新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中からサッカーが一時的にとはいえ、延期・中断に追い込まれている。その一方で、先行きが不透明ななかでも、今年の夏の移籍市場に向けた報道は活発だ。しかし、今夏は例年になく難しい移籍市場になることが想像に難くない。リーグ終了時期、順位の確定、契約満了時期、放映権料の支払いなど、様々な問題が移籍市場に降り掛かってきている。
そこで今回は、欧州を本拠地としながらも日本にも拠点を置くBase Soccer(ベースサッカー)社の代理人ジョエル・パニック氏から話を聞いた。同社は、アーセン・ヴェンゲル氏を始め、吉田麻也や武藤嘉紀らを顧客に持つ欧州でも有力なエージェンシー。厳戒態勢下にあるロンドンの自宅から、オンラインビデオ通話で今夏の移籍市場について展望を聞いた。
――今日はありがとうございます。背景に写っているのは、ご自宅のお庭でしょうか。鳥の声も聴こえてきますが、ロンドンはいかがですか?
ありがとうございます。こちらは非常に難しい状況です。街中のお店はほとんど閉まっていますよ。背景に写っているのは、我が家の庭です。天気もいいですよ。でも、今日は少し失敗しました(笑)外出が制限されているので、髪の毛が少し伸びてきています。
――なるほど。ありがとうございます。では、早速ですがサッカー界に置いては、非常に難しい状況ですが、代理人として現状をどのように捉えていますか?
皆さんと同様、現状について懸念しています。まず、誰もが(こういった状況に)免疫を持っておらず、影響を受けています。英国、日本、米国、ドイツ…誰にとっても未曾有の事態です。既に起きたことだけではなく、これからもまだ見通しが立っていません。頂点から底辺まで、多くの関係者が影響を受けており、懸念すべき状況です。クラブに所属する選手たちもこの状況から逃れられません。我々も然りです。
一番の懸念は、見通しが立たないことですね。いつまでこの状況なのか?まったく先行きが不透明ななか、タイムフレームも決まっていない。そのため、どれだけ状況が悪化するのかも把握することが困難です。
延期、中止、再開。先行きが不透明な移籍市場
――リーグアン、エールディビジが終了しました。一方で、ブンデスリーガは再開。プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエAは再開の兆しがあります。
フランス、オランダ、ベルギーでは、政府が中止を決めました。これらの国ではこの夏フットボールは観られません。ただ、これら終了したリーグは大なり小なり、先行きが見えてきました。シーズンの再開時期や、昇格・降格チーム、欧州カップ戦に出場するのはどのクラブになるのかなど。彼らは、少なくとも現状把握ができるようになります。経済的な側面を把握できれば、来シーズンの計画が立てられるようになりますからね。
一方、難しいのはスペイン、イタリア、ドイツ、UK,そしてその他大勢の国々です。これらの国では、現状いくつかのシナリオを描いていることでしょう。 シナリオ1『全てキャンセルし、来シーズンのことに専念する』、シナリオ2『リーグをできる限り早く終了させる』。プレミアリーグはこのパターンです。終了させないと、かかってくるコストが莫大になります。シーズンを途中終了させることはできる限り避けたいシナリオです。
各国とも、ドイツの動向にも注目していると思います。新型コロナウイルスをコントロールしているようですから。リーグ再開はとてもポジティブなものです。その他の国では、感染者数や死亡者数は異なります。スペイン、イタリア、UKではもっと高いので、一概には言えませんが。
サッカーが戻ってくるためには、選手やスタッフなどの定期的な検診も必要になってくるでしょう。試合日の検診、食事、接触、正しい医療ケア…。それに、シーズン再開後に陽性反応を示す選手が出てくることも避けられないでしょう。 当面の間、試合は無観客で開催される見通しです。これを望まないクラブも勿論存在します。現状では現実的ではありませんが、ファンをスタジアムに入れたいという声もあります。中立地でプレミアリーグを開催する案も浮上していますが、これにも否定的な声が出ています。
常識的な着地点を模索しなければなりませんが、簡単ではありません。
――まずタイムフレームの確定が不確定要素を取り除きそうなのでしょうか?
