3月13日に行われるラ・リーガ第27節ヘタフェ対アトレティコ・デ・マドリー。スペイン首都のもう一つのダービーは、久保建英個人にとっても特別な意味を持つダービーとなる。ラ・リーガ連覇を切望するレアル・マドリーは、アトレティコがつまづかせられる味方を必要としており、ヘタフェが久保の活躍でそうなってくれるならば、これほど嬉しいことはない。
昨季、マジョルカに在籍していた久保は、アトレティコの本拠地ワンダ・メトロポリターノで圧倒的なパフォーマンスを見せた。右サイドで、その超絶技巧のドリブルによってアトレティコDF陣をきりきりまいにした光景は強烈な印象を与え、あるアトレティコ番はその試合直後に「アトレティコに久保のように才能ある選手がいたならいいのに…」という記事すら書いていた。ヘタフェ、そしてレアル・マドリーも期待しているのは、久保のそうした姿だ。
消耗するヘタフェ
もちろん、レアル・マドリーが切迫しているように、ヘタフェも苦闘を続けている。第25節バレンシア戦では3-0というスコアで7試合ぶりの勝利を手にし、一時的に解任を免れたホセ・ボルダラスだったが、第26節ではバジャドリーに1-2で敗れ去った。首位に位置するアトレティコとの一戦では、もちろん内容次第ではあるが、結果だけで首を切られることはない。しかしボルダラスが今季の終わりを待たずしてクラブを去る可能性は、まだ存在している。
前回のコラムで「ボルダラスの顔を見たくもない選手たちがいる」と記したが、チーム内部がボルダラスの厳しい要求に消耗しているのは確かだ。例えば、ヘタフェの前チームマネージャーが辞職した理由がそれだった。曰く、夜1時にボルダラスから連絡を受けて、朝食にパイナップルが足りていないから至急用意しろと指示されるなど、常に難題を押し付けられてきたそうだ。
それと、恐縮ながら私個人のことを話させてもらおう。自分はヘタフェの近くに拠を構えるアルコルコンの下部組織でコーチを務めた経験があり、その当時にトップチーム(現在は2部所属)を率いていたのがボルダラスだった。個人的には、彼から学べたことは決して少なくない。が、その時期には下部組織のあちらこちらから不満の声が漏れていた。
ボルダラスの要求はとても厳しく、各年代のフィジカルコーチはあらゆる練習メニューを記録して提出しなければならず、用具係はユニフォームのパンツが裏返しになっているだけで怒号を浴びせられていた。彼がアルコルコンを去ったとき、その用具係は安堵のため息を漏らしてから「やっと平和が訪れた」と言い、私に抱きついてきたのだった。
もちろんボルダラスのその“鬼軍曹”ぶりが、ヘタフェの選手たちのアグレッシブさを引き出すことに成功し、大きな成功を導いたのは間違いない。しかし果たせるかな、選手たちの精神的な消耗は限界のところまで来ているという印象がある。個人的な感覚では、今季を乗り越える、残留を決められるまで、果たしてもつのかどうかといったところだ。さて、新入りの久保は、そんなボルダラスの厳しい要求に応えているのだろうか。
アトレティコ戦の価値
アトレティコ戦に話を戻そう。
ヘタフェにとっても久保にとっても、このダービーは大きな挑戦となる。何となれば、そこには破滅的なデータが存在しているのだから。ヘタフェはアトレティコとのここ16試合で一度も勝っておらず(2分け14敗)、なおかつ1得点も決めていないのだ。ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコは、言葉通り大きな壁としてヘタフェを跳ね返し続けてきた。
何か、一つポジティブな要素があるとすれば、アトレティコが次のミッドウィークに0-1からの逆転しなければならないチェルシー戦を控えていることか。……彼らがパルティード・ア・パルティード(一試合ずつ、試合から試合へ)の哲学から逸脱することは、ほぼ期待できないが。
ヘタフェはハイメ・マタを出場停止で欠くことになり、アンヘル・ロドリゲス、カルラス・アレニャー、そして久保が代わりにスタメンの座を争うことになる。いずれにせよ、先発であろうがなかろうが、久保がやるべきことはマジョルカ時代のようにアトレティコの守備陣を混乱させ、ゴールへの活路を見出すことだ。そして日本人自身が、この大事な一戦で今季ラ・リーガ初ゴールを決められるならば……、彼のここまでの軌跡に少し失望を感じているラ・リーガのファン、そしてレアル・マドリーに新たな期待感を与えることができるだろう。
ヘタフェ、アトレティコ、レアル・マドリー、久保にとって大きな価値を有する試合が、まもなくキックオフを迎える。
文/ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番
翻訳= 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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