リヴァプールとチェルシーによるトップ4争いの直接対決は、両チームにとって今季の最重要ゲームになるかもしれない――。
一時は優勝を狙える位置につけながらも急転落した両チーム。結局、チェルシーは監督交代の荒療治で何とかチームを立て直し、トーマス・トゥヘル新監督は3バックを定着させて堅守を築いて就任から公式戦9試合無敗を誇っている。
前線からのプレスも連動しており、組織立った守備のおかげで数的不利に陥ることが劇的に減った印象を受ける。
事実、チェルシーはトゥヘル就任後のリーグ戦7試合(4勝3分け)でわずかに2失点。これは首位マンチェスター・シティを抑えて同期間で最も少なく、敵に与えたゴールチャンスの質を表す「被ゴール期待値」も同期間で最少の「3.50」となっている。
一方で、王者リヴァプールの苦悩は続く。
前節はシェフィールド・ユナイテッドを2-0で下してリーグ戦5試合ぶりの勝利を収めたが、ホームでは全く勝てていない。12月16日のトッテナム戦(2-1)に勝利して以降、ホームでは6試合未勝利。さらに現在4連敗中で、今回のチェルシー戦に敗れるようなことがあれば、クラブ史上初めてホームゲーム5連敗となってしまう。
だが朗報もある。怪我で離脱していたファビーニョが約1ヶ月ぶり、そしてFWディゴ・ジョタに至っては約3ヶ月ぶりに復帰に近づいており、チェルシー戦でピッチに戻ってくる可能性が高く、この試合が悩める王者にとって転機になるかもしれない。
史上7度目の「ドイツ人監督対決」
今季のプレミアリーグは、近年稀に見る混戦模様の優勝争いが期待されながら、気づけばプレミア史上最も熾烈なトップ4争いの様相を見せつつある。リヴァプールとチェルシーは揃ってトップ4入りも可能だが、揃って8位以下に転落だって考え得る。
だからこそ、トップ4争いの直接対決は勝ち点3以上の意味を持つのだ。
そんな注目の大一番は、ドイツの香りが漂う一戦でもある。この試合はプレミアリーグ史上7度目の「ドイツ人監督対決」となるのだ。
これまでプレミアリーグで監督を務めたドイツ人は、ドイツ生まれの元アメリカ代表選手であるデイヴィッド・ワグナーを含めて6名しかいない。フェリックス・マガト(フラム)に始まり、ユルゲン・クロップ、ワグナー(ハダーズフィールド)、ダニエル・ファルケ(ノリッジ)、ヤン・ジーヴェルト(ハダーズフィールド)、そしてトゥヘルだ。
その中でドイツ人対決が実現したのは過去に6回。クロップ対ワグナーが3回、クロップ対ファルケが2回、クロップ対ジーヴェルトが1回あり、リヴァプールの指揮官は勝率100%を誇っている。
こうしてドイツ人監督を並べると、2014年にフラムを率いたマガトを除くと、全員がクロップのDNAを有していることになる。クロップがドルトムントを率いていた頃に同クラブのセカンドチームの監督に招いたのが親友であるワグナーで、ファルケとジーヴェルトもドルトムントのセカンドチームを経てイングランドにやってきた。
では、トゥヘルはどうだろうか。マインツとドルトムントでクロップの後を引き継いだ彼こそ“クロップDNA”の申し子に思えるが、そうとは限らない。
トゥヘルについて綴られた本の中で、マインツの幹部がエピソードを紹介しているのだが、同氏はトゥヘルとの会話の中で「クロップが居たときは…」と口を滑らせて怒鳴られたという。それほどトゥヘルは前任者にライバル心を燃やしていたのだ。
そんなエピソードが紹介されている“自叙伝”についてトゥヘル本人は「著者とは話したことがないし、自伝の許可も出していない。私は自分のことを良く知っているので、読む気もない」と否定的に語っており、メディアとの付き合い方もクロップとは異なって映る。
両名は過去に14回対戦しており、結果はトゥヘルの2勝3分け9敗。トゥヘルにとって最も対戦回数が多い相手がクロップであり、最も敗れている相手もまたクロップなのだ。
そんな因縁もあって否が応でも両監督に注目が集まるこの一戦は、アレックス・ファーガソン対アーセン・ヴェンゲルのようなプレミア史に残るライバル関係の幕開けかもしれない!
ドイツにルーツを持つブラジル人
もちろんドイツの香りが漂うのは両ベンチだけではない。チェルシーには守備の中心に定着したドイツ代表DFアントニオ・リュディガーがいるし、今季ドイツから加入したカイ・ハヴェルツやティモ・ヴェルナーにも出番が回ってくるかもしれない。
そしてリヴァプールにも“ドイツ人”がいる。といっても彼の場合はブラジル代表のゴールキーパーだ。リヴァプールの守護神アリソンは「アリソン・ベッカー」の名前が物語る通り、ドイツにルーツを持つブラジル人なのだ。
今季は守備陣に故障者が続出したせいで連携に不備があり、珍しくミスが相次いだ。2月のマンチェスター・シティ戦で2度も直接失点に絡んだあと、次のレスター戦でも果敢に飛び出していき味方DFと衝突して失点を招いた。
判断ミスかもしれないが、ミスを犯しても自分の本能を信じて積極的に飛び出す姿にはプライドを感じた。そのレスター戦では試合終盤にジェイミー・ヴァーディの至近距離からのシュートを神がかり的なセーブで止めて汚名返上した。
そんなアリソンが生まれ育ったブラジル南部の都市、ノヴォ・アンブルゴは直訳すると「ニュー・ハンブルク」となり、ドイツからの移民によって開拓された町なのだ。そのためアリソンはローマに所属していた頃に「ドイツ人」という愛称で呼ばれていたという。
先日、父親が急逝したため前節のシェフィールド・ユナイテッド戦はお休みしたアリソンだが、今回のチェルシー戦には出場できそうだ。
そういえば、アリソンは2018年の夏にローマからリヴァプールに移籍する際、チェルシーからも誘いを受けていた。リヴァプールを選んだ理由について同選手は「リヴァプールのクラブ史には敬意を覚える。それにチェルシーは監督を交代したばかりだし、チャンピオンズリーグにも出場できない」と『FourFourTwo』誌に説明したことがある。
チャンピオンズリーグ出場権を獲得できるかどうかは、クラブの補強プランにも大きな影響を及ぼす。だから両チームにとってトップ4確保は至上命令なのだ。
というわけで、トップ4の座を巡る“ドイツ人”たちの戦いに注目したい。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
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