失点を繰り返す危険度は決して低くない
残念ながら、万全の状態にはほど遠い──。
リヴァプールは大黒柱のフィルジル・ファン・ダイクを失った。プレミアリーグ第5節のマージ―サイド・ダービーで右膝十字靭帯損傷。今シーズン中の復帰は極めて難しい。
また、アレックス・オクスレイド=チェンバレンとファビーニョも負傷で使えず、チアゴ・アルカンタラは新型コロナウイルスの陽性から回復したものの、現地時間5日の全体練習には姿を見せていない。
一方、マンチェスター・シティも傷だらけだ。ケガで戦列を離れているセルヒオ・アグエロ、バンジャマン・メンディ、フェルナンジーニョの復帰は早くて11月下旬。3日のオリンピアコス戦(UEFAチャンピオンズリーグ)に途中出場し、ゴールを決めたガブリエウ・ジェズスに関しても、ジョゼップ・グアルディオラ監督は慎重な姿勢を崩さなかった。
「先発が可能なコンディションに戻っているのか、入念にチェックする」
しかし、ダメージはシティの方がやや小さい。なにしろリヴァプールは、“あの” ファン・ダイクを欠いている。前節のウェストハム戦では代役のナサニエル・フィリップスが健闘したとはいえ、過度の期待を寄せるのは酷だ。ウェストハムが消極的で、フィリップスの能力がほとんど試されなかった事実を忘れてはいけない。
アグエロが起用できないとはいえ、シティの攻撃は変幻自在だ。ありとあらゆる手法で対戦相手を崩しにかかる。フィリップスにとっては未知の領域だ。対応が遅れ、無駄なファウルを犯すリスクが付きまとう。
フィリップスとともに先発が予想されるジョー・ゴメスは、これまでファン・ダイクに使われてきた。ディフェンスリーダーの器ではまだない。
コントロール機能を失ったリヴァプールが、失点を繰り返す危険度は決して低くないはずだ。
勝てば活気づき、敗れるとダメージが蓄積
もっとも、シティにだって弱点はある。とりわけ左サイドだ。ジョアン・カンセロ……。軽すぎるし、緩すぎる。前節のシェフィールド・ユナイテッド戦でもボールホルダーに寄せず、スプリントした相手を傍観し、パスコースに入ることもしなかった。
リヴァプール戦で対峙するのは、基本的にモハメド・サラーだ。この男を追い越して、トレント・アレクサンダー=アーノルドがやって来る。ディオゴ・ジョタはプレッシングマシンの異名を持つ。シティの左サイド、崩壊!?
キックフェイントを折りまぜた切り返しこそFW顔負けだが、カンセロはDF登録だ。満足に守れないのだからグアルディオラも頭が痛い。最終ラインは右からカイル・ウォーカー、ルベン・ディアス、アイメリク・ラポルト、そして左サイドバックはナタン・アケ、もしくはオレクサンドル・ジンチェンコが無難な選択だ。
一昨シーズン以降、プレミアリーグが世界に誇る優良コンテンツだったシティ対リヴァプール戦も、負傷者続出の今シーズンばかりは若干のレベルダウンを免れそうにない。才気あふれるグアルディオラ、ユルゲン・クロップ両監督をもってしても、選手が負った身体の傷だけは癒せないからだ。
だが、優勝争いのライバルから奪う3ポイントは、今後の行方を大きく左右する。勝てば活気づき、敗れるとダメージが蓄積する。要するに、単なる1勝ではないということだ。
昨シーズンもリヴァプールは、9節のシティ戦で勝利を収めたあと一気に加速している。残り25試合は15連勝を含む21勝2分2敗の超ハイペース。ぶっちぎりの優勝だった。
チャンピオンズリーグからともに中四日。日程の有利、不利はない。傷だらけではあるものの、今シーズンのプレミアリーグも彼ら二強による優勝争いが濃厚だ。随所に好プレーが披露されるに違いない。
シティはシティらしく振る舞えばいい
そして両指揮官にも注目だ。過去の対戦データは7勝2分9敗。グアルディオラがリードを許している。10回以上対戦したなかで、唯一負け越している憎い相手がクロップだ。腹の虫が収まらない。
しかも昨シーズンは18ポイントもの大差で2位に甘んじ、週末の対戦で敗れると首位リヴァプールとは7ポイント差。プライドの高いグアルディオラにとって、甘受できる数字ではない。
したがって、監督の意地と敵愾心、さらに勝利への渇望がシティの選手たちにも伝播すれば、主導権を握る時間が長くなる。ヴァンサン・コンパニ退団後、精神面はなにかにつけて希薄になったが、グアルディオラが植えつけたポゼッションは、依然として最強のアイテムだ。
リヴァプールの攻撃力に臆さず、あくまでも我が道を貫く──。シティはシティらしく振る舞えばいい。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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