解任の危機にさらされているボルダラス監督
今、久保建英の胸には、どういった思いが去来しているのだろうか。
この日本人MFを獲得したとき、ヘタフェは家族的な雰囲気に包まれていたが、それから1カ月半が経ってみると、まるで火薬庫のようになってしまった。ホセ・ボルダラス率いるチームはかつてないほどデリケートな時期を過ごしており、久保はそのあおりを正面から受けている。それはもしかしたら、成長のためには素晴らしい経験なのかもしれない。だが、いずれにしても立ち向かう術を知る必要がある。
ボルダラスがヘタフェの監督として収めてきたここ4年間の成功は、疑う余地がない。ヨハン・クライフの信奉者と公言する彼だが、実際にはジョゼ・モウリーニョに近いタイプの監督として結果をつかんできた。優れた戦術のほか、チームに絶対的団結を、軍隊のような振る舞いを求め、「フィジカルとアグレシッブさを全面に押し出した俺たちのフットボールとともにあるか、それとも俺たちと敵対するか」という考えの下、ここまで進んできたのだ。ただ、そうした考えは順調に進んでいるときには何でもないが、つまずけばそうはいかない。
ボルダラスは今、ヘタフェで初めて解任の危機にさらされている。それは結果だけによるものではない。試合中の口論により2戦連続で退席処分となるなど、同業者から敵意を向けられたことに由来するピッチ外の騒動は、メディアにとって格好の餌食となり、その影響も多分に受けている。
針のむしろに座るような状況のボルダラスがすがるのは、久保の存在しない過去の栄光だ。久保、またアレニャーの獲得は彼自身が求めたもので、筋肉が強調されるチームに若き才能を組み込んで残留争いにケリをつけることを意図していた。だがしかし、それとは逆に降格と解任が日に日に現実味を帯びていくと、才能を投げ捨てて、改めて筋肉を優先したのだった。
正念場。自分の存在を証明できるか
ターニングポイントとなったのは、1-5の大敗を喫した敵地サン・マメスでのアスレティック・ビルバオ戦だ。その前の2試合で輝かしいパフォーマンスを見せていた久保だが、ビルバオで行われた試合は、守備面で抱える問題が露わに。サイドバックのDFダミアン・スアレスがFWムニアインの再三にわたる攻撃に苦しめられていても、十分なサポートを見せることができなかった。
これを受けたボルダラスは、久保の守備のタスクを減らす戦術的施行を試みたものの、セビージャ戦に0-3で敗れたことで一つの結論を導き出した。久保とカルラス・アレニャーを起用するようになってから、自慢としてきた守備で、これまでに起こらなかったこと、起こってはならないことが起こっている、と……。
ボルダラスのヘタフェが、再びハイプレッシングを仕掛け、ダイレクトにゴールを狙うチームに戻るのならば、久保を引っ張ってくる必要などなかった。しかし、もう後戻りはできない。久保は犠牲になったと考えるのではなく、前進するためにもがくほかないだろう。攻撃面において、彼はヘタフェで最も優れたテクニックを披露しているが、ゴール近くでその効果を発揮した場面はほんのわずかだ。出場機会を求めるためには、限られた時間の中でどこまで貢献ができるかを示すしかない。
チームの中で代えがきかない、攻撃の責任を背負う選手になれる……。ヘタフェが獲得の際に交わした久保との約束は、もう果たされることがない。結局フットボールには今、この瞬間しかなく、約束など無意味なことでしかないのだ。
久保にできることはチームの状況、自身の欠点やミスを認めつつ、前へと進んでいく意思をピッチ上で示すことだけ。未来が約束された選手は、自らの手で約束を守らなければならない。自分という存在を証明しなければならない。ここが、正念場である。
文/ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番
翻訳= 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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