7ポイント差で迎える大一番に運命を感じずにはいられない。
今シーズンは上位勢の取りこぼしが目立つなかで、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティだけは安定した強さを発揮しており、頭一つ抜け出した感がある。現地ブックメーカーもシティの優勝を確信したかのような優勝オッズをつけている。
一方、年末からの失速によりシティに水をあけられてしまったリヴァプールは、“トップ4死守”に切り替えて残りの試合を戦うべきかもしれない。現にDFアンディー・ロバートソンも「現時点で僕らは優勝戦線に絡めていない」と前節ブライトン戦に敗れた後に言い切った。
確かにリヴァプールは1試合消化が多い状況で首位シティと7ポイントも差が開いてる。だから今週末のシティ戦は、大一番でこそあれ“優勝争い直接対決”と呼ぶには相応しくない。ロバートソンはそう言いたかったのだ。
思い出される11.7ミリの差
いずれにせよ、「7ポイント差」と聞けば両チームのファンは2年前の対戦を思い出すだろう。2019年1月3日、両チームはシティの本拠地で相まみえた。
セルヒオ・アグエロが角度のない位置からゴール天井に打ち込んでシティが先制すれば、リヴァプールは両サイドバックの連係からロベルト・フィルミーノのヘディングシュートで同点。最終的にシティに勝ち点3を呼び込んだのはレロイ・サネの決勝点だが、この試合の最大の見どころは0-0で迎えた前半16分にあった。
クリアボールがGKエデルソンに当たってシティのゴールに吸い込まれかけた瞬間、DFジョン・ストーンズが足を伸ばしてぎりぎりのところでボールをかきだしたのだ。
ゴールラインテクノロジーの映像を見ると「11.7mm」だけラインにかかっておりノーゴールの判定。試合後にその映像を確認したストーンズが「波動拳!」と叫んでいたのを覚えている人も多いはずだ。
結局、その死闘を制したシティが最終的にリヴァプールを1ポイント差で抑えてクラブ史上初のリーグ連覇を達成し、「11.7mm」差で両クラブの命運が分かれたと報じられた。しかし、優勝が決まったあとにグアルディオラ監督が繰り返し口にしたのは約1cmの差ではなく「7ポイントの差」だった。
そうなのだ。2年前の決戦も両チームは7ポイント差だった。あの時はリヴァプールが7ポイント差で首位を走っており、ペップが「1月に敗れていれば我々は10ポイント差だった」と振り返ったように、シティは直接対決を制して4ポイント差まで迫り、シーズン後半戦に逆転して優勝を決めたのだ。
だから今回だって、例え消化試合数が異なるとはいえ優勝争いを大きく左右する決戦であることに違いない。リヴァプールは、わずか数ミリの差であろうとも勝てばシティに4ポイント差まで近づくことができる。まだまだ諦めるような状況ではないのだ。
失われたアンフィールドの"魔力"
まだまだ本調子には程遠いが、それでもリヴァプールは先月末のウェストハム戦で専売特許のカウンターから美しいゴールを決めている。英紙『The Guardian』のポッドキャストで「いくら払えばあのサラーのファーストタッチをデートに誘えるの?」という冗談が紹介されるほどだった。
何より、今回はリヴァプールのホームゲームである。過去40年間、彼らが本拠地でシティに敗れたのは2003年の一度きり。
アンフィールドで一度も勝ったことがないグアルディオラ監督も、スペインのラジオ局のインタビューで「とんでもない場所さ。何か特別なものがある。自分たちが小さく感じるのさ」と過去にアンフィールドを称えたことがある。
しかし、残念ながらそれは昨シーズンまでの話なのだ。無観客のアンフィールドにはペップが舌を巻くような魔力は存在しないようで、リヴァプールは先月のバーンリー戦に敗れてリーグ戦のホームゲーム無敗が68試合(約4年)で止まると、ブライトンにも敗れてホームでまさかの連敗。1984年以来初めてホームゲームで3試合連続ノーゴールという屈辱を味わっているところだ。
ユルゲン・クロップ監督は前節ブライトン戦(0-1)について完敗を認めながら「肉体面も精神面も消耗していた。普段はA地点からB地点にパスが出せるのに、それができなかった。理由は……」と『BBC』のインタビューで珍しく言葉を詰まらせた。
レポーターに「疲労ですか?」と助け船を出されると「そうかもしれない。精神的にそうなのだろう」と答えた。
確かに「精神面の疲労」は色濃く見えた。ブライトン戦の後半、ゴール前のフリーキックでチアゴ・アルカンタラが壁の裏に浮き球のパスを出すとFWフィルミーノが絶妙なタイミングで走り込んだが、ボールのバウンドを待った一瞬の隙に背後からきたDFにクリアされた。
今はこうした一瞬のためらいが見られるのだ。
好調シティを支えるクロップの教え子
では、なぜシティには同じような精神的な疲労が見られないのか。
両チームのデータを確認すると、1試合平均の走行距離とスプリント数は若干ながらリヴァプールの方が多く、ポゼッション率はシティ(65.4%)とリヴァプール(64.2%)がトップ2を占めており、どれも大差はない。互いに公式戦の消化数は33試合のため条件は同じように思う。
そのため詳しいコンディションの差は分かりかねるが、シティに“ためらい”が見られない理由の1つとして考えられるのがMFイルカイ・ギュンドアンの存在である。
今シーズンはチーム最多タイの7ゴールで自身のシーズンベストを既に更新しているほか、精力的な動き出しでチームの歯車を円滑に回しているように見える。
ショートパスを出して動くのは基本だが、彼はサイドチェンジのようなロングパスを出したあとも即座に動き出す。さらに気の利いたカバーリング、大迫力のタックル、そして単にボックス内に飛び込むだけでなくストライカーのようにファーポストで虎視眈々とこぼれ球を狙うなどマルチな才能を発揮している。
選手専属カメラがあったら今最も見ていたいプレーヤーだ。そんな彼がインサイドハーフの枠を超えて動くため、自ずとスペースが生まれてチームメイトもためらわずに動けるのだろう。
MFケヴィン・デ・ブライネを怪我で欠く中で、シティが公式戦の連勝をクラブ記録の13まで伸ばせている最大の要因は、クロップの(ドルトムント時代の)教え子にあるのだ。
無論、今シーズンは守備の安定があるからこそギュンドアンの積極性が活きるのかもしれない。
そのギュンドアンと同じくチーム最多の7ゴールを奪っているのがラヒーム・スターリングだ。これまで古巣対戦では厳しいブーイングを浴びることもあり、アンフィールドでは5試合で0得点0アシストと見せ場を作れていない。しかし“空”のアンフィールドならば、苦手意識を克服できるかもしれない。
さて、試合後に両チームの差は何ポイントになっているのか。連勝中のシティが優位に思えるが、シーズン終盤まで激しい優勝争いを見たいのでリヴァプールの意地に期待したい。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
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開催日 | キックオフ (日本時間) | 試合 |
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2/7(日) | 0:00 | バーンリー vs ブライトン |
2/7(日) | 0:00 | ニューカッスル vs サウサンプトン |
2/7(日) | 2:30 | フラム vs ウェストハム |
2/7(日) | 5:00 | マンチェスター・U vs エヴァートン |
2/7(日) | 21:00 | トッテナム vs ウェストブロム |
2/7(日) | 23:00 | ウォルヴァーハンプトン vs レスター |
2/8(月) | 1:30 | リヴァプール vs マンチェスター・シティ |
2/8(月) | 4:15 | シェフィールド・U vs チェルシー |
2/9(火) | 5:00 | リーズ vs クリスタルパレス |
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