先程言ったように、予測するのは非常に難しいです。フランスでは9月まで試合が無くなったのは確定しましたが、プレミアリーグは一方9月に終了するかもしれません。こういった時間軸が異なる移籍市場をまとめるのは、困難になります。既存のプレミアリーグの移籍ルールは、効力を発揮できないかもしれません。あと数試合が残っている状況で移籍市場のウィンドーが空いているのは筋が通りません。
一方で、移籍市場を2~3週間と短くしすぎても上手く行かないのが目に見えています。この場合も、かなりの圧力がかかり難しい市場になるでしょうね。FIFAも常識的な着地点を示していくべきだと思います。 一番良いと思うのは、今年だけは例外的に移籍ルールを柔軟に変更し、ウィンドー期間を通常より長く空けておく。例えば1月くらいまでとかですね。また、これに連動して向こう3~4回の移籍市場は難しいものになるとみています。
――6月30日までに多くの選手が契約を終了しますが、これについては?
6月30日に契約が満了になるケースは欧州では通常ですが、この難局を悪用しようとする人がいれば、それはお勧めしません。シーズンが伸びた分だけ契約を延長することが、常識的な考え方でしょうね。全員が合意に至るとは限りません。簡単ではないですが、強制することも難しい。理想的には、何のペナルティも発生せず、当該期間は契約を延長できることが望ましいですね。現実的には4~10週間程度の延長期間を見越しています。
――シーズン終了前に、2度移籍できてしまうケースもあり得るのでしょうか?チャンピオンズリーグ決勝は8月とも噂されています
基本的には、現状ルールが尊重されるべきで、期間内に移籍を果たしたとしても、選手登録はできないでしょう。基本的には、来シーズンに向けての移籍になるべきで、複数のチームでプレーできるようにすべきではありません。
――やはり欧州は複数のリーグが絡み合う、複雑な状況なのでしょうか
とはいっても、我々も毎年違う時期に開く移籍市場と向き合っています。全部が同じ時期に開くわけではありません。数年前には、プレミアリーグも移籍市場の時期をずらしましたが、他のリーグとは足並みが揃ったわけではありません。それぞれのクラブ、リーグが自分達の利益を守るためにアクションを取りますが、今は一致団結するべきです。その前に行われるべき議論は否定しませんが。
経済的ダメージによる影響は?
――そして、世界中で経済が縮小しており、プレミアリーグでは無観客試合の開催も想定されています。影響はどのように捉えられていますか?
プレミアリーグのクラブにとっては、放映権料が莫大であるために、実際の観戦客からの収益の割合はそう多くはありません。ただし、新しいスタジアムを所有していて、ボックスシートや、エンターテインメントパッケージ等のスポンサーセールスを積極的に販売していたり、ホスピタリティが多かったりするクラブは要注意です。これらの売上は試合が開催されないと吹き飛びます。 伝統的なクラブであれば大丈夫なはず。30,000席を30ポンド販売する売上が入らないのは痛いですが、あまりそこに囚われることもないでしょう。
例えばボーンマス。11000収容人数に対し、7~8000枚のチケットしか販売しません。試合日の売上はそこまで大きくありません。一方、最近新しいスタジアムを建設したトッテナムは、ホスピタリティパッケージの販売を積極的に行っており、想像するに売上機会の損失は彼らのほうが遥かに大きいでしょう。 プレミアリーグのように、スタジアムのインフラが整っておらず、まだ成長途中にあるリーグ、クラブは厳しいはず。そういったクラブほど、マーチャンダイズや飲食の販売など試合日の売上への依存度が高い。キャッシュフローの問題は大きくなりそうだと思います。
最初に言ったように、どのクラブにも影響があります。アーセナルでは、選手給与のカットが話題になりました。リヴァプールとマンチェスター・シティではスタッフの一時帰休も議論を呼びました。このまま行けば、数百億円にも上る損失が出るでしょう。あくまで既定路線はシーズンを終えること。それにあたって、全員がビジネスモデルを柔軟に変化させ、現状に対応していかなければなりません。将来も起きうる話です。
プレミアリーグはまだ大丈夫と人々は思っているかも知れない。しかし、チャンピオンシップやリーグ1、スコティッシュプレミアリーグや、オランダやベルギーなどの欧州でも規模が小さい国のリーグ・クラブは、果たしてこの危機を乗り切るための充分なキャッシュを持っているかどうか…。 スタッフの賃金をどう守るか。選手たちは勿論お金が支払われると思っています。
サッカーは特殊なビジネスです。少ない労働力が、大部分を稼ぎ出す。選手たちは、この難局を乗り切るために、むしろ積極的に給与カットに応じることもあります。だが、まだ多くのスタッフが働いていて、最低でも6ヶ月以上収入が見込めないとなるとどうなるか…。いや、もっと長引く可能性だってある。
――とはいえ、シーズン序盤の日本と比べると、シーズン終盤に差し掛かっている欧州のダメージは、現状最悪のケースでもないのでは?
