【コラム】公式戦15試合連続無敗、直近リーグ戦3試合で11得点。横浜F・マリノスが絶好調である２つの要因 ｜ Jリーグ

横浜F・マリノスが絶好調だ。

明治安田生命J1リーグ開幕戦で川崎フロンターレに敗れて以降、公式戦15試合連続負けなし。直近のリーグ戦3試合で11得点を奪い、華麗なアタッキング・フットボールで暫定4位につけている。

2019年のJリーグチャンピオンは、連覇を目指した昨シーズンの悔しさを忘れていない。リーグ2位の69得点を挙げた攻撃力は大きな武器だったが、守備の不安定さが足を引っ張った。59失点は前年と比較して21点増。イレギュラーな過密日程にも苦しめられた。

しかし、今シーズンは様子が違う。リーグ戦11試合を終えて失点はわずかに「8」。これはJ1でも3番目の少なさで、優勝した2019シーズンよりも安定していると言えよう。現在の好調を支える要因の1つが堅守なのは間違いない。

好調の要因１：守備の安定とコンディションの向上

アンジェ・ポステコグルー体制で中心を担い続けてきたMF扇原貴宏は、昨シーズンと今シーズンの守備の違いについて次のように語る。

「やっぱり昨年の悔しさは関係していると思います。最終ラインも含めて、明らかに昨年よりも集中力高く守れている印象がある。チアゴ（・マルチンス）、シン（畠中槙之輔）、GKも含めて、すごく声を出して後ろから統率もしてくれますし、細かなところですけど、ディフェンスラインの押し上げのスピードだったり、そういうところの統率や高い集中力で守れていることが今シーズンはすごく多い。それが失点の少なさにつながっていると思いますし、好調な攻撃陣を支えている、昨年と違う点だと思います」

サッカーではよく「いい攻撃はいい守備から」と言うが、まさにその通り。今のマリノスは圧倒的な攻撃力の背景に、安定した守備があるからこそ、チームに好循環が生まれている。

昨シーズンに関して言えば、DFチアゴ・マルチンスが序盤に右足第5中足骨骨折で長期離脱を強いられ、復帰後もその負傷の影響でコンディションが上がりきらなかった。相対的に負担の大きくなった畠中も低調で、さらにGKがシーズン中に何度も入れ替わる（結局公式戦で4人が起用された）など、ディフェンス陣の不安定さが目立っていた。

だが、今シーズンは過密日程を乗り越え、チーム全体のコンディションも良好。主力の入れ替わりも少なく、戦術理解や連係もすでに高いレベルにあり、選手間の競争も活発になっている。扇原も「慣れ」とモチベーションの重要性を実感している。

「昨年の大変なシーズンを過ごして、みんな悔しい思いもありましたし、そういう悔しさを今年にぶつけようと、みんな高いモチベーションで入っています。その悔しさが今シーズンに生きていると思いますし、過密日程に対してもすごく慣れた部分もあるので、みんなすごくポジティブに捉えて臨んでいます。ずっとやっていることは一緒なんですけど、今年は新加入選手も少なくて、昨年からいる選手ばかりなので、連係面でもすごくうまく噛み合ってきているのかなとも感じます」

新加入のFWエウベルもフィットし、DF岩田智輝もすでにチームに欠かせないピースとなっている。遅れて合流したFWレオ・セアラも期待された得点力を存分に発揮するなど、新戦力たちの活躍は目覚しい。

好調の要因２：試合終盤にかけての爆発力

守備の安定とコンディションの良さ、この2点に加えて、好調の要因といえるポイントがもう1つある。それは試合終盤にかけての爆発力だ。

今シーズンのリーグ戦11試合でマリノスが記録した23得点のうち、12得点が61分以降に奪ったもの。これは同じ時間帯に11得点を挙げているフロンターレよりも多く、J1では最多の記録となっている。

