バルセロナの同門にして、2019年まで監督とコーチという師弟関係にあったペップ・グアルディオラとミケル・アルテタ。
片や2シーズンぶりの優勝に向けて視界良好、片やようやくトップ10浮上。本来ならば首位を走るマンチェスター・シティの優位は揺るがないが、今回は一流タレントが最先端のフットボールで共演する好勝負が期待できそうだ。
公式戦17連勝中のシティに死角はない
まずは4年間で3度目のリーグ制覇へ邁進する"ペップ・シティ"である。先週末はジョゼ・モウリーニョのトッテナムを圧倒し、ミッドウィークにはカルロ・アンチェロッティ率いるエヴァートンに3-1で快勝。名将たちを次々に退けて気づけばリーグ戦12連勝である。
年明けから数えてもリーグ戦10連勝となり、1906年のボルトン(9)、2009年のマンチェスター・ユナイテッド(9)を抜き去り、イングランド・トップリーグの「新年連勝記録」を打ち立てた。年末からEFLカップとFAカップでも勝ち続けており、公式戦は17連勝中である。
これはイングランドのトップリーグ所属クラブにおける記録なのだが、シティには公式戦20連勝という記録もある。しかし、2017-18シーズンのその記録はEFLカップでのPK戦の勝利を含めたもの。ご存知の通りPK戦の公式記録は「引き分け」とも言われており、やはり現在の17連勝こそ「正式なイングランド記録」と考えるべきだ。
ちなみに、それまでのイングランド記録保持者であるプレストン(1891-92)とアーセナル(1987-88)は公式戦で14連勝しながらリーグ制覇を逃したそうだが、今のシティはよっぽどのことがない限り、リーグ優勝は安泰だろう。
ハムストリングを痛めていたMFケヴィン・デ・ブライネがミッドウィークのエヴァートン戦で復帰したほか、新型コロナウイルスの影響で戦列を離れていたFWセルヒオ・アグエロも最近2試合でベンチ入り。
すっかり“ゴールマシーン化”したMFイルカイ・ギュンドアンも、そけい部を痛めてエヴァートン戦を休んでいたが金曜日の練習には一部参加しており、間に合うかもしれない。そう考えると、シティに死角はなさそうだ。
それでも“今”のアーセナルならば…
今シーズン、アルテタ体制で迎える初のフルシーズンとなったガナーズは迷走していた。
今季チェルシーから加入したFWウィリアンも、10月にブラジルの放送局『Globo』の番組で苦悩を明かしていた。ウィリアンはアルテタの緻密な戦術について「初めての経験でクールだね」と前置きしたうえで「まだ勉強中だ」と話した。
「“ポジショナルプレー”は決してピッチ上での自由がないわけではない。しかし戦術を理解して自分の立ち位置を尊重する場合が多い。全然ボールが回って来なくて苛立ちそうになっても、監督はもう少し辛抱しろと言うのさ」と説明した。
確かに、ペップの元で学んだアルテタのサッカーには細かい決まり事があり、シーズン前半戦はゴールに向かう姿勢よりもポジショニングを重視する傾向が強く、本末転倒にさえ見えた。実は、この問題を抱えていたのはアーセナルだけではなかった。
遠く離れた南米でも“ペップの影響”により混乱をきたしたクラブがある。ブラジルの名門フラメンゴだ。
バルセロナB時代からペップの元でアシスタントを務めていたドメネク・トレントが監督に就任すると、同チームは新体制でいきなり連敗スタートを切り、即座に“ポジショナルプレー”に批判が集まったという。
その後、一度は復調の兆しが見えたそうだが、結局トレントはわずか4カ月で解任されることになった。アーセナルだって、もしアルテタがOBじゃなければ既に解任に踏み切っていたかもしれない……。
アーセナルの"万能オイル"
そんなアーセナルの救世主となったのは、緻密な戦術とは相反する“個”のタレントだった。
それが20歳のMFエミール・スミス・ロウである。12月のチェルシー戦で今季リーグ戦初出場を果たすと、積極的に動き回って仲間からパスを引き出してゲームを組み立てた。そしてチームをリーグ戦8試合ぶりの勝利に導いたのだ。
スミス・ロウは前節のリーズ戦でも圧巻だった。
サイドでボールを持って溜めを作るだけでなく、簡単にパスをさばいて攻撃のテンポを作り出す。その状況判断は秀逸だ。
前半13分のピエール=エメリク・オーバメヤンの先制ゴールのシーンでも、DFガブリエウからの縦パスを何気なくワンタッチでMFグラニト・ジャカに落としたのだが、ボールスピードの殺し方は見ていてゾクッとするほどだった。
憎たらしいほど堂々とボールを持ち、戦術という枠の中で目一杯に自由を謳歌する。何より、サッカーを楽しんでいるように見えるのだ。今季のアーセナルは監督の指示に忠実に従う退屈なロボットに思えたが、スミス・ロウがその機械に新しい“油”を注いでくれた。
精力的に動いてチームのガソリン役になったかと思えば、くさびに入ってチームの潤滑油にもなり、さらに試合にワクワクという風味を足す香味油にもなる。彼はチームに欠かせない万能選手、いや万能オイルになっているのだ。
だからリーズ戦でオーバメヤンのハットトリックの3点目をアシストした場面でも、シュートミスがクロスになったと思うのだが、「もしかしてオーバメヤンへのパスを狙っていた?」と信じたくなる。
彼自身も試合後に「シュートかクロスか。どっちだと思う?」とSNSでファンに投げかけて楽しんでいるのだ。
もちろん相手と上手く噛み合ったという側面もある。ピッチ全体でマンマーク気味にプレスをかけてくるリーズに対しては、自力で目の前の一枚を剥がせば視界が開けるのだ。活路は前方にしかない。それが悩めるアーセナルにとって良いカンフル剤になったのだ。
あの試合のような強度と精度を保てれば、またトップ4争いに絡めるようになるだろう。そんな格好の“中間試験”を経て、今週末のシティ戦に臨むことになる。
この一戦は"若手の主役"を争う試合でもある
恐らく、今回の試合を誰よりも楽しみにしているのはイングランド代表のギャレス・サウスゲイト監督だろう。代表でも中心選手であるシティのラヒーム・スターリングと、アーセナルで絶対的な地位を築きつつある19歳のブカヨ・サカによる“ウィンガー対決”は注目だ。
そして前述のスミス・ロウである。
まだA代表には早すぎるかもしれないが、この試合では2017年のU17ワールドカップでイングランドを頂点に導いたときのチームメイト、フィル・フォーデンから“若手の主役”の座を奪えるかもしれない。
それだけではない。シティには、他にもスミス・ロウが超えたい選手がいるのだ。2018年、クラブ公式HPのインタビューでスミス・ロウは「かなり尊敬している選手」と憧れを語っていた。
果たして、ロンドン生まれの“クロイドンのデ・ブライネ”は本家を超えることができるのだろうか。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
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