一番してはいけないのは勘違い
――2021年の東京五輪では出番に恵まれませんでした。当時の思い、そして、その経験をどう消化して前に進んでこられたかお聞かせください。
やっぱり悔しかったのが一番ですね。試合に出ていない選手は充実していないと思います。もちろん、チームの中にいればいろいろな意味で成長できると思いますけど、試合に出ないことには課題が出てこない部分もあるんです。
チームとして1つにならなければいけない一方で、試合に出られない悔しさがあって、自分の中に葛藤があったのも事実です。何人かの選手にその悩みを打ち明けたこともありました。そういった悔しさを感じる中で、海外でプレーしている周りの選手たちにいろいろ話を聞いて刺激にもなりました。
三笘(薫)選手も「海外に行くんだ」という話をしていましたし、いろいろな選手の話を聞いて、自分はこのままじゃダメだ。もっともっと高いレベルで戦っていかなければいけないと思ったので、絶対にシント=トロイデンで活躍してやるんだという気持ちはさらに強くなりましたね。
――五輪の半年前に浦和レッズからシント=トロイデンに移籍し、がむしゃらに戦ってきた末に大舞台に立つチャンスを掴みました。五輪を経て、見える景色やサッカーに対する意識に変化はありましたか?
自分はうまい選手ではないと思っているので、一番してはいけないのは「自分はうまいんだ」という勘違いだと思います。適度に勘違いするのはいいと思うんですけど、勘違いしすぎるのはよくないですよね。
五輪前にシント=トロイデンで6試合出ていて、その中でアシストもできました。プレーもうまくいっていたことで勘違いしていたところがあったと思います。ところが五輪代表に合流した時に他のみんなはもっとうまかった。そこでまずは守備から入って、チャンスの時にしっかり攻撃出ていくのが自分の良さなんだと思い出すことができました。
シント=トロイデンの(ベルント)ホラーバッハ監督が「守備から入れ」というタイプの方で、いまはしっかり自分の得意な守備から入って、リズムを作ることができています。
守備をしっかりやり、攻撃に出られると思ったタイミングでガッと前に出ていって、ダイナミックにプレーするところを監督から褒めてもらえています。自分の特徴を生かしたプレーをどんどんしていかなければいけないと思いました。
――監督からの評価をもう少し教えていただけますか?
監督からは「守備の部分で安定してきていて、アグレッシブなところはお前の特徴だし、それをすごく評価している」と言われています。そして、1試合に何回かは絶対にクロスを上げていて、攻撃にもしっかり絡めていると思います。
守備オンリーになるのではなく、まず守備から入って攻撃に絡む時は絡むというのが求められるので、それを続けていって、本当に代えの利かない選手になっていきたいと思っています。
「海外でめちゃくちゃ活躍」する選手に
――ベルギーのクラブの大半が、若くて身体能力が高く、技術もあるウイングを擁しています。そうした選手と対峙する中で、自身の対人の強さは通用していると感じますか?
シント=トロイデンに来たばかりの頃は、対人の間合いで慣れていない部分もありましたけど、今はものすごく自信を持ててきています。1対1の場面で相手が仕掛けてくる前にしっかりいいポジションをとることを意識しながらやっているので、今は自信もあります。
こないだのアントワープ戦(11月21日の第15節、2-1でシント=トロイデンが勝利)後、「橋岡、デュエル勝率100%」というニュースを見ました。そういったデータも自信につながっています。
――選手としてよりスケールアップしていくために何が必要でしょうか?
今は守備の部分で評価されていますけど、限界はないと思うので、どんどんそこを伸ばしていきつつ、攻撃の部分でもっと決定機を作れるような選手になれれば最高だと思います。守備も攻撃も両方できる選手はなかなかいないと思いますし、そうなれたら必要としてくれるクラブがどんどん増えていくと思っています。
――これまでに憧れた選手や影響を受けた人はいますか? 海外挑戦を志したきっかけも教えてください。
海外で活躍するという意味で影響を与えてくれたのは、海外でプレーしてきた日本人のサッカー選手全員だと思います。Jリーグで活躍したら海外に行って活躍する流れができていたのもあります。
内田選手や香川(真司)選手、長友(佑都)選手、酒井選手、本田(圭佑)選手、岡崎(慎司)選手、例を挙げたらキリがありません。それほど多くの選手が海外で戦っていて、プレミアリーグで優勝したり、僕が小さい頃から知っているマンチェスター・ユナイテッドやインテル、ミランなどに日本人選手がいるというのは驚きでした。彼らを見てきて、僕も海外で活躍したいと思いました。
もちろん、日本で活躍するのもすごいことですが、海外の住み慣れていない難しい環境でしっかりと活躍して、日本代表に入り、チャンピオンズリーグ(CL)で優勝するのが僕の目標です。そのためには欧州に行かなければいけなかったので、そういった意味でも影響を受けた人は「みんな」です。
大槻(毅)監督にも「お前は早く海外に行け。ちょっとの活躍じゃダメだ。海外でめちゃくちゃ活躍しろ」とよく言われていました。とんでもないことを言う人なんですけど、それがモチベーションになっていますし、僕は大槻監督の言葉を信頼しているので、「海外でめちゃくちゃ活躍」する選手になりたいと思います。
――シント=トロイデンからは冨安健洋選手や鎌田大地選手、遠藤航選手がステップアップしていきました。CL優勝という目標に近づくには、彼らに続く存在となることが求められますね。
最終的な目標はありますけど、そこに達するために小さな目標がいくつもあります。今はシント=トロイデンで活躍し、ステップアップしてより高いレベルのリーグでプレーすることを目指しています。
そういう目の前の目標を一つひとつ達成していくことで、最終的にCL優勝という目標にたどり着ければいい。先は見ますけど、そればかりではなく、まず目の前の目標を一つずつ短いスパンでどんどんクリアしていくのが自分のやり方です。
取材・文 舩木渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、国内を中心に海外まで幅広くカバーする。
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