トッテナムとチェルシーによる“ロンドン勢”の命運を占う大一番だ。この結果次第では、ロンドン勢が四半世紀ぶりに屈辱を味わうかもしれない。
両チームともシーズン序盤戦は順風満帆だった。11月の直接対決は勝ったチームが首位に立つという天王山。結局、チェルシーのロマン・アブラモヴィッチ政権1000試合目となった一戦はゴールレスドローに終わり、トッテナムが首位の座を維持した。
だがその後は、両チームとも下降線を辿っている。チェルシーが不振に喘いで監督交代の英断に踏み切れば、スパーズも最近9試合でわずかに2勝(3分け4敗)と急ブレーキがかかり、気づけば両チームともトップ4から陥落。その結果、ロンドン勢がトップ4から姿を消しているのだ。
仮にこのままシーズンを終えると、1995-96シーズン以来、実に25年ぶりにロンドン勢がトップ4入りを逃すことになる。1997年以降はアーセン・ヴェンゲル率いるアーセナルが20年間もトップ4の座を守り、彼らが衰退したあとも必ずスパーズかチェルシーのどちらかがトップ4を死守してきた。
今シーズンは大躍進のウェストハムにも期待できるが、現実的に考えてトップ4入りの可能性があるのは33ポイントで並ぶこの両チームだろう。そんな両者が相まみえるわけだ。
トゥヘル「全力でトッテナムを倒す」
会場は、ロンドンの命運を握る一戦に相応しいトッテナム・ホットスパー・スタジアムだ。というのも2018年、ロンドン勢で唯一トップ4に入ったスパーズは誇らしげにこんな広告を打っていた。完成間近のトッテナム・ホットスパー・スタジアムの画像に「ロンドンでチャンピオンズリーグ(CL)が見られる唯一の場所」と書き記し、CL出場権のなかったチェルシーやアーセナルを揶揄したのだ。
とはいえ、ご存知の通り新スタジアムは大幅に完成が遅れ、結局スパーズはウェンブリー・スタジアムを間借りしてCLを戦うことになり嘲笑を買った。それでも彼らは勝ち進み、準々決勝からは新スタジアムを使用してロンドン勢として2012年のチェルシー以来となるファイナル進出を果たしている。
さらにこの会場はチェルシーファン、とりわけフランク・ランパードの解任に心を痛めたファンにとっても思い出の地である。
ランパードは就任1年目の昨シーズン、直近5試合で4敗と危機的状況で迎えた2019年12月のスパーズ戦で、それまでの4-2-3-1から突然3バックに変更して恩師ジョゼ・モウリーニョに一泡吹かせたのだ。
2-0で勝利を収めたあと、ランパードはトッテナム・ホットスパー・スタジアムに足を運んでくれたチェルシーファンに着ていたコートを投げ渡し、「クラブとファンが全てなんだ。負けが込んでもファンは我々を支えてくれた」とサポーターへの感謝を口にした。
無論、彼の後任もこの場所には思い出がある。
トーマス・トゥヘルはドルトムントを率いて2016年にヨーロッパリーグ・ラウンド16でトッテナムと対戦した。ホームでの初戦を3-0で快勝すると、セカンドレグではスパーズの当時の本拠地ホワイトハートレーンに乗り込んで2-1の勝利を収めたわけだが、その試合後の会見が今になって注目を集めているのだ。
トゥヘルは会見の最後に通訳者に感謝を述べたあと、流暢な英語で自ら切り出した。
「子供の頃に友達とサッカーをするときは、ドイツのクラブになりきってプレーしたが、トッテナムになりきったこともあるんだ。トッテナム・ホットスパーという名前の響きが好きだったのさ。ポスターなどは持ってなかったし、ロンドンのクラブとも知らなかったがね。だから、彼らとの試合は特別だった。そして今回の対戦で分かったのは、トッテナムには親切な人しかいないということ。だから、ありがとう。そしてチームの幸運を祈っています」
ドルトムントの公式YouTubeチャンネルにもアップされたこの動画は、チェルシーの監督就任が決まると当然のように注目を集め、会見で説明を求められた。子供の頃の話と笑い飛ばしたトゥヘルは「全力でトッテナムを倒す」と誓っており、そうなると状況は大きく異なるとはいえ5年前の対戦が参考になる。
やはり期待すべきはソン・フンミン
