前代未聞の超過密日程は、“プレーするほう”だけでなく“観るほう”も大変だ。
セリエAなら再開後の1カ月半で12~13節分、そのうちラスト2週間で5節分が消化されるものすごいスケジュールであるから、試合を観るだけで1日が終わってしまう、あるいは観るペースがまったく追いつかないと感じている人も少なくないだろう。
中には、ある程度の決着が付きつつある今シーズンをすでに諦めて、来シーズンからまたじっくり観ようと考えている人もいるかもしれない。
さて、そうはいっても、仲間と語りたくなるトピックがいくつもあった今シーズンもいよいよ残り3節である。
そのラストをちゃんと見届けなくていいの? という“鼓舞”の意味も込めて、仕事として文字どおり必死に、超過密日程に食らいつきながらセリエAを視聴し続けている(疲労困憊の)自分から、「ラスト3節のセリエAで絶対に観ておきたい3選手」を推薦したい。
ラスト3節のセリエAで絶対に観ておきたい3選手
ドメニコ・ベラルディ (サッスオーロ / FW)
もしかしたら、今、セリエAで最も洗練されたアタッカーと言えるかもしれない。
「イタリア版グアルディオラ」と呼ばれる奇才ロベルト・デゼルビ監督は、なぜ、人口たったの4万人という小規模プロビンチャーレ(地方クラブ)で強気のポゼッションスタイルを貫けるのか。その答えは、ベラルディのパフォーマンスを見ればすぐに分かる。
4-2-3-1の「3」の右サイドに位置する彼は、時間と空間のコントールが抜群にうまい。足元に自信があるから2枚で寄せられても全く動じず、タッチラインを背にしながらボールをさらして相手との駆け引きを優位に進める。「飛び込めばかわされる」という空気感を演出する達者で、彼の足元にボールが収まるとピタリと時間が止まるから不思議だ。
いわゆる“タメ”がチーム全体に能動的なアクションを起こさせる時間を与え、自らもそれを利用し、緩急の変化で仕掛けてフィニッシュまで持ち込む。しかも、詳しい理由はわからないが、この終盤に至ってはものすごくコンディションがいい。
サッスオーロは第35節終了時点で8位。直近3試合は2分1敗と勝利から遠ざかっているものの、“再開後”においては最も好調なチームの1つだ。最前線には“ビールパフォーマンス”でおなじみの点取り屋フランチェスコ・カプート、左サイドにはキレキレドリブルのジェレミー・ボガ、中盤の底にはユヴェントスが獲得を狙うマヌエル・ロカテッリら個性豊かなタレントがいるが、「チームの心臓は右サイドにある」という視点で見ると、デゼルビの特異なスタイルはまた違ったカラーに見えてくる。
フランク・ケシエ (ミラン / MF)
再開後のリーグで7勝2分。まさかの無敗。右肩上がりの急浮上でヨーロッパリーグの出場権を手中に収めそうなミランは、ついに「ステファノ・ピオリ監督の続投」という判断によって長く続いたドタバタのお家騒動を終息させた。
確かに、近い未来に大きな希望を持ちたくなるほど今のミランは強い。
昨年9月からマルコ・ジャンパオロに代わって指揮を執り始めたピオリは、少しずつだが着実に、チームと選手の能力を見極め、それを最大限に引き出そうとするチーム作りを実らせてきた。そこに、絶妙のタイミングであのズラタン・イブラヒモヴィッチが加入。カリスマの存在感が“どっち”に作用するかは五分五分だった気がするが、結果的には選手たちのモチベーションと結束力は飛躍的に高まり、今の充実ぶりを引き寄せる結果となった。つまり、イブラヒモヴィッチの獲得に動いたフロントと、彼を使いこなしたピオリが大きな賭けに勝ったのだ。
イブラヒモヴィッチが起爆剤なら、ケシエは代えの効かない土台だ。
特に、守備時のポジショニング、「いける」と判断した瞬間のスピードとアプローチの力強さに注目してほしい。彼の特筆すべき武器は、流れの中で瞬間的に“正しいプレー”を見極めるクレバーさと、自らの判断でプレーを選択できるアグレッシブさだ。ミランに加入してからというもの“火消し”に奔走していたが、最近のケシエは、アタランタ時代と同じように自らがスイッチとなってチームに攻守の切り替えを判断させている。
