【コラム】 「誰か説明してほしい」スペイン人記者が心底嘆くヘタフェの"肉弾戦"回帰。終盤戦で久保建英の居場所はあるのか ｜ ラ・リーガ

私たちはときに世界の反対側にいるのかと感じることがある。詐欺師が詐欺師である理由は、じつは私たちの見方次第で、私たちはどこかから得た一つの価値観がなければ、物の見方など一切分かっていないのではないか、と。ヘタフェであれば、久保建英はチームの大半の選手たちよりクオリティーが高いと、私たちは信じている……。そうでないのはまったく不条理なことだが、今は現状を受け入れるしかない。

さて、ヘタフェの選手たちとコーチングスタッフは今から約10日前、レアル・マドリーとバルセロナ、残留を争うウエスカとの試合を前にして、スペイン首都のある有名なレストランで決起集会を行った。食事の最後にはチームの点取り屋で、キャプテンの一人でもあるハイメ・マタが立ち上がり、若手たちには訓示、ベテランたちには共感を呼ぶ言葉を述べた。そこからチームは、もう1年は見られていなかった姿を取り戻すことになる。

1年間見られていなかったヘタフェ……。それは悪評が絶対的に伴う確固たるアイデンティティーでもって、「相手をすり潰していく」ヘタフェだ。

レストランを去るとき、若手たちは成熟して、ベテランたちは若返りを果たした。こうして、望んでいたような結果が生まれる。レアル・マドリーとスコアレスで引き分け、バルセロナとは2-5で敗れたもののほぼ大崩れすることなく均衡した試合展開を見せ、そして2-0勝利のウエスカ戦で取り戻した姿は完璧となった。彼らは果てしなくアグレッシブで、果てしなく肉体的で、果てしなく堅守速攻のフットボールを取り返したのだ。

久保はもう、彼らに必要がない。カルラス・アレニャーは久保と違い何度もレギュラーを務めてきたが、その居場所も随分と狭まった。チームはもう俺たちのもの、このチームは大きく俺たちのもの、となった。ボルダラスがそのフットボールを実践する有効期限は切れているはずだが、シーズンがもう終わる寸前となれば、食い尽くすことはできるのだろう。

私たちのフットボールで楽しませてくれ

原点回帰を果たしたヘタフェで、久保は仕事を探している。2日のラ・リーガ第34節でチームが乗り込むのはエル・マドリガル。そう、久保を無下にしたもう一人の監督、ウナイ・エメリが率いるビジャレアルとの試合である。彼の率いる黄色い集団は現在、欧州大会で初の決勝進出をかけてアーセナルと戦っている真っ最中だ。

ビジャレアルで久保は、凄まじいスピードのウィングたち、貪欲なストライカーたちとの競争に敗れた。そして現在ヘタフェでは、とにかくフィジカル的、肉体的フットボールに固執し、久保やアレニャーを獲得しても結局はそこから離れられなかったボルダラスの餌食になる寸前である。……ヘタフェを愛する人たちの中にも、私のようにそこに創造的プレーが入る余地がある、ただ勝利だけが楽しみではないと考えている人間が多くいるのにもかかわらず。そのために私は、この日本のために書いている記事で、一体何を書けばいいのか当惑さえしている。

残り5節、隆々たる筋肉を自慢しているヘタフェで、久保が出場機会を得る余地はあるのか。私が久保について書き続けられる余地はあるのか。きっと、ベンチスタートからの途中出場では、彼の本来のポテンシャルを引き出せないだろう。誰か説明してほしい。いつからスペインは小さな選手たちがティキ・タカをするフットボールを捨て去ってしまったのか。日曜日、私はその幻影をまたも追い求めるのだろう。

それは、一つのスイッチが入る瞬間だ。久保がゴールを決め、さらにアシストも記録し、鬱蒼とした巨木の森の中にも一輪の花は咲くのだと感じられる瞬間。ボルダラス、その反対側にエメリがいるこの試合で、物の見方を間違っているのが私たちではなく彼らだったのだと感じられる瞬間だ。私たちのフットボールは趣味が良い。その趣味の中で楽しませてくれ。たとえ、ただの妄想であるとしても。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。