「絶望」の側に大きく傾いていた天秤が、少しずつではあるが、水平に近づきつつある。「希望」という名の分銅は、17歳のMFガビであり、18歳のFWアンス・ファティだ。
放漫経営の果てに、まるで借金のカタに取られるように“家宝”とも言うべきリオネル・メッシ(現パリ・サンジェルマン)を手放した今シーズンのバルセロナは、開幕前後から主力に故障者が相次いだ影響もあって、戦力の低下は誰の目にも明らかだった。
昨シーズンも、当時まだ17歳だったペドリをレギュラーに抜擢し、瞬く間にトッププレーヤーへと育てたように、もとより若手の登用に積極的なロナルド・クーマン監督ではある。
とはいえ、こうした苦しい台所事情がなければ、あるいはバルサBから引き上げたばかりのガビやニコ・ゴンサレス(MF/19歳)、アレックス・バルデ(DF/18歳)、さらにはラピド・ウィーンから獲得した18歳のウインガー、ユスフ・デミルといった未知数のティーンエイジャーに、これほどチャンスを与えることもなかったかもしれない。
そういった意味で、ガビという“今シーズン最大の発見”は、バルサの危機的状況がもたらした僥倖とも言えるだろう。
特筆すべきは“目の良さ”だ
予想通り、戦力も連係も整わない新生バルサは、開幕から不安定な戦いを続けた。ラ・リーガでグラナダやカディスを相手に勝点を取りこぼし、チャンピオンズリーグ(CL)でもバイエルン・ミュンヘン、ベンフィカ・リスボンにいずれも0-3で完敗。とりわけCLの2試合では、枠内シュートゼロという屈辱まで味わっている。
ただ、そんななかでも逸材ガビは着実に成長を遂げていく。当初は控え要員だったが、9月半ばにペドリが負傷離脱すると、代わってレギュラーに定着。インテリオール(インサイドハーフ)や3トップの右で重用された。
カンテラ育ちらしく足元の技術力が高く、キープ力にも秀でるガビだが、特筆すべきは“目の良さ”だ。戦況を読む目、スペースを見つける目が素晴らしく、だから常に正しい立ち位置で、正しい判断を下せる。シャビやアンドレス・イニエスタの系譜に連なるMFで、機動力も備えるため、タイプ的にはより後者に近いだろう。
何事にも動じないハートの強さも、ガビのかけがえのない魅力だ。
「時期尚早かもしれないが、将来的にはバルサだけでなく代表でも重要な選手になる可能性を秘めている」
そう招集理由を語ったルイス・エンリケ監督によって、トップデビューからわずか数試合というキャリアでスペイン代表に大抜擢されたガビは、UEFAネーションズリーグ準決勝のイタリア戦でいきなりスタメン出場。史上最年少の17歳62日で代表デビューを果たすと、この大舞台で物怖じすることなく堂々たるプレーを披露し、チームの勝利に貢献したのだ。
敗れはしたが、続くフランスとの決勝でもスタメンを飾ったガビが、強豪国相手の2試合で得た自信はとてつもなく大きかったはずだ。
比類なき才能は高度なシュート技術
そんなガビと並ぶバルサのもうひとつの希望が、メッシから「10番」を受け継いだファティである。
16歳304日でのラ・リーガ初ゴールを皮切りに、クラブの最年少記録を次々と塗り替えてきた神童は、昨年11月に左膝の半月板を損傷。術後の経過が芳しくなく、当初の予定よりも離脱期間が長引いたが、それでも9月27日のレバンテ戦で約10ヶ月ぶりの復帰を果たすと、途中出場からいきなりミドルを突き刺し、バルサ・サポーターの喝采を浴びたのだ。
まさしく特別な星の下に生まれた若者は、さらに続くバレンシア戦でも突出したパフォーマンスを披露。左サイドを攻略し、メンフィス・デパイとのワンツーから鮮やかな同点弾を奪うと、さらに決勝点となるPKも誘発する。
繊細なボールタッチと卓越したスピードもさることながら、比類なき才能は高度なシュート技術だろう。そのゴールの多くは、シンプルなワンタッチシュート。文字通りゴールマウスにパスを送るように、的確に枠を捉える。
ガビの台頭およびファティの復帰と足並みを揃えるように、バルサのチーム状態は明らかに上向いている。一時は解任確実と見られていたクーマンだが、適当な後任が見つからないという後ろ向きの決定ではあったものの、ジョアン・ラポルタ会長が続投を明言したことで、周囲の雑音も収まりつつある。さらに1-0の辛勝とはいえ、ディナモ・キエフを相手に挙げたCL初勝利も、少なからずチームに落ち着きを与えたはずだ。
王位継承者候補と呼ぶにふさわしい輝きを
そんな好気配のなかで迎えるのが、宿敵レアル・マドリードとのエル・クラシコだ。
現地時間10月24日、本拠地カンプ・ノウでの大一番で、はたしてバルサの未来を託された10代コンビは、どんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。残念ながらペドリが欠場濃厚だけに、彼らへの期待はいやがうえにも高まる。
注目したいのは、バレンシア戦でも違いを生み出した左サイドからの崩し。左インテリオールのガビと3トップの左に入ったファティに、左SBのジョルディ・アルバ、トップのメンフィスが絡むアタックはリズミカルで、スピード感に溢れている。マドリーの右サイドは盤石ではないだけに、なおさら2人のコンビネーションがカギを握りそうだ。
思い出すのは今から14年前、2006-07シーズンのクラシコだ。当時19歳のメッシがハットトリックをマークし、劇的な形でアディショナルタイムに追いついたあの伝説の一戦を境に、バルサの王位はロナウジーニョからメッシに禅譲された。今回のクラシコが、“代替わり”を世界に知らしめる舞台となる可能性は十分にある。
「レオ(メッシの愛称)の真似は誰にもできない。僕は僕の道を進むだけだ」
決戦を前に2027年までの契約延長に合意したファティに、気負いは一切なさそうだ。
ガビとファティ、バルサのカンテラが生んだふたつの宝石──。メッシのいない新時代のクラシコで、彼らが王位継承者候補と呼ぶにふさわしい輝きを放てば、均衡を取り戻しつつある天秤も、一気に「希望」の側へと傾くのだろう。
文・ 吉田治良
1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。
エル・クラシコ配信情報
ラ・リーガ第10節
バルセロナ対レアル・マドリード
- 配信: DAZN
- 配信開始:10月24日(日)23時15分
- 解説:小澤一郎 実況:桑原学
- 会場:カンプ・ノウ
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