【コラム】首位・川崎フロンターレ撃破で今季の強さを証明する。古巣を熟知する阿部浩之にかかる期待 ｜ 名古屋グランパス

古巣との対戦に「変な感情はある」

「川崎Fが失点するパターンはある程度分かっているつもりですし、どういう攻撃が嫌なのかも頭の中にはあります。それを偶然ではなく、自分たちから作り出せるようにしたいですね」（阿部浩之）

20勝2分1敗、近年のJリーグでは、見たことのない独走ぶりで首位に君臨する川崎フロンターレ。そんな川崎Fに今季唯一リーグ戦で土をつけたのが、今節対戦する名古屋グランパスだ。

前回の対戦は8月23日の第12節。同一シーズンにおけるJリーグ記録となる10連勝を達成したフロンターレが、グランパスのホーム・豊田スタジアムに乗り込んだ。

試合は大方の予想通りフロンターレが主導権を握り、グランパスが守備で強固なブロックを作り耐える展開となる。しかし前半44分、グランパスは自陣でボールを奪うと、速い攻撃にシフト。左右に大きく揺さぶりをかけ、最後はFWマテウスのクロスをエースFW金崎夢生がヘディングで決めた。

後半に入ってもフロンターレがボールを保持し、グランパスがしっかり守ってカウンターを狙うという展開に。前線の選手が2度3度とボールを追い回し、最終ラインは身体を張ったディフェンスで守り切る。そして、そのまま1-0で試合は終了し、グランパスがフロンターレの連勝を10で止めた。

大きなサプライズを見せたこの試合に阿部は出場できなかった。第6節・大分トリニータ戦で右太ももを痛めた阿部は、ある意味この古巣戦に照準を合わせて調整していたが、間に合わずにスタンドからチームメートを見守った。連戦が続く厳しい日程で無理をして、再びチームに迷惑をかけることは出来なかった。

去年まで所属していたフロンターレでは、リーグタイトルなど4冠を獲得し、阿部は幸せな時間を過ごしていた。だが、新しい挑戦をしたいと、ここ数年低迷しているグランパスを新天地に選んだ。

2年目の成長株・成瀬竣平は「阿部さんのアドバイスで動きのコツが分かった。本当に勉強になる」と絶大な信頼を寄せる。「僕が勝ちたいから言ってるだけですよ」と阿部は照れを隠すが、移籍してきてすぐにチームの中心になった。

古巣戦は対ガンバ大阪で何度も経験がある阿部だが、今回は慣れ親しんだ等々力陸上競技場での試合となる。

「正直、どんな気持ちになるか等々力に行ってみないとわからないですが、変な感情はあると思います。でも試合になれば普通にプレー出来ますし、いち個人の感情を持ってはダメ。名古屋が勝つことだけを考えます」

阿部が考えるフロンターレ攻略法

はたして阿部は、最強の古巣との対戦をどうシミュレーションしているのだろうか。

「（フロンターレは）横幅をしっかり使いますし、スライドが遅いと中央から崩される。しっかりスライドしながら怖いところから埋めていくことが大事ですね。ただ、それで真ん中を固めてもミドルがある。どこからでも点が取れるので、隙を作らないことを90分集中してやらないといけないと思います」

フロンターレの65得点19失点はどちらもリーグ1位。自分たちから主体的にボールを動かす攻撃力は、この数年のJリーグのチームの中でもトップクラスだろう。ボールを持たれることは仕方ないが、思い通りに持たせてはいけない。

「ボールを回させている時間をあえて作って、うまく休むところを作らないと体力的に持たないと思います。ただ守るだけでは、ボールを奪ったあとが良くないので、攻撃にプラスになるポジショニング。逆に攻撃の時も、ボールを取られてもすぐに取り返せる守備陣形が大事だと思います」

両チームともに連戦が続く中で、グランパスは前々節でDF吉田豊が、前節はFWガブリエル・シャビエルとFW相馬勇紀が負傷で離脱した。正直、台所事情は苦しいが、思い返せば前回対戦も、阿部とMF米本拓司を欠いた戦いだった。フロンターレもさらにパワーアップしているだろうが、今回グランパスには阿部がいる。

「前回フロンターレから奪った得点は、全員が連動し同じ絵を描いて生まれた。そういう場面をもっと作り出せば、失点が少ない相手でも得点できると思う。偶然じゃなくて自分たちで作り出したい」

今節をあくまで34試合中の1つと言う阿部だが、この試合に勝つことで、ある意味今年の名古屋の強さが証明される。古巣を熟知する阿部の両脚に、シーズンダブルの期待がかかる。

文・斎藤孝一

1965年、愛知県生まれ。テレビカメラマン、ディレクターとして活動後、2017年にスポーツジャーナリストに転身。現在はサッカー新聞エルゴラッソで名古屋・岐阜を担当する他、専門誌などで連載執筆中。

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