圧巻だった第31節ユヴェントス戦のパフォーマンスを受けて、ピオリ監督はこう評価した。
「フランクは一貫性と素晴らしい姿勢を示した。ファンタスティックだったね。彼は今、技術的にも戦術的にも素晴らしいプレーをしている。今のフランクは“超アグレッシブ”な選手に変貌を遂げているよ。それが違いを作る」
まさにそのとおり。自らの判断で一歩前に踏み込むスタイルを確立したら、中盤でケシエの右に出る者はいないかもしれない。
フェデリコ・ボナッツォーリ (サンプドリア / FW)
再開直後の3連敗によって一時はセリエA残留が懸念された名門サンプドリアだが、第29節からの6試合で5勝1敗と一気に盛り返し。第34節パルマ戦の勝利によってセリエA残留を確定させ、68歳のベテラン指揮官クラウディオ・ラニエリはまたひとつ株を上げた。
守備陣における功労者はリーグ再開後からスタメンを勝ち取った吉田麻也だが、攻撃陣にもスターが誕生した。インテルに在籍した2014年には16歳11カ月27日でセリエAデビューを果たし、U-21イタリア代表では17歳6カ月という最年少出場記録を持つ左利きのストライカー、フェデリコ・ボナッツォーリである。
ハイライトは第32節からの3試合だ。ウディネーゼ、カリアリ、パルマと続いた3試合で奪ったゴールは「4」。そのすべてが勝利に直結するゴールとなり、チームをセリエA残留に導いた。彼のポテンシャルはこれら4つのゴールに見て取れるから、ぜひすべてのゴールをハイライトで確認してほしい。
かつては「クリスティアン・ヴィエリ2世」と呼ばれただけあって左足のパンチは素晴らしいが、ゴール前では細かな動き直しを繰り返し、一瞬のスピードで相手のマークを剥がすフィジカル能力もかなり高い。密集するボックス付近でのポストワークも丁寧で、ゴールに向かうアクションが途切れないから観ていて面白い。
チームメイトには技巧派でオールラウンダーのマノロ・ガッビアディーニ、そして稀代のストライカーであるファビオ・クアリアレッラがいる。“長い1年”を通じて、きっと多くを学んできたのだろう。インテル、サンプドリア、ランチャーノ、ブレシア、SPAL、パドヴァと武者修行を繰り返すうちにいつの間にか23歳になったが、今、その苦労の積み重ねが一気に開花しつつある最注目のタレントだ。
その他の注目ポイント
- セリエA屈指のヤングタレントであるガエターノ・カストロヴィッリと、「やっぱりすごい」と感じさせるフランク・リベリーが形成するフィオレンティーナの左サイド。
- カジェホンがまだ契約更新していないためもしかした見納めになるかもしれない、ドリース・メルテンス、ロレンツォ・インシーニェと形成する近年ナポリの躍進を支えた3トップ。
- リーグ終了後のチャンピオンズリーグで間違いなくユヴェントスのキーマンとなるはずのアーロン・ラムジーと、彼の起用法。
- 長期離脱から戻ってきてとんでもないゴールを決めたニコロ・ザニオーロは、残り3試合で継続的なパフォーマンスを示せるか。
- もしかしたら世界最高のクオリティかもしれないアタランタの両ワイド、ハンス・ハテブールとロビン・ゴゼンス。
文・細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『CALCIO2002』『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』編集部などを経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動している。DAZNセリエA解説者。ジェフユナイテッド市原・千葉オフィシャルライター。
セリエA日程・順位表
第36節
開催日 | キックオフ (日本時間) | 試合 | 放送・配信 |
---|---|---|---|
7/24(金) | 21:45 (翌4:45) | ミランvsアタランタ | |
7/25(土) | 17:15 (翌0:15) | ブレッシャvsパルマ | DAZN |
