今週末、マンチェスターの街が「赤」と「青」に二分される。ユナイテッドとシティによる183回目のマンチェスター・ダービーだ。
シーズン前半戦なので、優勝戦線生き残りをかけた“サバイバルマッチ”と呼ぶのは大袈裟だが、上位陣に離されないためにも両チームとも勝ち点3が必要である。
それにしても見どころ満載のダービーである。
ブルーノ・フェルナンデスとケヴィン・デ・ブライネの司令塔対決に始まり、大英帝国勲章を授かったマーカス・ラッシュフォードと差別撲滅運動を先導するラヒーム・スターリングによる“模範的プレーヤー決戦”。
そしてメイソン・グリーンウッドとフィル・フォーデンの「誰にでも若気の至りはあるよね」対戦も面白そうだ(編集部・注/グリーンウッドとフォーデンは9月のイングランド代表招集時にホテルに女性を連れ込む規律違反を犯した)。
それからこの試合は、両チームにとって“鬼門”と呼べるオールド・トラッフォードでの開催だ。今季ユナイテッドはリーグ戦のアウェーゲームで無傷の5連勝だが、本拠地での成績はリーグ17位。一方でシティはアウェイの成績が12位と芳しくない。
マンチェスター・ダービーの直近15戦は全て2点差以内の決着となっており、内容はともかく、恐らく今回も僅差のスコアが予想される。
無論、両者とも今季はよもやの大量失点を喫する試合があるので、大味な展開も想像できる。特に、公式戦ここ5試合で無失点のシティに対して、ユナイテッドは直近5試合で10失点と守備の安定を欠くため、ゴールが飛び交う可能性も否定できない。
そうなれば純粋にゴールショーを楽しめば良いのだが、もし膠着状態が続くようならば選手交代に注目しよう。
交代出場の3選手がゴールに絡む
数ある見どころの中でも、両チームのベンチワークはとりわけ興味深い。
というのも先日、両チームのベンチワークが話題となったばかりなのだ。ユナイテッドはチャンピオンズリーグ(CL)でグループステージ敗退となり、オーレ・グンナー・スールシャール監督が矢面に立たされているが、敗退の一番の原因は最後のライプツィヒ戦で敗れたことではない。むしろ、今月2日のパリ・サンジェルマン戦での敗戦にあると思う。
その試合、ユナイテッドはMFフレッジが70分に2枚目のイエローカードを貰って退場。相手選手に頭突きを見舞った時に一発レッドを免れたが、そのまま試合に出続けたことで2枚目の警告を貰うことになった。退場者を出すまで内容で押していたユナイテッドも、数的不利になって万事休す。
結局、残り2試合で1ポイントだけ稼げばグループ突破という状況から、2連敗して敗退の憂き目に遭ったのだ。
フレッジの退場について、選手本人よりも批判を浴びたのがスールシャール監督だった。元ブラックバーンのストライカーで現在は解説者として活躍するクリス・サットンは「スールシャールはとんでもないミスを犯した」と『BBCラジオ』に語っている。
本来、フレッジは前半に頭突きをした時点で退場になるはずだった。それを見逃して貰ったのだから、ハーフタイムのうちに交代させるべきだったのだ。「こうなることは分かっていたのに……」とサットンは嘆いた。
無論、現役時代にスーパーサブとして名を馳せ、21年前のCL決勝で奇跡の逆転勝利を呼び込んだスールシャールが、選手交代を苦手としているわけではない。今季ユナイテッドは、交代出場の選手がリーグ最多の計5ゴールを決めているのだ。
そして、今季プレミアで途中出場から最もゴールに絡んでいるのがユナイテッドのFWエディンソン・カバーニである(3ゴール1アシスト)。
プレミア記録となる1999年のノッティンガム・フォレスト戦でのスールシャールの途中出場から4得点には及ばないまでも、カバーニは第10節のサウサンプトン戦で交代出場から2得点1アシストで3ー2の逆転勝利に貢献した。
続くウェストハム戦、ユナイテッドは交代出場の3選手が揃ってゴールに絡んで再び試合をひっくり返した。データサイト『Opta』によると、交代出場の3選手がゴールに絡むのは、ユナイテッドにとってプレミア史上2度目のことだという。
このように、今季のユナイテッドは交代カードを上手く使って逆転勝利を手繰り寄せており、今季は先制された試合でリーグ最多となる15ポイントも稼いでいる。「そもそもスタメンが間違っているのでは?」と指摘する声もあるが、強力なメンバーがベンチに控えているのは間違いない。
怪我で直近のライプツィヒ戦を欠場したカバーニの状態こそ気になるが、今週末のダービーでも交代選手が決定的な仕事をするかもしれない。
アグエロというとっておきの交代カード
一方で、シティは“交代しない”ことで注目を集めた。彼らは前節のフラム戦で交代カードを一枚も切らなかった。これはシティにとってプレミアリーグで15年ぶりのこと。そしてペップ・グアルディオラにとっては、欧州5大リーグで監督を務めて416試合目にして初めてのことだったという。
グアルディオラと言えば、他の欧州主要リーグにならってプレミアの交代枠を「3」からコロナ禍対応の「5」へ拡大するよう訴え続けている指揮官の1人だ。そんな彼が交代カードを1枚も切らなかったのである。プレミアリーグへのアンチテーゼかもしれないが、理由はそれだけではない。
2016年夏の就任以降、シティを2度もリーグ制覇に導いているペップの“勝利の方程式”の1つがプレッシング。では、その強度を指数化した「PPDA」なるデータをご存知だろうか。
これは「守備アクションを起こすまでに敵に何本のパスを許したか」の数値で、低ければ低いほどプレス強度が高いことを意味する。
就任から3シーズン、ペップは「6.43」「6.40」「8.44」とリーグ最少の「PPDA」を誇っていた。それが昨季はリーグ4位まで落ち込み、今季に至っては下位クラブに快勝した直近2試合を除くと平均「9.8本」まで増えていた。これはプレスの強度が落ちたことを意味する。
真っ先に思い浮かぶ要因は他チームのプレースタイルの進化にあるが、それ以外にもコロナ禍によるプレシーズンの準備不足や過密日程による疲労が考えられる。
だからこそペップは「残り20分でミスが目立った」と認めながらもフラム戦で交代カードを切らず、ミッドウィークのCLマルセイユ戦でスタメン9枚も入れ替えて完全にターンオーバーを遂行し、主力選手のリフレッシュを図ったのだ。もちろん今週末のダービーに照準を合わせて……。
さらにシティには、とっておきの交代カードがある。
怪我に悩まされてきたエースのFWセルヒオ・アグエロが、マルセイユ戦で復帰を果たして途中出場からわずか10分でネットを揺らしたのだ。同選手は今週末の試合もベンチスタートが予想されており、シティ最強の切り札となりそうだ。
基本的にフットボールは「11人対11人」の競技だが、はたして今週末のダービーは「何人vs何人」の勝負になるのか。両チームのベンチワークに注目したい。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
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