勝点3しか許されない上位決戦
王者マンチェスター・シティへの挑戦権をかけた大一番。チェルシー対リヴァプールは、勝点3しか許されない注目の上位決戦だ。
リーグ優勝を目指すなら、両チームともこれ以上の足踏みは許されない。着実にポイントを積み重ねる首位のシティに対し、チェルシーは8ポイント、リヴァプールに至っては9ポイントもの差をつけられて新年を迎えることになった。
「大きな差が開いている。シティを独走させたくなかったのだが……、今日のような試合をしていたら、シティに追いつくことなど考えることができない」
12月28日のレスター戦に敗れた後、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は2年ぶりのリーグ制覇に黄色信号が灯ったことを認めた。今季わずかに2度目の黒星なのだが、それでも悲観的なコメントを残したのには理由がある。昨シーズンのスランプが脳裏をよぎるのだ。
昨季は首位でクリスマスを迎えながら、そこからリーグ戦5試合も勝利から遠ざかり、ホームゲームに限っては8試合も白星に見放されて優勝戦線から脱落した。今シーズンは、ここまで順調に思えたが最近2試合に勝利がなく、1試合消化が少ないとはいえシティに大きく水をあけられる格好となった。
昨シーズンのスランプに関しては、DFフィルジル・ファン・ダイクの不在が主因なのだろう。守備のリーダーが膝の故障で長期離脱すると、DFジョー・ゴメスまで戦列を離れて非常事態に。冬の移籍市場でDFオザン・カバク(現在ノリッジ所属)とDFベン・デイヴィス(今季シェフィールド・Uにローン移籍)を補強するほど切羽詰まった状況に陥った。
だが今シーズンは、ファン・ダイクがコロナ陽性で一時的に不在だったものの、彼が復帰して戦力が揃った状態で迎えた直近のゲームで、レスターに痛い敗戦を喫したのだ。だからクロップ監督も「明確な説明が見当たらない」とインテンシティを欠いて0-1で敗れた試合について首を傾げたのである。
今季は先制した試合で無敗
指揮官が頭を悩ますのも無理はない。リヴァプールが無得点に終わるのは今季公式戦28試合目にして初めてのこと。プレミアリーグでの無得点となると3月のフラム戦以来、実に29試合ぶりのことだった。だが、決してチャンスがなかったわけではない。
前半には絶対的エースのモハメド・サラーがPKを止められてしまい、そのこぼれ球をヘディングで押し込もうとしたが、シュートはバーに嫌われた。少しでもずれていれば先制ゴールを奪えたはずだが、その数cmが命運を分けることは誰よりも理解している。3シーズン前には「11mm」の差でマンチェスター・Cとの頂上決戦を落とし、最終的に優勝を逃した苦い思い出がある。
それを不運と嘆くことはできない。後半開始直後にはFWサディオ・マネが抜け出して決定機を作っていたのだ。決まっていれば全く違う展開になったはずだが、シュートは無情にも枠の上に外れた。マネの不発は深刻だ。今季ここまでリーグ戦7ゴールを決めているものの、公式戦最近9試合にゴールなし。出場808分間(13時間半!!)ノーゴールは、リヴァプールに加入して以降で最も長い。今季は先制した試合で無敗なだけに、どうしても先制点が欲しかったが、最後まで決定力を欠いた。
対戦の順番が悪かったのかもしれない。多くの怪我人を抱えるレスターは、3-6で大敗したボクシング・デーのマンチェスター・シティ戦で主力のMFウィルフレッド・エンディディとFWジェイミー・ヴァーディを温存し、2日後のリヴァプール戦に備えたのだ。とはいえ「中1日」のレスターに対し、リヴァプールは直前の試合が延期になり「中5日」でレスター戦を迎えたのだから日程を言い訳にはできないし、プレー強度を欠いた理由にもならない。
これが一時的な不振なのか、それとも昨シーズンのように長引くのか。それは分からないが、今回のチェルシー戦で勝点3が必要なことは確かだ。
この試合後は、悪夢の1ヶ月が待っている。チェルシー戦を最後にサラーやマネ、MFナビ・ケイタがアフリカネーションズカップのため1カ月ほどチームを離れるのだ。とりわけチームの総ゴール数のうち約半分にあたる24点(15ゴール9アシスト)に絡んでいるサラーの不在は痛すぎる。だからこそ、この試合では絶対に3ポイントを持ち帰らなくてはいけない。
ルカクという“Xファクター”
一方のチェルシーは、怪我人の続出により台所事情が厳しいとはいえ、まだ彼らには“Xファクター(未知の要因)”がある。それが2試合連続ゴール中のFWロメル・ルカクである。彼の覚醒次第では、シーズン後半にシティを猛追できるかもしれない。
今季チェルシーに再加入した怪物は、いまだに燻っている。加入後初出場となった8月のアーセナル戦でも違和感があった。ゴールを決めてマン・オブ・ザ・マッチに選ばれて称賛を集めたが、どこか物足りなかった。あの試合、ルカクに手を焼くアーセナルは崩れかけのジェンガに見えた。
あと一押しで倒れるはずだった。しかし、前半のうちに2点リードしたチェルシーは、ルカクにボールを集めようとしなかった。2-0のまま反撃を食らわずに勝てたから良かったが、相手が嫌がることを徹底しない“甘さ”を感じた。
ルカクの起用法は今季チェルシーの最大のテーマだ。ありきたりのターゲットマンとして起用するだけではあまりにも勿体ない。クラブの英雄である元コートジボワール代表FWディディエ・ドログバがエースに君臨していた頃のように裏のスペースに大雑把なパスを送るのも一つの手段だし、もっと上下左右に動く自由を与えても面白いはずだ。ルカクはフィジカルモンスターだが、決してフィジカルだけの選手ではないのだから。
もしかすると、彼には殻を破るきっかけが必要なのかもしれない。
それならば、このリヴァプール戦以上に適した試合はない。世界最高のディフェンダーと呼ばれるファン・ダイクとの激突が、ルカクの眠れる力を引き出す契機になるかもしれない。これまでルカクは、代表戦を含めてファン・ダイクと6試合で対戦しているが一度もゴールを奪えていない。今季最初の対戦でも、DFジョエル・マティップをなぎ倒す場面こそあったが、ファン・ダイクの牙城を崩すには至らず、なんとか2本のシュートを放った。ただ、ファン・ダイクには3本もシュートを打たれていた……。
だから今季2度目の“怪物決戦”は見ものである。そしてトーマス・トゥヘルとクロップによるドイツ人監督対決も楽しみだ。シティを追いかける“青”と“赤”の優勝戦線サバイバルマッチ。勝点3以外は許されない大一番に注目だ!!
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
試合情報
プレミアリーグ第21節
チェルシー対リヴァプール
- 配信: DAZN
- 配信開始:1月3日(月)01:30
- 解説:林陵平 実況:野村明弘
- 会場:スタンフォード・ブリッジ
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