツかデ・ヨングを追うとすれば、メッシにS・ラモスとヴァランに挑む時間とスペースを与えることになるからだ。
今のバルセロナは、アントワーヌ・グリーズマンとA・ファティが時おり試みてはいるものの、両センターバックの背後を狙うプレーがそこまで怖くない。よってピッチ中央で動くメッシを封じることはマドリーにとって重要となる。前節でバルセロナに勝利したヘタフェはそこを突き詰めたプレーを見せ、ピケとラングレに意味のないボールを回させることに成功していた(その試合のピケとラングレのパス本数はそれぞれ81、72本)。
ロナルド・クーマン率いるバルセロナは、ポジショナルな攻撃の効果性について疑問を残している。クーマンはA・ファティを含め、中盤から前の選手にサイドに開くようなプレーを指示しておらず、そうした役割は両サイドバックだけがこなしている。しかも右利きのデストは左サイドバックでのプレーに苦労しており、右サイドバックのセルジ・ロベルトだけでは満足な攻撃を仕掛けられない(サプライズでウスマン・デンベレかトリンカォンが出場するなら話は別だが)。
メッシ、またはグリーズマンをファルソ・ヌエベ(偽9番)で起用することについても、攻撃の最終フェーズで確度のあるチャンスを手にすることには繋がっておらず、まだ確固とした攻撃手段は確立されていない印象だ。とはいえ、マドリーの弱点がアンカーを務めるカゼミーロの両脇であることは変わっておらず、中央で動き回るA・ファティ、グリーズマン、メッシのプレーがガチっとはまるならば、そこで決定機は生むことも可能だろう。
しかし、バルセロナはやはりマドリーのDFラインを広げることが必要となるだろう。もしカゼミーロ、ヴァラン、S・ラモスがサイドのカバーに入ることになれば、中央レーンの守備の厚みは薄くなり、そうした状況を引き起こせればグリーズマンだって生きてくるはずだ。バルセロナでは一向に輝けずにいるフランス代表FWだが、その一因はバルセロナがワイドな攻撃を展開していないことにある。今季、彼のバルセロナにおける平均パス本数は30本で、フランス代表として戦った4試合の平均パス本数の半分ほどである。
バルセロナとフランス代表で、これだけ見せる顔が違うというのは、まさに異常だ。グリーズマンは新たなスタートを切ったバルセロナで、メッシとの連係を深めながら、自分の確固とした役割を見つけなくてはならない。ここから上向くために、クラシコ以上に絶好の舞台は存在しないはずだ。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
ラ・リーガ 第7節 日程
開催日 | キックオフ (日本時間) | 試合 |
---|---|---|
10/24(土) | 深夜4:00 | エルチェ vs バレンシア |
10/24(土) | 20:00 | オサスナ vs ビルバオ |
10/24(土) | 23:00 | バルセロナ vs レアル・マドリード |
10/25(日) | 深夜1:30 | セビージャ vs エイバル |
10/25(日) | 深夜4:00 | アトレティコ vs ベティス |
10/25(日) | 20:00 | バジャドリード vs アラベス |
10/26(月) | 深夜0:00 | カディス vs ビジャレアル |
10/26(月) | 深夜2:30 | ヘタフェ vs グラナダ |
10/26(月) | 深夜5:00 | ソシエダ vs ウエスカ |
10/27(火) | 深夜5:00 | レバンテ vs セルタ |
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