エースが違った意味でゴールから遠ざかる
ようやくプレミアリーグのスタジアムにもサポーターが戻ってきた。制限付きだが今週末から観客の動員が認められており、トッテナム・ホットスパー・スタジアムにも9ヶ月ぶりにファンが戻ってくる。
そんな記念すべき日に、これ以上ないほど相応しいビッグゲームが組まれている。トッテナムとアーセナルによる201回目のノースロンドン・ダービー(日本時間7日1:30キックオフ)だ。
イングランド屈指のライバル抗争が2,000人のファンをもてなすわけだが、興味深いことに両チームともストライカーが“ゴールから遠ざかって”いるのだ。それも単なるストライカーではない。これまで得点を量産してきた両チームのエースが、違った意味でゴールから遠ざかっているのだ。
まずはアーセナルの主将にして絶対的エースのFWピエール=エメリク・オーバメヤンである。
2季連続でリーグ戦22ゴールを奪っている点取り屋が、今シーズンはわずか2ゴールに留まっており、PKを除けば開幕戦以来ゴールがない。奇しくも、新たに3年契約を結んで以降、リーグ戦では流れの中からゴールを奪えていないのだ。
前節のウォルヴァーハンプトン戦でも、試合終盤にエクトル・ベジェリンのクロスに頭で合わせたが、軽く当てただけのシュートはゴールの枠を外れた。この日は、前半に両チームの選手が空中戦で衝突するアクシデントがあり、オーバメヤンも精神的な影響を受けていたのかもしれないが、チャンスを決められなかったことに違いない。
同ストライカーについて、ワトフォードのFWトロイ・ディーニーは負のスパイラルに陥っていると英国ラジオ局『talkSPORT』で指摘する。
「調子が出ないとき、(ストライカーは)下がってくる傾向にある。ゴールから離れてしまうんだ。ゴールが決まっているときは『打てば入る』と思えるが、不調のときは違う。戻ってきたり、サイドに流れたりすることが多くなるのさ。」
確かにオーバメヤンは、90分毎のシュート数が昨季までの「2.8本」から今季は「1.8本」に減少しており、ボックス内でのボールタッチの割合も「13.1%」から「10.6%」に減っている。「彼のゴールが必要なので、彼がゴールを奪えるように私も最善を尽くす」とミケル・アルテタ監督も先日の会見で宣言しており、待ち遠しいエースの復調がチームの命運を握るだろう。
“クォーターバック”を兼任するケイン
オーバメヤン同様、スパーズの攻撃を牽引するエースもゴールから遠ざかっている。ただし、彼の場合は“ポジショニング”だけの話だ。今季も最前線を任されているFWハリー・ケインは、昨季と比べると試合中の実際のポジショニングがゴールから遠ざかっている。生粋の点取り屋という印象が強かったが、今季はプレイメークまで担っているのである。
少し下がった位置でボールを収めると、裏のスペースに走り込むチームメイトにラストパスを供給する。ケインは「憧れ」と語るNFLのスーパースター、トム・ブレイディ顔負けの“クォーターバック”を兼任しているのだ。
それが面白いように機能しており、マンチェスター・シティのMFケヴィン・デ・ブルイネを抑えて今季ケインはリーグ最多の9アシスト。そのうち7本で韓国代表FWソン・フンミンのゴールをお膳立てしている。それでいて自分でも7ゴールを決めており、「No.9」と「No.10」を融合させたハイブリッドなアタッカーとして進化を遂げている。
そんなケインの能力を最大限に引き出しているのが名将ジョゼ・モウリーニョである。
過去にディディエ・ドログバやズラタン・イブラヒモヴィッチを愛用してきた指揮官は、最前線のストライカーに得点力だけでなくポストプレーも求める。それはスパーズでも同様だ。シティを2-0で撃破した第9節終了後、ケインは「主にボールをキープすること。そしてファウルを勝ち取ったり、味方につなげたりする」と自身の役割について語った。
今のスパーズは、ケインが幅広く動くことでスペースが生まれている。そこにソン・フンミンのような快足アタッカーが走り込むだけでなく、中盤のタンギ・エンドンベレやムサ・シソコ、そして両サイドバックまでが持ち味の走力を活かして攻撃に参加する。ケインがゴールから遠ざかることで、チームに流動性が生まれているのだ。
それこそモウリーニョが選手たちの信頼を勝ち取った証拠だ。マンチェスター・ユナイテッド時代には選手との確執が報じられ、昨季のスパーズでもエンドンベレと衝突したモウリーニョだが、今は違うようだ。
シソコは昨年11月に就任した指揮官について「最初は少し怖かった」と英紙のインタビューで認めつつも、「選手だけでなくクラブスタッフ全員に良くしてくれるんだ」と信頼を口にする。
この一体感が今季の強さなのだろう。「モウリーニョのためならケインはサイドバックだって務めるはず」と冗談を飛ばす現地解説者がいるほどだ。
もちろん、そんなにゴールから離れた位置で起用されることはないと思うが、ノースロンドン・ダービーでもモウリーニョの戦術とケインのポジショニングには注目したい。このダービーで歴代最多タイの10ゴールを決めているケインは、怪我でミッドウィークの試合を欠場したが今回の大一番には間に合う見込みだ。
生粋のストライカーをトップ下気味に…
いくら「ダービーにチームの調子は関係ない」という格言があるとはいえ、ホームのトッテナムが優位なのは間違いない。スパーズが60年ぶりのリーグ制覇を目指して優勝争いを演じる一方で、今季のアーセナルは最近39年間で最悪のスタートを切っており、プレミア直近6試合で1勝(1分け4敗)しかできていないのだ。それどころか、その6試合で一度も流れの中からゴールが奪えていないのである。
しかし、そんな状態だからこそ、アーセナルは今回のノースロンドン・ダービーで浮上のきっかけを掴みたい。
そして、そのためにはゴールから遠ざかる“3人目”のストライカーが必要かもしれない。アーセナルはヨーロッパリーグの最近2試合で生粋のストライカーであるアレクサンドル・ラカゼットをトップ下気味に起用している。
そのフランス人FWは今月3日のラピド・ウィーン戦で豪快なロングシュートを叩き込んで公式戦9試合ぶりのゴールを決めており、「今後も使える戦術」と指揮官も手応えを感じている。そういえば、昨シーズンのノースロンドン・ダービーで2試合ともゴールを決めたのは、オーバメヤンでも、ケインでもなかったような……。
今回のノースロンドン・ダービーは、やはり“ゴールから遠ざかるストライカー”が鍵を握りそうだ。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
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