リヨンには単なる決勝以上の重みが
2019-2020シーズンのリーグアンは4月末に打ち切りが決まった。エドゥアール・フィリップ首相の「(ロックダウンが解除される)5月11日以降もチームスポーツの開催は許されず、9月まで5,000人を超えるスポーツイベントの開催はできない」との発表を受けての措置だった。
チームによって消化試合が異なるため、最終順位は平均勝点で決定。パリ・サンジェルマン(PSG)が優勝し、欧州カップ戦の常連であるリヨンは7位に終わった。後者はUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場圏に届かず、このままでは来季のヨーロッパカップ戦に出場できない。
前代未聞のシーズン中止に異を唱えたのは、リヨンのジャン=ミシェル・オラス会長だ。SNSでの奔放な発言で知られる名物会長が、愛するクラブの危機を前に黙っているはずがない。
「打ち切りになった今季は無効だ。従って、来季のCLに出るのは(今季も出ていた)PSG、リール、リヨンだ」
「シーズン終盤をプレーオフの形に縮小して開催すべきだ、判断はスポーツの結果によってなされるべきだ」
そう主張したオラス会長は行政裁判所の最高峰・国務院に提訴も行ったが、結局、リーグアン打ち切りの決定は覆らなかった。
もっとも、リヨンのヨーロッパへの道が完全に閉ざされたわけではない。PSGと対戦するクープ・ドゥ・ラ・リーグ決勝(日本時間8月1日4時10分キックオフ)で勝利すれば、来季のEL予選2回戦出場が決定。23シーズン連続で出場しているヨーロッパカップへの切符が懸かっているのだから、リヨンにとっては単なる決勝以上の重みがある。
怪我から復帰のデパイと若手に期待
負けられない大一番に向け、リヨンの状況はポジティブ。主力のリュカ・トゥザールがヘルタ・ベルリンに旅立ったものの、冬に加入したブルーノ・ギマランイスが中盤の底に定着し、CLの舞台でも通用した獰猛なボール奪取力で異彩を放っている。また、リーグアンのPSG戦でカウンターから脅威となったウイングで、カメルーン代表のカール・トコ・エカンビも健在だ。
さらに、昨年末に揃って膝の十字靭帯を負傷したメンフィス・デパイとジェフ・レーヌ=アデレードの復帰に伴い、陣容の充実度が高まっている。特に大きいのはデパイの復帰が早まったこと。フィジカル的な問題は見られず、テストマッチでは優れたスペースランニングを披露していた。本人も(PSG戦は)「大丈夫だ」と意気込む。
優秀なキッカーでもあるデパイの存在により、セットプレー絡みの得点力も飛躍的に高まるはずだ。17-18シーズンのPSG戦アディショナルタイムにスーパーミドルを決めたように、リヨンにとってはその勝負強さも心強い。
また、コロナ禍による交代枠の拡大(3→5)もあり、リヨンが誇る育成組織が輩出した若手にも期待したい。今年2月のPSG戦で弱冠16歳ながら1アシストを記録したラヤン・シェルキ、フランスU-19代表の主将マクサンス・カクレの中盤2人、さらには7月23日のテストマッチ(対ヘント)でゴールを奪った左SBのメルヴィン・バードなど、大一番での活躍が見込めるヤングタレントが少なくない。
ネイマールは「心身ともにいい状態」
一方のPSGは、右サイドバック(ウイングバック)の主戦だったトーマス・ムニエがドルトムントに移籍。エディンソン・カバーニも契約満了でチームを離れた。また、キリアン・ムバッペが7月25日のクープ・ドゥ・フランス(フランス杯)決勝で痛恨の負傷離脱。離脱期間は3週間の見込みで、少なくともリヨン戦には間に合わない。
ムバッペ不在でも「ファンタスティック・フォー」(ムバッペ、マウロ・イカルディ、ネイマール、アンヘル・ディ・マリア)の同時起用を前提とする4-4-2システムの採用が濃厚だが、超逸材の穴埋め候補となるパブロ・サラビアの出来に注目が集まるところだ。
もっとも、より多くを期待されるのはネイマールだ。いわば夏の風物詩であるスペイン方面からの移籍報道が今年は少なく、むしろ契約延長の噂が浮上するなど、エースとクラブの関係は良好に映る。トーマス・トゥヘル監督も「ネイマールは心身ともにいい状態だ」と評するほどだ。
親善試合でPKを蹴る際にイカルディにパスするトリックプレーを披露するなど、チームメイトとの関係性の良さも見て取れる。ネイマール自身が過去2シーズンのCLノックアウトステージを怪我で棒に振っているが、今季は弟分と言えるほど仲の良いムバッペが負傷離脱。モチベーションはかつてないほど高まっているだろう。
リヨン戦は8年間にわたってチームに在籍したチアゴ・シウバの国内ラストマッチでもある。穴のないプレースタイル、物静かで実直な人柄で信頼を集めた世界最高のCBはCL終了まで契約を短期延長したが、PSGでの最後の時が近づいている。マルキーニョスとの同胞コンビを堪能できる時間もあとわずかだ。
カバーニ、チアゴ・シウバと一時代を築いた功労者たちの退団が決まり、まさに過渡期を迎えるチームは国内3冠を達成できるだろうか。
なお、フランス1部~3部のプロクラブが参加するクープ・ドゥ・ラ・リーグは、1994年から現行の方式で開催されている。しかし、過密日程を生む弊害の批判を受け、今季限りで幕を閉じることが決まっている。文字通り「最後の王者」として歴史に名を刻むのは、PSGとリヨンのどちらだ!?
文・西 達彦
ボイスワークス所属(局アナ経験なし)。Jリーグ・リーグアン(DAZN)ONE(abemaTV)なでしこリーグ(YouTube)マリーンズナイター・高校野球(チバテレ)西武ファームなど実況。趣味は乗り物全般、渋谷系音楽。
2019-2020 リーグアン最終順位
順位/クラブ名 | 平均勝点(成績) |
---|---|
1 PSG | 2.52(22勝2分3敗|75得点24失点) |
2 マルセイユ | 2.00(16勝8分4敗|41得点29失点) |
3 レンヌ | 1.79(15勝5分8敗|38得点24失点) |
4 リール | 1.75(15勝4分9敗|35得点27失点) |
5 ニース | 1.46(11勝8分9敗|41得点38失点) |
6 スタッド・ランス | 1.46(10勝11分7敗|26得点21失点) |
7 リヨン | 1.43(11勝7分10敗|42得点27失点) |
8 モンペリエ | 1.43(11勝7分10敗|35得点34失点) |
9 モナコ | 1.43(11勝7分10敗|44得点44失点) |
10 ストラスブール | 1.41(11勝5分11敗|32得点32失点) |
11 アンジェ | 1.39(11勝6分11敗|28得点33失点) |
12 ボルドー | 1.32(9勝10分9敗|40得点34失点) |
13 ナント | 1.32(11勝4分13敗|28得点31失点) |
14 ブレスト | 1.21(8勝10分10敗|34得点37失点) |
15 メス | 1.21(8勝10分10敗|27得点35失点) |
16 ディジョン | 1.07(7勝9分12敗|27得点37失点) |
17 サンテチェンヌ | 1.07(8勝6分14敗|29得点45失点) |
18 ニーム | 0.96(7勝6分15敗|29得点44失点) |
19 アミアン | 0.82(4勝11分13敗|31得点50失点) |
20 トゥールーズ | 0.46(3勝4分21敗|22得点58失点) |
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