7/25(土) | 19:30 (翌2:30) | ジェノアvsインテル | DAZN |
7/25(土) | 21:45 (翌4:45) | ナポリvsサッスオーロ | DAZN |
7/26(日) | 17:15 (翌0:15) | ボローニャvsレッチェ | DAZN |
7/26(日) | 19:30 (翌2:30) | カリアリvsウディネーゼ | |
7/26(日) | 19:30 (翌2:30) | ヴェローナvsラツィオ | DAZN |
7/26(日) | 19:30 (翌2:30) | ローマvsフィオレンティーナ | DAZN |
7/26(日) | 19:30 (翌2:30) | SPALvsトリノ | |
7/26(日) | 21:45 (翌4:45) | ユヴェントスvsサンプドリア | DAZN |
第37節
開催日 | キックオフ (日本時間) | 試合 | 放送・配信 |
---|---|---|---|
7/28(火) | 19:30 (翌2:30) | パルマvsアタランタ | |
7/28(火) | 21:45 (翌4:45) | インテルvsナポリ | |
7/29(水) | 19:30 (翌2:30) | ヴェローナvsSPAL | |
7/29(水) | 19:30 (翌2:30) | ラツィオvsブレッシャ | |
7/29(水) | 19:30 (翌2:30) | サンプドリアvsミラン | |
7/29(水) | 19:30 (翌2:30) | サッスオーロvsジェノア | |
7/29(水) | 19:30 (翌2:30) | ウディネーゼvsレッチェ | |
7/29(水) | 21:45 (翌4:45) | カリアリvsユヴェントス | |
7/29(水) | 21:45 (翌4:45) | フィオレンティーナvsボローニャ | |
7/29(水) | 21:45 (翌4:45) | トリノvsローマ |
第38節
順位表
順位 | 点 | 勝 | 分 | 敗 | 差 |
---|---|---|---|---|---|
1 ユヴェントス | 80 | 25 | 5 | 5 | +35 |
2 アタランタ | 74 | 22 | 8 | 5 | +51 |
3 インテル | 73 | 21 | 10 | 4 | +38 |
4 ラツィオ | 72 | 22 | 6 | 7 | +33 |
5 ローマ | 61 | 18 | 7 | 10 | +22 |
6 ミラン | 59 | 17 | 8 | 10 | +11 |
7 ナポリ | 56 | 16 | 8 | 11 | +9 |
8 サッスオーロ | 48 | 13 | 9 | 13 | +4 |
9 ヴェローナ | 46 | 11 | 13 | 11 | 0 |
10 フィオレンティーナ | 43 | 10 | 13 | 12 | -2 |
11 ボローニャ | 43 | 11 | 10 | 14 | -10 |
12 パルマ | 43 | 12 | 7 | 16 | -2 |
13 カリアリ | 42 | 10 | 12 | 13 | -2 |
14 サンプドリア | 41 | 12 | 5 | 18 | -12 |
15 ウディネーゼ | 39 | 10 | 9 | 16 | -15 |
16 トリノ | 38 | 11 | 5 | 19 | -21 |
17 ジェノア | 36 | 9 | 9 | 17 | -21 |
18 レッチェ | 32 | 8 | 8 | 19 | -32 |
19 ブレッシャ | 24 | 6 | 6 | 23 | -41 |
20 SPAL | 19 | 5 | 4 | 26 | -45 |
※1~4位がチャンピオンズリーグ出場、5~6位がヨーロッパリーグ出場権を獲得。18~20位は自動降格。
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