「抵抗について、お前たちが俺に講釈を垂れても無駄さ。俺のアトレティコ・デ・マドリーなんだからな」
スエイン人歌手のホアキン・サビナとレイバは、昨年に愛するクラブの歌を発表した。サビナは過去にクラブ創立100周年イムノも手掛けており、「雲の上と下を行ったり来たりだ」と歌っていた。そしてオリジナルのイムノでは「彼らは己の色を守るべく、兄弟のように戦う」と歌われている……。
これら3曲すべてが、今季のアトレティコを象徴しているようだ。ディエゴ・シメオネが率いる彼らは、抵抗して、苦しんで、チームとして戦い続けている。その軌跡はまさにジェットコースターだったが、最後の最後に、最高高度に到達している。ラ・リーガ最終節、アトレティコは残留を目指すバジャドリーを相手に、自分たち次第で1位か2位でシーズンを終えることになるのだ。
今季の決着がつくのは22日。舞台はバジャドリーの本拠地ホセ・ソリージャ。アトレティコにとってこの状況は目新しいことではない。彼らは優勝を果たした過去10回のラ・リーガの内、9回を最終節で手中に収めたのだから。シメオネにとっては、カンプ・ノウで1-1同点に追いついて手にした優勝に続き、2回目の経験となる。結局アトレティコは、苦しまなければ栄光に届かないのだ。
紆余曲折を経てたどり着いた最終局面
シーズン序盤は順調だった。2位以下に勝ち点10差をつけて首位を快走し、新聞は「独走」の文字を紙面に躍らせ、サポーターではない人々は「アトレティコがチャンピオンだな」と予想していた。
だが、大方のサポーターは分かっていた。「いやいや、まだ道は長い」と語りながら、シメオネのように目前の一戦だけを睨み続ける……。
彼らはクラブの歴史、気質、2強との戦いがいかに困難なことであるかを分かっていたのだ。無論、極限まで苦しんだ末、2強と比べれば数少ない成功をつかむが故に、人生の教訓と快感が得られることも。
サポーターの読みは、当然ながら当たることになる。最初はつまずいていた2強も2021年から勢いづき、サポーターではない人々は「アトレティコは抜かれるな」と簡単に予想を変えた。新聞も大袈裟にアトレティコの失速を報じて、大きく揺さぶりをかけようとした。
だがしかし、アトレティコは首位のままラ・リーガ最終節を迎えた。バルセロナはすでに脱落して、残る競争相手は永遠のライバル、レアル・マドリーのみで、2位の彼らとの勝ち点差はわずか2。シーズン終盤の道程を振り返ると、常軌を逸していた。
第28節アラベス戦、1-0で迎えた終盤にヤン・オブラクがPKをストップ。
第34節エルチェ戦、またも1-0で迎えた終盤にPKを与えて、今度はポスト直撃。
第35節バルセロナ戦、メッシの独走からのミドルをオブラクが指先で弾き、終盤のデンベレのシュートはクロスバーの上へ。
第33節延期分バルセロナ対グラナダ、バルセロナは勝てば首位に立てたが1-2の逆転負け。
第35節マドリー対セビージャ、マドリーは勝てば首位に立てたが2-2ドロー。
そして第37節オサスナ戦、マドリーが同時開催のアトレティック・クラブ戦でナチョが先制点(後の決勝点)を決め、一方で失点していたアトレティコは19分の間、2位に順位を落としていたが、82分にロディ、そして88分にルイス・スアレスの9試合ぶりゴールが決まってスコアでも順位でも逆転……。
シメオネのチームは多くの命運を分ける場面を体験して、ここまでたどり着いたのだった。
アトレティコの人間であること
オサスナ戦、アトレティコは孤立していなかった。もちろんサポーターとは精神的にいつだってつながっているが、距離的にも肉体的にもそうだったのだ。本拠地ワンダ・メトロポリターノの外では5000人ものロヒブランコス(赤白たち)が集まり、力の限りの声援をスタジアム内に届けていた。L・スアレスが決めたとの情報は歓喜の声をあげさせ、その後には涙を流す人たちもいた。
アトレティコは今季ラ・リーガのトロフィーを掲げるかもしれないし、触れることができないかもしれない。だが私の良き友人が語る通り、「ここではアトレティコの人間であることが大切なのだ」。このクラブのサポーターは、タイトルだけを目指してサポーターをやっているわけではない。もちろん、タイトルを求めるのは当たり前だが、そのために動いているわけではないのだ。
彼らの情熱は、いつだって気まぐれで、ときに(いや、かなりの頻度で)不公平で、枠内に入りたがらないボールという物体を越えていく。実際的に、彼らが最もクラブ愛を示す瞬間は、最悪の敗戦を喫した直後だ。彼らは、2強のサポーターなど比にならないほど堂々と、高々とマフラーを掲げる……。そう、ここにあるのは一つの生き方、人生の捉え方、信仰、家族なのである。
土曜日、アトレティコは11回目のラ・リーガ優勝を果たすべく、最後の戦いに臨む。優勝を果たすならば、それは雲の上と下を行ったり来たりしたサバイバーが報われることとなる。勇気とハートをみなぎらせて(これもオリジナルのイムノの一節)、兄弟のように戦ったことへの褒賞を手にすることになるのだ。……抵抗、抗う、という意味を誰かに説明されるまでもなく、深く理解している連中がいる。
彼らは、アトレティコ・デ・マドリーの人たちである。
文=ハビ・ゴマラ(Javi Gomara)/ スペイン紙『ムンド・デポルティボ』アトレティコ・デ・マドリー番
翻訳= 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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