そう思いたいですね。欧州の主要リーグがシーズンを無事に終えられれば、悪くはないでしょう。そして、数ヶ月ずれたとしても、来シーズンをきちんと終え、欧州カップ戦を消化できれば…。スケジュールはタイトになり、国内カップ戦のいくつかは中止される可能性もなくはないですが、確かに影響はあるものの、最悪な状況ではありません。それが希望です。 確たることは、オランダやフランスといった国のリーグは、中止により影響を受けるでしょう。主要な放送局は、最終的な支払いを拒んでいます。そこにサッカーが無いからです。
そして、何より一番懸念されるのが「第2波」です。これで終息せず、もう一度起きたらどうなるのか。延期?中止?費用は誰が持つのか?プレミアリーグのクラブは放映権から得る収益に大きく依存しています。その前提で予算を計上しているので、その放映権による収入がなく、支払いだけが発生すれば、一体どうなるか…。なので、収入が発生しない可能性があるというのは、とても重要な問題です。
希望的観測としては、すべてが6~8週間のうちに片付くこと。各リーグが残り試合を消化し、シーズンをやりきること。ただし、この間に選手が陽性反応を示せばどうなるのか…。誰も答えは持っていません。2021年には、延期になった東京オリンピックがあり、欧州選手権も予定されています。すでに、ロジスティクス的にはとても難しい状況なんです。今よりさらに難しい状況になるのは目に見えています。
今夏の移籍市場のトレンド
――と、非常に不透明な状況ではあるのですが、改めて移籍市場はどのようなトレンドになりそうでしょうか?
まず、こういった状況下で、大金を使うことのイメージの悪さをクラブ側は認識しているはずです。多くの人が失業に直面している状況で、お金の使い方は重要です。特に、最初にそういった取引を行うクラブほどリスクを背負う形になります。広報的な側面からすると、非常にデリケートな部分ですよね。
とはいえ、サッカークラブが選手を買いたくなくなったかと言われると、そうではありません。まだ選手獲得への意欲は旺盛です。交渉も再交渉も必要です。ビジネスがなくなるわけではありません。市場がどうなるかはわかりませんが、数字面では例年よりは下がるでしょう。これも予測は難しいですが…。
予測できる変化としては、直近のプレミアリーグでは選手の価格が高騰していました。プレミアリーグのクラブが選手獲得のために2000万ユーロ前後を支払うのはもはや当たり前になりつつありました。それほど良い選手で無くとも、高い値札がついていたのです。こういったトレンドがもう少し地に足を着けた現実的なものになるでしょう。給与も同様で、高騰していましたが、ダウントレンドは避けられないでしょう。
また、フリートランスファーの選手に関しては興味深い夏となるはず。同様に、有能で若いタレントが割安で獲得できるなら面白い。こういった選手には、興味が集中する可能性もあります。 ただ、一方で絶対的な選択肢の数は減るでしょうね。このコロナ禍以前に、10クラブからオファーを受ける選手がいたとして、この夏は多くても2クラブぐらいになるでしょう。
プレミアリーグのクラブは、ここ最近「賭けに出る」傾向がありました。選手を少し高めの金額で獲得し、当たれば良し、当たらずとも2~3年で良いリセールバリューを狙うという方針でした。が、今後はもっとトレードや、(すでに増加傾向にはありますが)レンタルが増えるでしょう。
――プレミアリーグといえば新オーナーで話題のニューカッスルですが、移籍市場の「台風の目」になりそうですね?
いつの時も、何かしら予想外なことは起きます。ニューカッスルに新しいオーナーが来れば、世界最高峰の選手獲得を目論む可能性はあるでしょう。
ですが、その他のクラブもこの状況をチャンスと捉えることもできます。他のチームが投資をしないタイミングで行えば、もっと高い順位を目指せるかもしれないし、チャンピオンズリーグに出場できるようになるかもしれない。チャンピオンシップのチームだって、プレミアリーグ入りする絶好のチャンスかもしれない。経済の縮小によって、選手の価値も相対的に落ちています。ビジネスが無くなるわけではありません。
ただし、先程言ったように「ギャンブル」よりも手堅くビジネスモデルを変えるべきです。選手を獲得するにしても、よりクリエイティブな方法、例えばレンタルやスワップディール(トレード)を活用する。また、チームのサイズが適正か、若手選手の活用はできているか、アカデミーに投資できているか。そういったチームの在り方を考える時期が来ています。
――マンチェスター・シティのFFP問題はどう見ていますか?
