運命は自分たちの手の中に
「名誉」以外にほとんど何も懸かっていないというのに、今季のコッパ・イタリア決勝はとにかくエモーショナルだ。
トピックスはいくつもある。
リーグ10連覇を逃したユヴェントスにとっては、それでもこの1年は間違いではなかったという“意地”を示したい重要なタイトルだ。苦悩する指揮官アンドレア・ピルロはこの日が42歳の誕生日。今季限りでの退団を発表し、引退の可能性も噂されているGKジャンルイジ・ブッフォンにとっては、ユヴェントスのユニフォームを着てピッチに立つ最後のゲームとなる可能性が高い。
今週末、ボローニャと対戦するセリエA最終節がCL出場権を懸けたまさに“運命の一戦”であるだけに、この試合に勝ち、タイトル獲得の勢いに乗ってラストゲームに臨みたいのが本音だろう。指揮官ピルロは言った。
「今は目の前のトロフィーだけに集中している。日曜日に行われるリーグ戦のことを考えて、このゲームに対するエネルギーが失われることがあってはならない。この2試合をうまく戦い抜くことはできる。私はそう思っている」
一方、1962-63シーズン以来となるカップタイトルを狙うアタランタは、ここ数年、サッカーの質と内容ではむしろ王者を上回り、結果でも肉薄してきた“打倒ユヴェントス”の急先鋒だ。
クラブ史上初のリーグ2位フィニッシュが懸かるセリエA最終節ではCL出場権獲得を目指すミランとのビッグゲームが控えているが、宿敵とのタイトルマッチで手を抜くつもりは毛頭ない。指揮官ジャンピエロ・ガスペリーニは言った。
「運命は自分たちの手の中にある。アタランタにもミランにもユヴェントスにも言えることだ。我々はコッパ・イタリアのタイトルを取り、セリエAを2位で終える。そのために最大限のことをするし、この試合で戦力を温存するなんて発想はバカげている」
「密集の攻撃」vs「密集の守備」
両者の対戦にあたっては、第31節の直接対決が展望する上でのヒントになるだろう。
この試合は、今季のセリエAにおけるベストゲームの1つだ。結果的にはアタランタがリーグ戦では20年ぶりとなる勝利を挙げるのだが、両者とも試合開始と同時にフルテンションのインテンシティーを発揮し、それを最後まで維持して相手ゴールに迫り続けるハイレベルな90分だった。
おそらくアタランタは、この成功例を今回もぶつけてくるだろう。
ユヴェントスは4-4-2をベースとするが、ボール保持時は逆サイドのサイドバックが中央レーンに入り込む形でビルドアップに加わる。そのため、攻撃のスイッチを入れる“1本目のパス”はサイドバックではなくセンターバックから供給されやすい。第31節の対戦でアタランタが3-4-2-1ではなく3-4-1-2を選択した理由はそこにあった。ユヴェントスのCBに2トップをぶつけることで高い位置から圧力をかけ、パスコースを限定し、中盤でマンツーマン守備の強みを発揮していくつものインターセプトを記録した。
逆にユヴェントスにとっては、このプレスをいかにして回避するかが大きなポイントとなるはずだ。
アレックス・サンドロの不在時はダニーロを左SBで起用するため、チーム内トップのアシスト数を記録しているフアン・クアドラードが右SBに入る。すると必然的に“左サイドからのビルドアップ”が増えるのだが、そこからいかにして突破口を切り開くかがアタランタ攻略の大きな焦点となる。
同サイドにあえて「密集」を作り、逆サイドにスペースと時間を作ってそこで“個”の違いを見せつける。それが、ピルロが試行錯誤を重ねながら作り上げてきた攻撃の基本戦術だ。今シーズンの失速の原因は同サイドの密集から逆サイドに展開する質とスピードの低下にあり、ミスを重ねてはショートカウンターを食らって失点を重ね、勝点を取りこぼしてきた。
一方のアタランタは、周知のとおり「密集の守備」を最大の武器とするチームだ。あえて人数をかけて相手を追い込み、準備万端の1対1の局面にパスを誘い込む。第31節の結果は1-0と僅差だったが、内容面ではユヴェントスによる「密集の攻撃」をアタランタによる「密集の守備」が上回ったことで、両者にとっては大きすぎる1点の差が生まれたと見ている。
表情はキックオフ直後に浮かび上がる
半分は真実、半分はストーリーを煽る飛躍的な考察であることを承知で言えば、ユヴェントスにとって第31節アタランタ戦は、今季終盤における下降曲線、すなわち自力ではUEFAチャンピオンズリーグ出場権を獲得できない現状の引き金となるゲームだったと言えるだろう。
あの一戦を重要なデータとした上で、両指揮官がどのような戦術を採用し、どのようなモチベーションコントロールでこの一戦に臨むのか。スタメンの顔ぶれやシステムはもちろん、キックオフ直後の強度にもこの試合の表情がしっかりと浮かび上がるはずだ。まずはそこに注目したい。
アタランタは欠場者なし。来季着用する新ユニフォームをお披露目するユヴェントスは、出場停止でA・サンドロを、膝のケガでレオナルド・ボヌッチを欠くがそれ以外に欠場者はいない。つまり両者とも“ほぼベスト”の布陣を組める。しかもイタリアでは8カ月ぶりとなる“有料観客動員”が認められ、約4300人が入場予定とのこと。試合前にはイタリア人歌手アンナリーザによる国歌独唱もある。
「名誉」以外はほとんど何も懸かっていない一戦だが、両者にとっては絶対に譲れないはっきりとした理由がある。今シーズンのコッパ・イタリア決勝が、今シーズンのイタリアサッカー界の“結末”を迎えるにあたって非常に重要な一戦であることは間違いない。
文・細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『CALCIO2002』『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』編集部などを経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動している。DAZNセリエA解説者。ジェフユナイテッド市原・千葉オフィシャルライター。
放送・配信予定
- 配信:DAZN
- キックオフ:2021年5月20日(木)日本時間4:00
- 解説:細江克弥 実況:北川義隆
- 会場:チッタ・デル・トリコローレ
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