というのも、現在怪我で離脱中のトッテナムのエースが、あの時もピッチ上にいなかったのである。リーグ戦に専念するため、ハリー・ケインはヨーロッパリーグでは起用されなかった。そのため、2戦合計1-5で敗れたスパーズの唯一のゴールを決めた選手こそ、今回トゥヘルが最も警戒するであろう韓国代表FWソン・フンミンなのだ。
スパーズは、ケイン不在のなかでどうやってソン・フンミンを活かすかがテーマとなってくる。
0-1で敗れた前節のブライトン戦では、ケインがいた前線中央にステーフェン・ベルフワインを配置。左サイドにはソン・フンミンを、右サイドにはリーグ戦でおよそ3ヶ月ぶりにギャレス・ベイルをスタメン起用したが、監督が「選手たちは憐れんでいた」と振り返ったように前半は覇気が感じられなかった。
後半から最前線に身長190cmのカルロス・ヴィニシウスを置いて4-2-3-1に移行すると、窮屈そうにしていたソン・フンミンも前方にターゲットマンができたことで得意のフリーランニングの回数が増したが、それでもケインの穴は埋まらなかった。別に無得点に終わったからではない。
「偉大なストライカーのスタッツを見るとゴール以外の数字は大したことない。しかしケインはゴール数だけでなくアシスト数、ボール奪取数、デュエル勝利数、セットプレー守備でのクリア数なども秀でている。それがハリー・ケインなんだ」
モウリーニョの言葉通り、ケインは偉大なストライカーではなく“偉大な選手”なのだ。そして前線で待ち構えるのも、下がってきてボールを受けるのも、彼がシンプルな動きに徹するから味方も彼にボールを入れやすいし、ソン・フンミンも“衛星”のように迷わず周りを動けるのだ。
もちろんゴール数だって今季チームの34得点のうち70%にあたる24ゴールをケインとソン・フンミンの2人で決めている。
モウリーニョにキャリア初の屈辱も
では、エースが復帰するまでの数週間、スパーズはどうすべきなのか?
実はCL決勝まで勝ち上がった2年前もケインは離脱中で、その時はルーカス・モウラが準決勝のアヤックス戦でハットトリックを決めてチームをファイナルに導いた。しかし、今回はやはりソン・フンミンに期待すべきだろう。昨季の同カードでDFアントニオ・リュディガーを蹴って一発退場になっているだけに、この試合では汚名返上に燃えるはずだ。
そしてモウリーニョ監督にも絶対に負けられない理由がある。前回のホームゲームでリヴァプールに敗れているため、この試合を落とすとリーグ戦のホームゲームで連敗となる。それは祖国のポルトガルで監督キャリアを歩み始めてから20年間、モウリーニョが一度も味わっていない屈辱だ。それを古巣に味わわされるかもしれないのだ。
そう考えると、モウリーニョがお得意のドロー狙いに徹する可能性もあるのだが、それではロンドン勢のトップ4入りの可能性に黄色信号がともってしまう……。
果たして“ロンドンのプライド”をかけた一戦はどのような結末になるのか。ちなみに、今のフレーズでビールが恋しくなった人はかなりのビール通だろう!
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
直近のプレミアリーグ試合日程
第22節
開催日 | キックオフ (日本時間) | 試合 | スコア |
---|---|---|---|
2/3(水) | 3:00 | シェフィールド・U vs ウェストブロム | 2 - 1 |
2/3(水) | 3:00 | ウォルヴァーハンプトン vs アーセナル | 2 - 1 |
2/3(水) | 5:15 | マンチェスター・U vs サウサンプトン | 9 - 0 |
2/3(水) | 5:15 | ニューカッスル vs クリスタルパレス | 1 - 2 |
2/4(木) | 3:00 | バーンリー vs マンチェスター・シティ | |
2/4(木) | 3:00 | フラム vs レスター | |
2/4(木) | 4:30 | リーズ vs エヴァートン | |
2/4(木) | 5:15 | アストンヴィラ vs ウェストハム | |
2/4(木) | 5:15 | リヴァプール vs ブライトン | |
2/5(金) | 5:00 | トッテナム vs チェルシー |
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