ユヴェントスとの差は大きく縮まった
中断前と、再開後と――。おそらく他国リーグと同じように、セリエAの2019-20シーズンにも2つのストーリーがあった。
前半戦の勝者はユヴェントスとインテルとラツィオ。後半戦の勝者はアタランタとローマとミランとナポリだ。ごく当たり前の計算だが、その上位7チームのうち“前”と“後”のブレが最も小さかったユヴェントスが勝点「83」を記録し、今シーズンもまたイタリアサッカー界の頂点に君臨した。これによって、2011-12シーズンから続く連覇記録はついに「9」にまで伸びた。
もっとも、例年どおりの見慣れた結末だったからといって1年間の戦いがつまらなかったわけではない。むしろその逆だ。8度の優勝を味わっているDFレオナルド・ボヌッチ(ユヴェントス)は「今年のスクデットは最も難しかった」と話しているし、その実感はデータにもしっかりと表れている。
前述の7チームが盛り上げた今シーズン、1位ユヴェントスと7位ナポリの勝点差は「21」あるのだが、過去4年における“7位との差”を見ると、古いほうから2015-16は「34」、2016-17は「29」、2017-18は「35」、2018-19は「27」。つまり、今シーズンはユヴェントスとその他6チームの差が大きく縮まったことがわかる。
では、なぜユヴェントスは苦しみ、その他のチームはユヴェントスとの差を縮められたのか。その答えは、それぞれの“型”の成熟度にある。
マッシミリアーノ・アッレグリからマウリツィオ・サッリへと指揮権が移ったユヴェントスは、ピッチの上で示そうとする哲学もガラリと変わった。ナポリ時代のサッリを知るファンは「サッリボール」「サッリズモ」と称される攻守連動型のポゼッションスタイルを期待したが、1年を通じてその気配を感じられたのはごくわずかな時間だけだった。ボヌッチが言う。
「新たな哲学の下で新たなサイクルが始まり、思ったようなパフォーマンスができないこともあった」
そうして漂った不穏な空気によって、ユヴェントスは“らしくない黒星”をいくつも喫した。勝利のほとんどが圧倒的な個人能力と選手層の厚さによってもたらされたという見方は正しいし、逆にそれこそが“らしさ”であるという主張も正しい。いずれにしても今シーズンのユヴェントスは最後まで成熟した“型”を見せられず、そこが苦戦の要因となったことは明らかだった。
インテルの2トップはスペシャルなレベルに
一方、インテルとラツィオは前半戦に、アタランタとローマとミランとナポリは後半戦に“型”を成熟させ、確かな勢いをもってユヴェントスを苦しめた。
インテルはアントニオ・コンテ新監督が堅守速攻型のスタイルを早々に植え付け、それぞれの仕事を明確にしたことで選手たちのポテンシャルをきっちりと引き出した。攻撃のバリエーションを増やすためにトップ下のポジションを置く“バージョン2”は未完に終わったものの、ロメル・ルカクとラウタロ・マルティネスの2トップという武器はスペシャルなレベルにまで磨き上げられた。
ラツィオは就任4年目のシモーネ・インザーギ監督の下で、一時はどこにも隙が見当たらないほどのチームを作り上げた。エースのチーロ・インモービレは得点王に輝き、昨年12月には1ヶ月間でユヴェントスを2度破るという波乱も巻き起こした。再開後は故障者の続出によるチーム全体のコンディション低下で失速したものの、あの長い中断期間さえなければ「もしかしたら」と思わせるチームだった。
アタランタは今シーズン最も脚光を浴びたチームだ。奇才ジャンピエロ・ガスペリーニが落とし込む“オールコート・マンツーマン”はその精度をまた一段階上げ、アレハンドロ・ゴメスとヨシップ・イリチッチはもはやイタリアでも見つけるのが簡単ではないファンタジスタの価値をはっきりと示した。彼ら2人の“自由”と彼ら以外の“規律”が見事にハマるアタランタの破壊力は、リーグ最多の98得点にはっきりと表れている。
パウロ・フォンセカ新体制で臨んだローマは、前半戦こそ不安定な戦いと経営権売却をめぐるフロントのごたごたで落ち着かない時間を過ごしたものの、最終盤に来てガラリとその様相を変えた。ピッチ上におけるきっかけは3バックシステムへの変更だ。ラスト8試合を7勝1分で終えた充実感は、お家騒動が落ち着きそうな今となっては一切の疑いなくポジティブに解釈できる要素と言える。
イブラ加入以降のミランは自信を確信に
「変化」という意味では、ミランとナポリの大変身も今シーズンを振り返る上で外せない要素の1つだ。
ミランは昨年10月に就任したステファノ・ピオーリ監督がチームに自信を取り戻させ、ズラタン・イブラヒモヴィッチの加入をブーストとしてその自信を確信に変えた。再開後の12試合はなんと無傷の9勝3分。中盤の底に位置するフランク・ケシエとイスマエル・ベナセルはリーグ屈指のコンビに成長し、ついにはほとんど決まりかけていたラルフ・ラングニック体制の発足を頓挫させる形でピオーリは新たな契約を結んだ。
