久保建英にとって、大切な日がやってきた。つまりはカレンダーで赤く囲うべき日、自分の食い扶持を与える手に噛みつく日、である。
彼が所属元のレアル・マドリードと対戦するのは、これが初めてではない。だが、少なくとも今季においては、監督とチームメートから信頼されながら臨む初めての試合だ。
それにマドリーは現状、かなり衰弱しており、日本人MFにとってはそこに自分の居場所があると示す絶好の機会になる。今、タケ・クボの目の前にある90分は、彼という選手の有り様を、ジネディーヌ・ジダン監督率いるコーチングスタッフに示す時間なのである。
今季初ゴールを決めるには絶好のタイミング
ヘタフェ指揮官ホセ・ボルダラスが久保に寄せる信頼は絶大だ。
その信頼はより快適にプレーできるようシステムを変更するくらいで、彼の背後は常にMFネマニャ・マクシモビッチが注意を払っている。いつも途中でピッチを下がっているが、レギュラーであることは不動であり、ボルダラスからはチームの攻撃の鍵を預かっている。
ただ、もちろん寄せられる信頼には応じなければならない。これはチーム全体の問題でもあるのだが、現状、久保は攻撃にうまく関与できないでいる。
2得点に絡んだエルチェ戦の華々しいデビュー戦は、今、この時こそが重要なフットボールにおいて、どんどん過去のものになっている。エルチェ戦、その次のウエスカ戦のプレーからは、その後の活躍を楽観的に見守れると感じさせたが、以降3試合で久保の存在感は薄まりつつある。その3試合で放ったシュートは、わずか1本のみ。
だからこそマドリーのホーム、エスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノでその価値を示さなくてはならない。最近のマドリーは守備面が脆く、あらゆる相手にチャンスを許している。このことに鑑みても、久保が今季初ゴールを決めるには、絶好のタイミングだろう。
停滞状況を打破した先に
久保が最近の噂通り、もし来季にマドリー復帰を果たすとしたら、数カ月後にはチームメートとなる選手たちを相手取ることになる。その際にポジションを争うライバルは、MF(マルコ・)アセンシオかFWヴィニシウス(・ジュニオール)となるだろう。
しかし今回のライバル、対面するのはDF(フェルランド・)メンディかDFマルセロだ。相手が技術よりフィジカルに優れるメンディであれば、彼を突破するのは決して簡単ではない。
一方で相手ペナルティーエリアで危険なプレーを見せ、自陣エリアでまた別の意味で危険なマルセロが相手であれば、攻撃面で活躍できる可能性は高まるはず。彼のオーバーラップに注意しつつも、うまくその背後を突くことが肝要となる。
久保がヘタフェで請け負っている役割は、スペインでよく言う“違いを生み出す”こと。つまりはチャンスの創出、ゴールの記録とスコアの動きに直接的に関与することだ。1対1の能力はやはり素晴らしく、意図したトラップから披露されるドリブル技術は、スペクタクルを保証してくれる。
だが、そうしたプレーをいつ見せるべきか、いつ見せれば効果的なのかを判断する力はまだ欠けているように思える。
ヘタフェ全体でも、中盤でボールを配れる選手がいないことも手伝って、アタッキングサードで彼を有効的に活用することは最近の課題だった。今回の大一番で、そうした停滞状況を打破できるならば、ヘタフェと久保は間違いなく勢いに乗れるはずだ。
久保はスペインでも、とても意志が強い選手と言われているが、それを示すべき時がやってきた。
19歳という年齢でこれだけの責任を背負い、注目を集めるなど酷なことでもあるが、それはレアル・マドリードに期待をかけられている選手の宿命でもある。
彼がトップ・オブ・トップとなるために走破するべき道程は、まだまだ長い。しかし戻るべきクラブと対戦する今回の試合で活躍すれば、それは確実な一歩を踏むことを意味している。
文/ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番
翻訳= 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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