実のところ、あまり良くわかりません。上訴は発表されましたが、今のところマンチェスター・シティは、ひたすら待つしかできないのではないでしょうか。
大多数のクラブにとって、現状ではリーグが終わるのか、順位はどうなるのか、こういった部分が見えてきていません。つまり、これは予算が立てられないということ。リーグが再開し、6月いっぱいですべての試合が消化できたとしても、最終的な損益の計算が終わらないと話が始まりません。
そのため、現状では世界中の代理人はいま、待ちぼうけ状態にあります。移籍市場の時期も不透明ですし、選手との再契約もあります。そして、予算が立てられないということは、決済ができないということ。そのため、クラブの補強方針もわからない状態にあります。
――FIFAが若手選手のレンタル移籍数の上限を設定しました。これはどのような影響がありますか?
私の理解では、国を超えたレンタル移籍の上限は8人までと設定されました。ただし、現状の混乱を踏まえ、今年の夏には効力を発揮しないのではないかと思います。最低でも12ヶ月後ろ倒しされるのではないかと。まだ確定したわけではありませんが。こういった状況もあり、今年の夏、来年の1月、そして向こう2年ぐらいは難しい市場となるでしょうね。
選手の市場価値が落ちていく中で、放出するクラブ側は難しい選択に迫られます。5億円の価値があった選手が、2億円ぐらいになってしまうのですから。諸事情も踏まえて、FIFAや諸連盟には負担になる「重荷」を市場から撤廃するように調整していただきたいですね。
Jリーグクラブへの提言
そういったなかでは、日本のクラブにとっては運営を見直すとても良い機会だと思います。経済的な困難に直面するなかで、多すぎるスカッドのサイズや育成、選手の起用方法について見直し、不必要な出費を抑えるべきです。 例えば、J1・J2の平均選手数は30名程度。欧州の主要リーグと比較しても、これではとても多すぎる。欧州では、概ね20人の主要選手に加え、3~4名の昇格が見込まれるアカデミー選手でグループを形成するのが通常です。
チームの支出削減に貢献するだけではなく、優秀な若手選手の成長を促進することにも繋がります。日本では、ベストプレーヤーではなく、より在籍期間が長かったり、年長が起用される傾向があるように思えます。世界から見ても、素晴らしい若い世代の日本人選手がそこにいるのにも関わらず。
昨夏、10数名の日本人選手がJリーグから、欧州の主要リーグへと旅立ちました。前回のワールドカップだけではなく、U20ワールドカップ、U17ワールドカップでのパフォーマンスは、17~24歳ぐらいの世代の日本人選手がとても優秀なことがわかります。 ですが、彼らをJリーグで見ることはあまりありません。両手で数えられるレベルの試合数、下手をすればほぼプレーせず直接欧州に行くケースもあります。
世界中、どの国でも、地元の若い選手を見るのは、ファンの楽しみなんです。Jリーグは、トップの若手タレントが、とても早くリーグを去ってしまう。20~21歳ぐらいの選手には、あまりプレーする機会が与えられていないんです。
また、外国籍選手も同様です。2019年に、J1に所属する外国籍選手のうちリーグ戦15試合以上の出場を果たしたのは半数以下です。これはお金が勿体ない。海外の選手を獲得するには、とてもコストがかかります。このお金を若くて優秀な日本人選手のために使うことができたかもしれないのに…。
また、外国籍選手を獲得した責任は誰が持っているのか。大金をはたいて獲得した選手をプレーさせないのでは、ビジネスとしては成り立っていませんよね。日本のクラブでは、長年に渡り同じ代理人から選手を紹介してもらう傾向がありますが、彼らは良い選手を供給できているのでしょうか。難しいことではありません。
とても若くて優秀な日本人選手たちがいるのに、彼らに投資をしないのはナンセンスです。 多くのクラブで、明確なビジネスモデルが存在しないように思えます。MLSを始め世界中の主要リーグでは、若いタレントを発掘するのに血眼になっています。ファンを喜ばせ、チームを勝利に導き、そしてチームに移籍金を置き土産にステップアップし、クラブに多大な貢献をするような――。
日本では、より経験のあるベテラン選手が好まれます。20代後半から30歳、ですが活躍できても2~3年ですよ?それも定期的に活躍できるかどうか…。そして数年後には、その選手を獲得するための資金は回収できないまま、選手自身もそのシステムからいなくなってしまう。今こそ、若い選手に投資をして、資金を回収するモデルに切り替えていくべきです。その資金をさらにアカデミーなど育成のインフラに投資し、さらに良い選手を輩出できるようになれば、継続的な成功も見えてきます。日本のチャンスはそのような分野に見出しています。
――確かに、昨年海外に渡った若手選手の何名かは、Jリーグでの試合数が少なかったにも関わらず現地で結果を残しています。
それについては、我々もとても良い選手を常に探していて、欧州のクラブは日本人選手がよく働き、良いチームプレーヤーであることを理解しています。これまでは、香川真司や本田圭佑といった選手を獲得できれば、商業面でもプラスでしたが、ここ数年では久保建英以外、そういった選手は存在していません。
どちらかというと、堂安律、中島翔哉、冨安健洋、南野拓実といった実力を備えた選手が注目を集めていますが、彼らがJ1でプレーした試合数はそう多くはありません。私にはとても勿体ないように思えます。
日本の移籍市場はどうなる?