ナポリも同様に、ジェンナーロ・ガットゥーゾの就任によって悪い流れをガラリと変えた。闘将はまず、かつてあれだけ攻撃偏重型だったチームに“守り勝つ型”を教え込んだ。それが奏功してラツィオとユヴェントスに勝ち、バルセロナに引き分けたことで一気に自信を深めた。再開後にはユヴェントスを制してコッパ・イタリアのタイトルを勝ち取り、来シーズンへの弾みをつけた。
「リーグトップレベルの右SB」冨安
もちろん主役は“7強”だけではない。ロベルト・デゼルビ率いるサッスオーロはリーグ随一のポゼッションスタイルで再開後のリーグ戦で上位陣を苦しめたし、若手の好タレントが揃うヴェローナは「ピッコロ(小さな)アタランタ」と称されるスタイルで確かな存在感を示した。
ボローニャでは冨安健洋が「リーグトップレベルの右サイドバック」として活躍し、吉田麻也はサンプドリアの残留に大きく貢献した。今冬の補強に成功したフィオレンティーナと、カタールの大企業が新オーナーになるパルマは来シーズンが楽しみだ。パルマのデヤン・クルゼフスキ、フィオレンティーナのガエターノ・カストロヴィッリ、サッスオーロのジェレミー・ボガなど将来が楽しみな若手の活躍も際立った。
たしかにユヴェントスは覇権を守った。しかしその表情は、例年よりも明らかに苦しそうだった。だからこそリーグ全体にスリリングな空気が漂い、それが“面白さ”としてこちら側に伝わってきた。
もし来シーズンもサッリ率いるユヴェントスの“型“が定まらず、その完成に時間がかかるのなら、ここ数年でじわりじわりと縮まってきたユヴェントスとライバルの差はさらに小さくなるだろう。ボヌッチは今シーズンを「最も難しかった」と振り返ったが、来シーズンの難しさはそれを上回る可能性が十分にある。
前半と後半に分けられた2019-20シーズンの2つのストーリーには、それを予感させる十分な説得力があった。
文・細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『CALCIO2002』『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』編集部などを経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動している。DAZNセリエA解説者。ジェフユナイテッド市原・千葉オフィシャルライター。
順位表
順位 | 点 | 勝 | 分 | 敗 | 差 |
---|---|---|---|---|---|
1 ユヴェントス | 83 | 26 | 5 | 7 | +33 |
2 インテル | 82 | 24 | 10 | 4 | +45 |
3 アタランタ | 78 | 23 | 9 | 6 | +50 |
4 ラツィオ | 78 | 24 | 6 | 8 | +37 |
5 ローマ | 70 | 21 | 7 | 10 | +26 |
6 ミラン | 66 | 19 | 9 | 10 | +17 |
7 ナポリ | 62 | 18 | 8 | 12 | +11 |
8 サッスオーロ | 51 | 14 | 9 | 15 | +6 |
9 ヴェローナ | 49 | 12 | 13 | 13 | -4 |
10 フィオレンティーナ | 49 | 12 | 13 | 13 | +3 |
11 パルマ | 49 | 14 | 7 | 17 | -1 |
12 ボローニャ | 47 | 12 | 11 | 15 | -13 |
13 ウディネーゼ | 45 | 12 | 9 | 17 | -14 |
14 カリアリ | 45 | 11 | 12 | 15 | -4 |
15 サンプドリア | 42 | 12 | 6 | 20 | -17 |
16 トリノ | 40 | 11 | 7 | 20 | -22 |
17 ジェノア | 39 | 10 | 9 | 19 | -26 |
18 レッチェ | 35 | 9 | 8 | 21 | -33 |
19 ブレッシャ | 25 | 6 | 7 | 25 | -44 |
20 SPAL | 20 | 5 | 5 | 28 | -50 |
※1~4位がチャンピオンズリーグ出場、5~6位がヨーロッパリーグ出場権を獲得(コッパ・イタリア優勝のナポリが6位以内の場合は7位にもEL出場権付与)。18~20位は自動降格。
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