勝利が必要だったオーストラリア戦。これまでの状況を鑑みて、森保一監督はチームに変化を加えた。システム変更、そしてフレッシュな選手の起用。窮地に立たされた状況の中で切った新たなカードは、勝利へと導く起死回生の好手となった。
勝利の立役者の一人となったのが、東京五輪でチームの中心を担っていた田中碧だ。
「正直、僕の人生の中でもたぶんこれ以上に緊張することはないだろうなというくらいに責任を抱えていた。この試合が終わって引退してもいいやって思えるくらい後悔のない試合にしようと思っていた」と振り返る田中は、「4-3-3」システムのインサイドハーフで存在感を発揮。中盤の三角形を組んだ守田英正、遠藤航らとポジショニングのバランスを見ながら、巧みに立ち位置を変えてはボールを受けてチームにリズムを生み出していく。
そして、この日、最大のハイライトは前半8分にやってくる。左サイドでの組み立てを見てファーサイドにポジションを取ると、南野拓実からのクロスボールを落ち着いてコントロール。一瞬、相手GKを見て、ゴール左へと低弾道のシュートを突き刺した。
このゴールを見て思い出したのが先日の言葉だ。今夏にデュッセルドルフへと移籍した田中が、結果を残すために出した答えの一つが居残りでのシュート練習だった。
「みんなトレーニングが終わると帰るのがすごく早いので、グラウンドからすぐにいなくなってしまう。でも自分は点を取らないといけないと思っていて、誰もいなくなったグラウンドに10個ボールを置いておいてと言って一人でシュート練しています。早く決められたらいいんですけど」
今回のゴールは最後まで残って取り組んでいたシュート練習が実った形だ。緊張感のある試合で決めたことは、今後の代表戦やクラブチームでの戦いに向けても大きな成果となったと言っていいだろう。
また、ゴールを奪った後も田中の存在感は際立っていた。
「パス一つとっても受け手と出し手がいるので分かりやすく立ち位置をとることが大事。慣れると、きわどいところにボールが出せるけど、今日はなるべくリスクをかけないように心がけていました。それを90分やることで信頼関係ができるのと、後は喋ること、それを心がけて90分間やっていた」と言うように、初先発の中で探りながらの部分があったことは間違いない。それでもうまくボールを引き出しては的確にパスを配給。ビルドアップをスムーズにさせ、そこでのボールロストを減らしたことが、日本に流れをもたらした。
もちろん「まだ足りない」とする言葉通り、全てがパーフェクトだったわけではない。特に後半は前半ほどの存在感を出せず、疲労感の溜まる中でボールタッチも少なくなったのは改善点だ。また、周りとのフィーリングもこれから少しずつ合わせていく必要があるだろう。
だが、この大一番で見せたプレーが多くの人の目に留まったことも明らかである。「僕自身成長して、チームを引っ張っていくくらいの立場にならないといけない」と力強く言い切った田中。代表3試合目にして抜群のインパクトを残した男は、今後の最終予選のキーマンとなるかもしれない。
文・林遼平
埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。
W杯アジア最終予選 日本代表戦|試合日程・配信/放送予定
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