――東京オリンピックも延期になりました。若手選手もより海外に移籍しやすくなるのでは?
そこまでシンプルではありません。勿論オリンピックにより、スケジュールが空く側面もあるのですが、一方で海外に移籍することにより、五輪代表に選出されなくなる可能性を恐れるケースもあります。我々も、正解は時としてわかりません。
ただし、できる限り長期的な視点を持ってアドバイスすることが多いです。五輪代表として活躍することは素晴らしいチャンスですが、同時にその先の大会や将来的なワールドカップ出場など、選手の10~15年先のキャリア形成まで考えなければいけません。
フットボールとは、縁とタイミングです。次の機会が何になるかはわかりません。怪我をしていた選手が、カップ戦の決勝戦でハットトリックを叩き込むかも知れません。選手ごとにキャリアにとって重要な瞬間があります。
今夏日本人選手が海外に移籍することは、欧州のクラブの状況にもよります。一般的には、日本人選手が欧州のスタイルに馴染むためには時間が必要です。食事も言葉も文化も異なります。現実には、英語を話せる選手も殆どいません。私見ですが、この言語面も成功に非常に重要な要素です。
今夏、欧州のクラブは予算がいつもより制限されている状態です。選手獲得にはより一層慎重になっているため、英語を話せない選手獲得には二の足を踏む可能性が高い。一方で、若手日本人選手の活躍は知られていて、割安に獲得できることもわかっています。しかし、欧州のクラブはあまりJリーグをチェックできていません。特に今は試合が無いですから…。
欧州のクラブにも、デューデリジェンス(査定)が存在しますから、無謀な投資はできません。特に、Jリーグは今季開幕してまだ1試合。7月に開幕したとしても、7~8ヶ月で1試合出場しているかしていないか…、そのような選手に投資するのは少々リスクが高いと思われるでしょうね。
――Jリーグは、早ければ6月下旬、遅ければ8月に再開する可能性があります。第1節から半年以上が空いた再開となると、事実上開幕と言って差し支えないとは思いますが、タイミングとしては「秋春制」に、切り替えるチャンスでもあります。移籍市場にはどのような影響がありますか?
