【コラム】終盤戦で創造性に回帰するヘタフェ。久保は瑞々しい花として、今こそ咲き誇れ ｜ ラ・リーガ

今季のラ・リーガが、決定的なフェーズに突入した。言葉どおり、ここからすべてが決まるのだ。私たちスペイン人は、同国のフットボールの伝説ルイス・アラゴネスが語った言葉を胸に刻みつけている。

「最後の10節までは観衆が楽しむため、記者たちが色々とでっち上げるための練習期間に過ぎない。リーグ戦は残りの10節で決まるのだ」

だから私たちは、全チームがそれぞれの目標を達成するために死力を尽くすリーグ最後の10試合のこと、“ルイスのリーグ”と呼ぶのである。

カディス戦こそが勝負どころ

久保建英がヘタフェに加入したとき、チームは降格が現実のものになるのではないかという恐怖に怯えていた。現状はそこまで悲観的なものではないが、しかし恐怖が完全に拭えたわけではない。久保が加わってからのチームの軌跡は、まず希望を持てるような結果を収めていき、次にボルダラスの監督解任が間近となる悪い流れが続き、現在はある程度の安定でもって徐々に降格圏から離れている。

さて、10日に行われるラ・リーガ第30節、本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスでのカディス戦は、再び恐怖を蔓延させないためにも何としてでも勝っておきたいところだ。カディス戦の後にはバルセロナ、レアル・マドリーとの連戦が控えており、ヘタフェのロッカールーム内ではこの試合こそが勝負どころと話されている。二強と対戦する前に勝っているか負けているかで、チームの落ち着きは、ずいぶんと変わることになる。

今週のコリセウム周辺はとても静かで、ボルダラスのチームは集中して練習に励ことができた。メディアが大騒ぎしていたのは、元ヘタフェで、現在はカディスに所属するフアン・カラが、バレンシアのムクタル・ディアカビに対して人種差別発言をした疑いがある一件。それとマドリーがリヴァプールに完勝した試合だ。マドリーの勝者の立役者はもちろん、2ゴールを決めたヴィニシウス。久保と同じようにマドリーが青田買いし、そのままクラブに残った若きブラジル人である。日本人にとっては、大きな刺激とならなくてはいけない。

創造的なスタイルへの回帰

スコアレスドローで終わった前節オサスナ戦、久保が81分から出場したのはU-24日本代表として戦った後にスペインへの長旅をこなしたため。ボルダラスから久保本人に対して、90分プレーさせられるコンディションにはないとの説明もあった。残り約10分でピッチに立った彼は空中でボールが飛び交う中で一度もボールに触れられなかったが、コンディションも万全でない中で、やはりオサスナとの肉弾戦の応酬に立ち上がりから参加するべきではなかっただろう。

そして今回のカディス戦、私はオサスナ戦とはまた違う展開を期待している。カディスはその堅守速攻によって、今季マドリーとバルセロナに土をつけた。引いて守る彼らを相手に、十分に休養を取ったヘタフェの各国代表選手たちは創造的なフットボールを実現しなくてはならない。

最近、ボルダラスは練習中に「私たちは主導権を握るチームにならなければ。試合を支配しなければならないんだ」と声を張り上げている。久保とカルラス・アレニャーの獲得をきっかけにして、パスワークから相手の守備陣を破るスタイルも取り入れ始めた指揮官は、このラ・リーガ終盤戦、つまりは“ルイスのリーグ”で、そのスタイルが真価を発揮することを期待している。そこに久保というピースは必要不可欠であり、起用しない理由がない。これまでのヘタフェのフットボールは荒野で行われる類のものだったが、久保は瑞々しい花として、今こそ咲き誇らなければならないのだ。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。