レアル・ベティスとセビージャによる135回目のダービーマッチは、いつも以上に特別な一戦となる。何よりもまず、人々がスタジアムに、ベティス本拠地ベニト・ビジャマリンに戻ってくるのだから。
「ファンのいないフットボールなど取るに足らないものだ」
ベティスと同じベルディブランコ(緑白)のクラブ、セルティックの神話的人物ジョック・ステインはそう語っていた。過去3回のセビージャ・ダービーは無観客で開催するしかなかったが、そんなことをすればスポーツの情熱の大部分は失われる。しかし今日、ビジャマリンには5万以上の人々がやって来て、ダービーに真の意味と価値を与えることになるのだ。
今回のダービーが特別であるのは、人々が戻ってくることだけが理由ではない。そのほか両チームの調子の良さも挙げることができる。ジュレン・ロペテギ率いるセビージャは一部セビジスタ(セビージャサポーターの愛称)から疑いの目を向けられつつも、以前には考えられなかったラ・リーガ優勝の可能性を感じさせている。対してベティコ(ベティスサポーターの愛称)から全幅の信頼を寄せられるマヌエル・ペレグリーニは2シーズン連続のヨーロッパリーグ出場はもちろん、あわよくばチャンピオンズリーグ出場も狙えそうな勢いがある。ヨーロッパリーグを主として、直近の結果が芳しくない両チームではあるが、しかしダービーでの勝利は目標達成への強力なブーストになり得るだろう。
そして選手個人の名前を挙げれば、何と言ってもホアキン・サンチェスを取り上げなくてはならない。ベルディブランコの永遠のキャプテンはおそらく、今季が選手として過ごす最後のシーズンとなる。つまりこのダービーはベニト・ビジャマリンで戦う最後のダービーであり、誰もが彼のユニフォーム姿を目に焼き付ける必要があるのだ。
9月に40歳となったホアキンは、今季ラ・リーガでほとんど起用されておらず、ここまでの出場時間は99分にとどまっている。前試合ヨーロッパリーグのレヴァークーゼン戦では先発だったこともあり、このダービーでは途中からピッチに立つことになるだろう。しかし彼は過去にもベンチスタートからダービーの勝負を決めたことがある。あれは2018年9月にビジャマリンで行われたダービーでの出来事だ。ホアキンは74分から出場して、それから5分後にその試合唯一のゴールを記録。ベティスはビジャマリンのダービーで12年間勝利から遠ざかっていたが、ホアキンの手によって解放と歓喜の瞬間を迎えたのである。そうして試合後、ホアキンがベティコたちについて語った言葉は、彼らの心にダイレクトに突き刺さるものだった。
「このクラブのサポーターとともにあるというのは、本当に栄誉なことなのさ。ベティコであること、ここで育ったこと、このダービーの意味を感じられることが誇らしいんだ。僕は皆から愛情、敬意、称賛の気持ちを受け取ってきた。いつも言っていることだけど、僕は幸せなままフットボールに別れを告げられるよ。ここの人々から、すべてをもらったわけだからね」
ホアキンが今季までフットボールに別れを告げなかったのは、ベティコたちでスタンドが埋め尽くされたダービーを今一度経験するためだった。彼は人々の熱を感じられないままスパイクを脱ぐことを望まなかったのである。ここ数年間、ホアキンがベティスとともにアウェーで戦うときには、いつも対戦相手のサポーターからスタンディングオベーションを浴びてきた。それは一時代を築いた選手に対する表敬を意味しているが、もうビジャマリンでも、改まって彼に感謝するときが訪れたのだろう。今回のダービーに勝利してそうできるならば、これほど素晴らしいことはない。何よりも私たちは、彼がダービーに勝ったときに見せる、いつも以上の満面の笑みに拍手を送りたいのだ。
さあ、アンダルシア州都の情熱のダービーがやって来る。「セビージャのダービーは世界最高レベルだ。スペインでこれを上回る試合はレアル・マドリー対バルセロナしか存在しない」、ラ・リーガ会長ハビエル・テバスがそう語ったのは、まったくの事実である。セビージャという町はダービーの日に真っ二つに分かれることとなり、試合が終わってからも、何日も何日もこの試合の話ばかりするのだ。さて、今回は一体どちらのサポーターが勝ち誇った態度を取り、どちらが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべることになるのだろうか。
文=サムエル・シルバ/Samuel Silva(スペイン『ディアリオ・デ・セビージャ』紙)
翻訳/ 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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