日本のクラブにとって、シーズン半ばでベストプレーヤーを失うのは有益ではありません。また、海外移籍する選手にとっても欧州に馴染むための準備期間が必要で、シーズン途中となる冬の移籍市場で加入するのは理想的ではありません。
そのため欧州のクラブとしては、夏のシーズン前に日本人選手を獲得できれば、選手をチームに組み込む充分な時間を確保できることになりますし、Jリーグのクラブも欧州のカレンダーに合わせれば、シーズン途中で選手を失うことはありません。
欧州と日本のカレンダーが揃えば勿論、様々な障壁が消え去ることになりますし、実際タイでは今季すでに数試合を消化していますが、これを機に秋春制に移行する事を決めたようです。日本でもこれに倣うことは悪いことだとは思いません。真夏は暑くて湿度が高すぎるため、選手にとってもファンにとっても厳しい環境です。また、試合のテンポもスローダウンしてしまうでしょう。ただし、一部のクラブが、雪のために冬に試合を開催することが困難だということも理解しています。まだ、そうするためのインフラが整っていない。なので、完璧な解決策は無いですよね。
個人的には欧州のカレンダーと合わせたほうがいいと思っています。豪雪時にウィンターブレイクを実施するなどして対応できるのであれば良いのですが、私はJリーグがどう考えているかまではわかりません。ただし、今シーズン7月に再開し12月にシーズンを終了させるのはとてもとても難しいことだと考えています。
なお、新型コロナウイルスの影響に伴い、欧州の各リーグが日本と同じ春秋制を議論しているかのような報道があるそうですが、こちらでは真剣に検討しているという話は聞いたことがありません。誰かが口にしたことが大きく伝わっているのではないかと思います。
――また、このような状況なので大物外国籍選手の加入も難しいでしょうか?ここ数年はルーカス・ポドルスキ、フェルナンド・トーレス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャらが市場を賑わせていましたが…
個人的には楽観的です。勿論状況は難しくなっていますが、一方で苦しいのは日本だけではありません。世界中の選手の価値、給与などが下がると見込まれています。そのなかで、日本は文化、食事、ライフスタイルで世界中を魅了しています。日本に来た選手は、一般的には驚くほどポジティブな体験をしています。自分にとってだけではなく、その家族にとっても。日本は衛生的にも安全ですし、治安も良い。そういった環境が、他の国よりも目立った独特のUSP(ユニークセリングポイント=アピールポイント)なのです。
過去には、インセンティブ重視で移籍するトレンドが確かにありました。しかし、ヴィッセル神戸のようなスター選手を揃えたクラブが出現してきたように、ここ最近はJリーグのレベルも向上し、競争力が向上しました。フェルナンド・トーレスの加入も、平均来場者数の押上げに即影響しましたよね。神戸では、イニエスタの加入が決まるとすぐにチケットが売り切れました。スター選手の存在は、その他の選手に与える影響も大きく、次世代の成長を促していくでしょう。
ただし、それは経済的な責任を伴ったもの。こういった選手を、破産の可能性がある状況で獲得はできません。 また、先程申し上げたとおり、もっと良い選手を獲得できていいと思うのです。現状、そこまで良いとは思えない選手への投資が多いですね。
私からの提案としては、もう少しスター選手を狙い、そのリターンで得られるお金を若い選手に振り分けていくことを考えるべきだということです。南米やオーストラリア、アフリカにもトップタレントはいます。彼らが20ゴール決めて、10億円ほど移籍金を置いていってくれればどうなるか?
また、これまでJリーグはスーパースターにとって移籍先の選択肢には入っていませんでしたが、状況が変わってきました。アジアでもトップレベルのサッカーがあり、環境も素晴らしい。最高の経験ができ、来年には東京五輪もある。必ずしも日本が選ばれるとは限りませんが、日本での可能性も提示されないのも勿体ない。
――日本での新型コロナウイルスの状況は、そういった移籍に関わってくるでしょうか?
そうは思いません。世界中で起きていることですから。それに、日本のコロナウイルスの状況は世界ではそうネガティブに捉えられていません。日本が発生源でもないですしね。今後、日本の状況がどうなるかは勿論注視が必要ですが、それが移籍を妨げるとは思いません。確かに、横浜でクルーズ船が停泊していた時は日本がヘッドラインを飾りました。それ以外には、東京オリンピックの延期が話題になりましたが、ここ最近は特に話題に上がっていません。どちらかというと、イングランドもそうですが、イタリアとスペイン、そしてアメリカでの話題が気になりますね。
――ご契約されている選手についてはいかがでしょうか?吉田麻也選手、武藤嘉紀選手など
コロナ禍のビフォー・アフターで、市場に求められる選手の質が変わってきています。吉田麻也選手は、とても経験があり、手堅い選手です。決してギャンブルではない。オランダ、イングランドでキャリアをしっかり積んできたトップレベルのプロフェッショナル。セリエAでは、このコロナ禍に巻き込まれ、まだ1試合の出場に留まってはいますが、100試合以上の代表歴があり、キャプテンも務めていました。
ここ数年、ギャンブル路線を走っていたチームは、こういったリスクの低い選手の獲得を検討すべきだと思います。 そして、我々はここ数年、光栄にも日本で活動する有数のエージェンシーとして、5~6人の日本代表選手、そして4~5名の五輪世代の選手と仕事をする機会に恵まれました。日本の中でもトップレベルの選手たちです。彼らの実力と将来へのポテンシャルを信じています。そのために、より良い機会を探し、トップレベルへ辿り着くためのサポートをしています。
そのためには、海外市場のことを熟知する代理人、エージェンシーと仕事をする重要性が高まっています。何故なら、チャンスは狭まってきているから。
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