マリノスの61分以降の得点の内訳を見ると、61分から75分までに6得点、76分以降に6得点となっている。前者では7得点のフロンターレに次ぐ2位、後者ではセレッソ大阪やヴィッセル神戸と並んでリーグ最多タイだ。

しかも、76分以降にマリノスが挙げた6得点の全てに途中出場の選手がゴールかアシストのどちらかで絡んでいる。試合終盤になってもプレーのインテンシティが落ちず、自慢の攻撃力を継続して発揮できていると言えるのではないだろうか。

扇原は「自分たちは後半にエネルギーを残していくことは全くしないですし、試合が始まった1分から全力でいくのが自分たちのサッカーなので」と述べつつ、試合終盤の得点力の高さについて次のように分析する。

「しっかりと自分たちのサッカーができれば、走り勝てる自信もあるので、そういう部分でフィジカル的にも自分たちの方が優っている証拠だと思います。あとは本当に選手層の厚さ。今年は途中から出てくる選手たちが結果を残すことが本当に多いので、それがチームにとっていい効果を生んでいるし、それがチーム力となっていて、61分以降の得点はチーム全員の力で増えているのかなと思いますね」

象徴的だったのは4月16日にアウェイで行われたJ1第10節の北海道コンサドーレ札幌戦だ。47分に先制を許していたマリノスは、1点ビハインドのまま終盤に差し掛かると、80分から一気に3得点を奪って逆転勝利を収めた。

ゴールを挙げたのはオナイウ阿道、前田大然、エウベルといずれも先発起用された選手だったが、それぞれの得点をアシストしたのは天野純と水沼宏太という途中出場の経験豊富な選手たちだった。

激しい競争が生み出す好循環

札幌戦で2アシストを記録した水沼は言う。

「自分自身は試合に絡めているけど、リーグ戦に全然出られていないというのが自分の中でものすごく大きくて。途中から出て、アシストなりというのはできていたりしますけど、もっとプレー時間を長くピッチに立っていたいという気持ちは、サッカー選手としてはある。そういう意味ではまだまだ物足りなくて、悔しい気持ちでしかないんですけど。

自分の与えられた状況というか、その時に与えられた仕事を全うできたのはよかった。でも、まだまだなところもあるので、そこを突き詰めて自分を表現できるかどうか、どんな状況で出番を与えられたとしても自分のやるべきことをモチベーション高くやることがサッカー選手として大事だなと、最近すごく感じています。変化があったというか、悔しさをもっともっと前面に出せるような感じでやっていきたいと思います」

リーグ戦は途中出場が中心ながら、決定的な活躍を連発している天野も「自分が5分でも10分でも出た時に何を見せられるか」にフォーカスしつつ、現状には「満足していない」と断言する。先発出場のチャンスを掴みとって、より長い時間の中で違いを見せることへの意欲を燃やしているのだ。

彼らのような経験豊富なメンバーが結果に貪欲な姿勢をピッチ上で表現し、激しい競争の中で存在感を見せようともがく姿は、他の選手たちのモチベーションにも好影響を与えているのは間違いない。チーム全体のコンディションの良さもあいまって、ベンチパワーの強さが試合終盤の爆発力や、ひいては15戦負けなしの好調にもつながっていると言えるのではないだろうか。

マリノスは9日に、こちらも好調のヴィッセル神戸をホームに迎える。神戸も今シーズンは守備が堅く、マリノス同様に試合終盤の得点が多いチームだ。そしてアユブ・マシカやリンコンといった新外国籍選手の合流やアンドレス・イニエスタの復帰を追い風に、さらに調子を上げようとしている。

ポステコグルー監督率いるマリノスは昨年は3度対戦して一度も勝てなかった神戸。総合力の違いを見せつけ、首位フロンターレを追撃したいところだ。

文・ 舩木渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、国内を中心に海外まで幅広くカバーする。

明治安田生命J1リーグ第13節 放送予定